著者 : 周防柳
御堂関白・道長に連なる藤原北家ながら傍流の御子左家は、出世レースではパッとしない家柄。当家の次男に生まれた藤原定家は、難聴を克服し、親友の藤原家隆らとともに『新古今和歌集』の選者を務めるなど、歌壇で頭角を現す。幕府に押され気味の朝廷権威を回復したい後鳥羽院は、そんな定家に、将軍・源実朝に京への憧れを植え付けるため和歌を指南せよと命ずるが…。史実をきらびやかに描きながら「百人一首」の謎を解き明かす力作長篇。
工務店を営んでいた父親が不慮の交通事故で植物状態になった。次男の次也は父の延命治療を望んだが、長男の一也はそれに異を唱えた。父が死ねば二億円の遺産が兄弟に相続されるのだ。開業資金を急ぎ必要とする兄の説得に、次也は葛藤する。一也の妻も次也にすり寄ってきて悩みを打ち明けてきた。腎臓病を患う息子の治療費が足りないという。そんななか、父の容体が急変、追い詰められた次也は、思いがけない決断を下すが…。
栄華絶頂の蘇我氏が討たれた乙巳の変から数年。緑あふれる野中の里で国史編纂に力を注ぐ父のもと、ヤマドリとコダマの兄妹はすくすくと育っていた。盲目の妹コダマは一度聞いたことはけっして忘れない聡耳の持ち主で、物語を愛する美しい少女へと成長する。だが日本の黎明に揺れる政争が、彼女を数奇な運命へと導いてー。時を越えて愛される日本神話の数々と、激動の世を生きたひとりの女性を鮮やかに描く長篇小説。続々重版した話題作が、待望の文庫化。
幼い頃に両親を亡くし、孤独に生きる青山伊津子と、死んだ姉と常に比べられ母親に否定されつづける少女・小林美羽。たび重なる不幸に耐えかね、二人は自らの命を絶つことを思い立つ。交わらないはずの二人の人生は、この世でもあの世でもない「ある場所」で交差して…。彼らに聞こえた天からのメッセージとは。
聖徳太子が編纂した、わが国初の国史。『古事記』『日本書紀』の元となり、大化の改新の端緒となった乙巳の変で焼失した“初の国史”。太陽の女神アマテラスとは?蘇我馬子の命で聖徳太子が編んだ国史をめぐる時代小説。
二十歳の女子大生が溺死体で発見された。両手首と片足首には縄で縛ったような痕があり、彼女は妊娠をしていた。最愛の娘を亡くし、晶子は呆然とする。なぜ死んでしまったのか、子供の父親は誰なのか。自殺と断定して捜査を打ち切った警察に代わり、母は残りの人生を賭けてその真相を追うことを決意する。復讐のかなたに晶子が目にした光景とはー。極限の人間心理を描く衝撃の長編ドラマ。
平安前期、文官と舞女の子として生まれた紀貫之。在原業平、小野小町ら、のちに“六歌仙”と称されるやまと歌の詠者たちと幼い頃から交流を持った彼は、歌の妙味に触れ、その才能を豊かに伸ばして育った。そして三十九歳になる頃、貫之はこの国初となる勅撰集『古今和歌集』の撰者に任命されるー。和歌史上、未だ謎の存在とされる六人の歌人に焦点を合わせ、独自の解釈で迫った歴史長編小説。
「わしはずっと八月を、くり返してきたんじゃ」。急性骨髄性白血病で自宅療養することになった亮輔は、中学のときに広島で被爆していた。ある日、妻と娘は亮輔が大事にしている仏壇で古びた標本箱を見つける。そこには前翅の一部が欠けた小さな蝶がピンでとめられていた。それは昭和二十年八月に突然断ち切られた、彼の切なくも美しい恋を記憶する品だった。第26回小説すばる新人賞受賞作。
急性骨髄性白血病で自宅療養することになった亮輔は、中学生のときに被爆していた。大日本帝国陸軍偵察機パイロットのひとり息子であった彼は、当時、広島市内に住んでいたのだ。妻と娘は、亮輔が大事にしている仏壇で、異様に古びた標本箱を発見する。そこには、前翅の一部が欠けた小さな青い蝶がピンでとめられていた。妻も娘も知らなかったが、それは昭和20年8月に突然断ち切られた、切なくも美しい恋物語を記憶する大切な品だったー。第26回小説すばる新人賞受賞作。