著者 : 吉川凪
戦争の暗雲は平沙里にも漂っている。母の家を逃げ出してきた南姫は心身ともに病んでいた。成煥の祖母は成煥の出征を知って失明してしまう。允国は戦地に出発し、還国はひどくやつれた母の姿に衝撃を受ける。李府使家の民雨も日本で行方をくらました。もはや親日派すら何の力もなく、禹介東は面事務所を解雇され、ハイ雪子には悲惨な結末が待っていた。他方、栄光は仁川に良絃を訪ね束の間の逢瀬に喜びを得るが、二人の未来を信じられない。麗玉はソウルに来た翔吉に自らの決意を伝え、緒方は父親と名乗れないまま荘次と満州への旅に出る。女学校四年生になった尚義は日本人教師の理不尽な振る舞いに敢然と立ち向かう。
日本の敗色は今や隠しようがなく、朝鮮でもすべての物資が欠乏している。キリスト教徒の一斉検挙で投獄された麗玉は釈放されたものの、その凄惨な姿に明姫は衝撃を受けた。栄光への愛と、兄嫁との葛藤に苦しむ良絃は医師となって家を出た。晋州で寮に入り高女に通う尚義は、天皇主義者の教師に反発する内向的な少女に成長している。統営では趙俊九が醜い様で生涯の幕を閉じ、モンチは周囲の心配をよそに子持ちの寡婦媌花に求婚する。任明彬は静養のために智異山を訪れ、輝は徴用を避けて山に戻った。独立運動に関わる若者も山に逃れてきたが、過激なことを企んでいるのではないかと海道士は警戒の目を向ける。
残忍な男によって、目の前で妻と娘の命を奪われたユ・ミョンウ。犯人は捕まらず、未解決のまま15年を迎えた。犯人が古書に異常な執着を持っていることを見抜いたユ・ミョンウは、犯人を誘き出すために古書だけを扱う“記憶書店”を開店した。そこに現れた4人の怪しい客。「この中に犯人がいる」と確信し、調査をはじめるが…。家族を失った怒れる男のかつてない復讐劇が、いま始まる。
朝鮮戦争休戦の翌年、小学校を卒業したばかりの“僕”は、各地からの避難民で溢れる大邱で暮らすことになった。混乱した社会で生きる人々の哀歓が“僕”の周囲で起きるさまざまな事件とともに生き生きと描かれている。発表から三十余年を経て、今なお読み継がれるロングセラー。
同郷の友であり同志であった寛洙が牡丹江で病死したことで、吉祥は自分の生き方を見つめ直す。主治医だった朴医師の死に衝撃を受けた西姫は、心の奥底に秘めていた思いに気づく。二人は互いの存在が束縛であったことを初めて認め合う。寛洙の死は家族を再会させ、新たな絆をもたらした。還国は家庭を持ち新進気鋭の画家となり、李家に戸籍を移した良絃は女医専に学んでいる。西姫は允国と良絃について意外なことを言い出す。日本は中日戦争の泥沼から抜け出せず、物資が不足して生活は不便になるばかりだ。朝鮮語の言論は弾圧され、志願兵、創氏改名など新たな制度で朝鮮の人々はますます生きづらくなっている。
吉祥が出獄する直前、西姫は東学の流れを汲む運動の資金として新たな土地を提供した。智異山周辺での活動を再開した寛洙は官憲に居場所を知られる危険が生じ、釜山を離れる前に娘を連れてカンセの家に行く。緒方次郎、柳仁実、趙燦夏の三人は晋州の崔参判家に吉祥を訪ねた足で、統営郊外の学校に行き、教師となった明姫に会う。悲惨な結婚生活からは逃れたものの、明姫は心の平穏を得られずもがいていた。仁実と緒方は愛し合っていることを確信しながら、その関係に混乱するばかりだ。金持ちになったが親や本妻を粗末に扱う斗万に、父は意外な通告をする。日本で働いていたヤムはやつれきって平沙里に帰ってきた。
還国と共に西大門刑務所で吉祥に面会した西姫は、その帰途、釜山で盲腸炎になり手術を受けた。晋州から駆けつけた朴医師はなぜか取り乱している。その晋州ではソリムの縁談が周囲に波紋を広げ、彼女に思いを寄せていた還国と舜徹も心を乱す。独立運動に関わる錫と寛洙は執拗に警察に追われ、満州や沿海州の運動家たちも身動きが取れない。龍井を訪れた恵観は周甲と別れてあてどない旅に出る。平沙里では紀花が痛ましい最期を迎え、娘の良鉉は西姫の元で還国・允国の妹として暮らす。朝鮮を離れている良鉉の父相鉉は、明姫に意外な手紙を送る。龍が世を去り、息子の弘は龍井に移り住む決意を固める。
