著者 : 吉川潮
早稲田大学仏文科教授として学生に敬愛される、西条八十。彼のもうひとつの顔は、当代一流の作詞家である。叙情あふるる童謡、帝都の賑わいを描く小唄。戦時下の庶民を勇気づけた軍歌。そして、日本の新生をともに歓喜する流行歌-。名曲には秘められたドラマがあった。波瀾万丈の昭和とともに生き、1万5000もの詩を残した作詞家の生涯。
若き講釈師の群像と下足番のじいさんの何気ない交流を描いて涙を誘う名品「本牧亭の鳶」、時代遅れの声帯模写の悲哀を描く「九官鳥」、百面相一筋に生きた芸人の哀れで滑稽な末路を描く「カラスの死に場」、お囃子の女性の切ない転変を写す「老鴬」など、正調吉川節が哀切に響き渡る。色物芸人たちの純粋で愚かな優しさを紡ぐ傑作六編。
東京の麻布十番商店街に店を構える和菓子屋の開化堂は、創業以来100年続く老舗。その開化堂の菓子職人、剣持政吉は一竹薮に猛虎の吠える図柄の胸から背中にかけての彫り物でー「白虎の政」という通り名で会津若松から東北一円で鳴らしたスジ者。足を洗った白虎の政が主家の危機にドスを抱いて斬り込みに。任侠ファンなら読まずにいられない短篇6話。
辛く貧しかった境遇をバネに一躍スターの座に昇りつめ、さらに大財閥の御曹司に見初められ…。幸福の絶頂にある若きヒロインを脅かす過去からの声-「俺はおまえの秘密を知っている」…。長編サスペンス・ロマン。
亮が自分の心に住む狼の存在に気付いたのは、中学に入ってからのことだ。ある時、腕力が自慢の上級生に喧嘩を売られた。いきなり殴られ,頭に血が上った亮は向かっていった。そして叩きのめした。同級生たちが止めなければ、亮はその上級生が気を失なうまで殴り続けたに違いない。心に狼の牙を宿した男たちの劇的運命。名手が情の香り豊かに放つ書下し長篇。
男の恋人からプロポーズされたゲイボーイの純情。かたぎの友人に仁義を通す極道のまごころ。青春の夢と恋を土俵に賭ける力士の情熱-。巧みなユーモアとペーソスでつづる最新小説集。