著者 : 垂野創一郎
世界の終わりを目の当たりにした語り手は、廃墟建築家の設計した葉巻形の巨大地下シェルターに誘いこまれる。そこで彼が夢みるのは、カストラートの七人の姪が代わる代わる語る不思議な物語。もしかしたらこちらが現実で、葉巻シェルターのほうが夢ではあるまいか。『サラゴサ手稿』風の語りの入れ子構造を持ちながら、次々繰りだされる挿話の渦は、その枠さえなしくずしに解消してしまう。音楽への愛にあふれ、オーストリア・バロックの粋をこらした魔術的遠近法。
赤毛の青年ジェラルドが先祖ドム・マニュエルのロマンスを執筆中、悪霊が現われ、お前の肉体に乗り移って現世を引き受けてやろうと言う。申し出を受け入れたジェラルドは銀の馬カルキに跨り、彼方の都アンタンに向かった。あらゆる神の終着地である彼の地を統べる文献学匠になり代わり、その王座に座るつもりなのだ。その途上、不思議な鏡の魔力で、神話的人物、英雄たちへの転生を体験したジェラルドは、至上神としての己の運命を確信するのだがー文学の古典や歴史、神話の自在な変奏により展開される“造物主/詩人への悲歌”。
独逸が生んだ怪奇・幻想・恐怖・耽美・諧謔・綺想文学の、いまだ知られざる傑作怪作奇作18編を収録。“人形”“分身”“閉ざされた城にて”“悪魔の発明”“天国への階段”“妖人奇人館”不可思議奇妙な6つの匣が構成する、空前にして絶後の大アンソロジー。ほとんど全編が本邦初訳!!
元オーストリア陸軍少尉ヴィトーリンは、大戦中に捕虜収容所の司令官セリュコフに受けた屈辱が忘れられず、復讐のためロシアへと舞い戻った。革命後の混乱のなか、姿を消した仇敵を探して旅を続けるヴィトーリン。ロシアとヨーロッパを股にかけた壮大な追跡行の果てに彼を待っていたものとは…。冒険に次ぐ冒険、若き日のイアン・フレミングが「天才的」作品と絶賛した、レオ・ペルッツの傑作。
1701年冬、シレジアの雪原を往く二人の男。軍を脱走しスウェーデン王の許へ急ぐ青年貴族クリスティアンと、絞首台を逃れた宿無しの市場泥坊は、追っ手をまくため身分を交換して、それぞれの道へ。貴族の泥坊、全く対照的な二人の人生は不思議な運命によって交錯し、数奇な物語を紡ぎ始める。北方戦争時代のシレジアを舞台に、美しい女領主、龍騎兵隊を率いる“悪禍男爵”、不気味な煉獄帰りの粉屋、“首曲がり”“火付け木”“赤毛のリーザ”をはじめとする盗賊団の面々ら、個性豊かな登場人物が物語を彩り、波瀾万丈の冒険が展開されるピカレスク伝奇ロマン。
1925年、二重帝国崩壊後のウィーン。大戦時に両シチリア連隊を率いたロションヴィル大佐は、娘のガブリエーレとともに元トリエステ総督の催す夜会に招かれた。その席で彼は、見知らぬ男から、ロシアで捕虜となって脱走した末、ニコライ大公に別人と取り違えられたという奇妙な体験談を聞く。そして宴もお開きになるころ、元両シチリア連隊の将校エンゲルスハウゼンが、邸宅の一室で首を捻られて殺害される。六日後には、事件を調べていた元連隊の少尉が行方不明となり…。第一次世界大戦を生き延びた兵士たちが、なぜ今“死”に見舞われるのか。謎に次ぐ謎の果て、明らかとなる衝撃の真相とは。二重身、白昼夢、幻視、運命の謎。夢想と論理が織りなす、世の終わりのための探偵小説。反ミステリの金字塔。
20世紀初頭に入り爛熟期を迎えた文化都市ウィーン。音楽と犯罪学に打ち込む素人探偵ダゴベルトは、友人グルムバッハ夫妻との晩餐後、葉巻と珈琲を楽しみつつ、ハプスブルグ朝末期の社交界で起きる様々な難事件解決の顛末を披露する。「クイーンの定員」にも選出されたダゴベルト探偵譚から9篇を精選。オーストリアのコナン・ドイルと称される著者の本邦初となるオリジナル短篇集。