「漢江の奇跡」と呼ばれた高度成長期。韓国の人々が豊かな生活を夢見ていた時、呉圭原は奇抜な表現で資本主義の虚妄をついた。ウィットとユーモアで時代を軽やかに駆け抜けた詩人の軌跡を追う日本オリジナルの詩選集。
もしも隣人が異星人だったら?もしも並行世界を行き来できたら?もしも私の好きなあの子が、未知のウイルスに侵されてしまったら…?切なさと温かさ、不可思議と宇宙への憧れを詰め込んだ、韓国SF小説集。
崔参判家の屋敷を取り戻した西姫は、つらい思い出ばかりだった平沙里に、ようやく姿を現した。その秋夕の日、チャングや鉦の音は往時を思わせたものの、かつて祭の中心だった村人たちは老い、あるいは既に世を去っていた。中学校の入学準備のため長男・環国について上京した西姫は、ソウルの街角に吉祥の面影を追い求めたが、ついに再会はかなわない。龍は身分の差を乗り越えて、息子の弘を金訓長の孫娘と結婚させる。妓生・紀花(鳳順)は、誰にも告げずに相鉉の子を産んでいた。一方、任明彬の妹・明姫のように新教育を受けた「新女性」たちも自らの生き方を模索し、それぞれに思い悩んでいた。
朝鮮半島にある二つの国家。朝鮮戦争停戦後、釈放捕虜となった李明俊は、腐敗した南に留まることも硬直した北への帰還も拒み、第三国行きを希望するがー。分断された社会の本質に迫り、その対立の狭間で葛藤し続ける人間を描いた、世紀を越えて読まれるロングセラー小説。
高校の文化交流で日本から韓国へやってきたショウコは、私の家に一週間滞在した。帰国後に送り続けられた彼女の手紙は、高校卒業間近にぷっつり途絶えてしまう。約十年を経てショウコと再会した私は、彼女がつらい日々を過ごしていたと知る。表題作のほか、時代背景も舞台も異なる多彩な作品を収録。時と場を越え寄り添う七つの物語。
周囲の冷たい視線を退けて吉祥を夫にした西姫は、故郷に帰るためなら親日派と見られても平気だ。しかし、独立運動に憧れる吉祥の気持ちが離れていくことに苦しむ。朝鮮では九泉(環)も関わって、東学の残党を糾合した独立運動が画策されるが、先行きは見えない。恵観和尚は、技生・紀花となった鳳順を伴い、独立運動の現状を確かめるために間島にやってきた。懐かしい人々と再会した鳳順は、流れた歳月を思い心乱れる。一方、吉祥は金頭洙と名乗る密偵が巨福であると確信し、ついに直接対面する。ソウルでは趙俊九の財産を巻き上げる策略に、西姫の意を受けた龍井の孔老人も加わっていた。
西姫は吉祥と結婚することを考えていた。しかし吉祥は、会寧にいる子連れの若い寡婦と結婚するつもりだと言う。真偽を確かめるため、西姫は吉祥と会寧に行ってその寡婦に会い、帰りに事故で負傷する。一方、西姫に完膚なきまでに拒絶された相鉉は朝鮮に戻り、妓生になった鳳順(紀花)と再会する。平沙里を出た村人たちのその後は、いずれも楽ではない。九泉(環)、恵観和尚、吉祥と親しかった寛洙は独立運動に身を投じている。苦難の時代に、それぞれ自らの道を切り開こうとする人々の姿が、壮大なスケールで描かれる。
崔参判家の実権を握った趙俊九は、法外な小作料を取り立てるなど、その横暴さは目に余るものとなった。日露戦争に勝利した日本が朝鮮の主権を侵食し、日本の有力者につながる俊九の勢いは増すばかりだ。崔参判家の跡取り娘の西姫は、俊九に反撃できない鬱憤から吉祥、鳳順にしばしば八つ当たりする。鳳順は吉祥への思いを募らせるが、吉祥はその思いを受け入れられない。幼い頃から固い絆で結ばれていた三人の間には、微妙な亀裂が広がる。祖国存亡の危機に重なる西姫の窮状に、彼女を支えてきた人たちは俊九に反旗を翻した。追われる身となった彼らと共に、西姫は新天地を目指す覚悟を決める。平沙里を舞台とした第一部が完結。