著者 : 垂野創一郎
わたし、ゼノン・フォラウフには前世の記憶があった。以前の彼は十八世紀ドイツの男爵家の息子メルヒオール・ドロンテであり、幼い頃、回教僧の蠟人形に命を救われていた。成長して学生となった彼は放蕩と決闘沙汰の末、軍隊に身を投じる。戦争の苛酷な現実に死を決意した時、謎の回教僧が現れ再び彼を救った。その後も回教僧は折にふれ姿を現し、運命に翻弄され流浪を続ける彼の人生を導くのだった。そして物語の舞台は大革命下のパリへ。悪魔の誘惑、処刑台の悪夢、ワルプルギスの魔宴、交霊術、予言と幻視など、超自然・オカルト的要素が全篇を彩る、若き主人公のピカレスクな冒険と、魂の遍歴を描く神秘転生譚。
野党カワウソ党の陰謀で国を追われた魚類学者のクロイツークヴェルハイム男爵は、ウィスキー樽の中で六百年前から生きているスコットランドの先祖の加勢を得て、気球戦団を率いてウィーン征伐に出発するも、嵐でピレネー山麓に不時着を余儀なくされる。だがそれは世紀の発見への入口でもあった。神と人、獣と人が自在に交わる博物学の楽園で、ホムンクルスや天上界の存在をも巻き込む一大ページェントここに開幕。
世界の終わりを目の当たりにした語り手は、廃墟建築家の設計した葉巻形の巨大地下シェルターに誘いこまれる。そこで彼が夢みるのは、カストラートの七人の姪が代わる代わる語る不思議な物語。もしかしたらこちらが現実で、葉巻シェルターのほうが夢ではあるまいか。『サラゴサ手稿』風の語りの入れ子構造を持ちながら、次々繰りだされる挿話の渦は、その枠さえなしくずしに解消してしまう。音楽への愛にあふれ、オーストリア・バロックの粋をこらした魔術的遠近法。
赤毛の青年ジェラルドが先祖ドム・マニュエルのロマンスの執筆に没頭していたところに、悪霊が現われ、お前の肉体に乗り移ってお前の現世を引き受けてやろうと言う。又従妹イヴリンとの不義の関係に手を焼いていたジェラルドは申し出をうべなう。さらに以前の魔術仲間から銀の馬カルキを贈られ、彼は勇んで彼方の都アンタンに向かう。あらゆる神の終着地である彼の地を統べる文献学匠になり代わり、その王座に座るつもりなのだ。その途上、不思議な鏡の魔力によって、プロメテウス、ソロモン、オデュッセウス、ネロ、タンホイザーと、ボルヘス「不死の人」のカルタフィルスにも見まごう転生を体験したジェラルドは、あらゆる神の上に立つ至上神としての己の運命をますます深く確信するのだがーー『黄金の驢馬』『ガルガンチュアとパンタグリュエル』『ファウスト』『ドン・キホーテ』などの自在な変奏により展開される〈造物主/詩人への悲歌〉。
ドイツが生んだ怪奇・幻想・恐怖・耽美・諧謔・綺想文学の、いまだ知られざる傑作・怪作・奇作18編を収録。 ≪人形≫≪分身≫≪閉ざされた城にて≫≪悪魔の発明≫≪天国への階段≫≪妖人奇人館≫…… 6つの不可思議な匣が構成する空前にして絶後の大アンソロジー。ほとんど全編が本邦初訳!! I 人形 クワエウィース? フェルディナンド・ボルデヴェイク 伯林白昼夢 フリードリヒ・フレクサ ホルネクの自動人形 カール・ハンス・シュトローブル II 分身 三本羽根 アレクサンダー・レルネット=ホレーニア ある肖像画の話 ヘルマン・ヴォルフガング・ツァーン コルベールの旅 ヘルマン・ウンガー III 閉ざされた城にて トンブロウスカ城 ヨハネス・リヒャルト・ツアー・メーゲデ ある世界の終わり ヴォルフガング・ヒルデスハイマー アハスエルス ハンス・ヘニー・ヤーン IV 悪魔の発明 恋人 カール・フォルメラー 迷路の庭 ラインハルト・レタウ 蘇生株式会社 ヴァルター・ラーテナウ V 天国への階段 死後一時間目 マックス・ブロート 変貌 アレクサンダー・モーリッツ・フライ 美神の館・ 完結編 フランツ・ブライ VI 妖人奇人館 さまよえる幽霊船上の夜会(抄) フリッツ・フォン・ヘルツマノフスキ=オルランド 人殺しのいない人殺し ヘルベルト・ローゼンドルファー ドン・ファブリツィオは齢二十四にして ペーター・マーギンター 訳者あとがき
元オーストリア陸軍少尉ヴィトーリンは、捕虜収容所での屈辱を晴らそうと革命後のロシアへ舞い戻る。仇の司令官セリュコフを追う壮大な冒険の物語。
マイリンクは幻想文学の巧みなテロリストである。(J・L・ボルヘス) 全15編が本邦初訳、ドイツ幻想小説派の最高峰マイリンクの1巻本作品集成。 『白いドミニコ僧』『ワルプルギスの夜』の2長篇小説のほか、 短篇8編とエッセイ5編を収録。 山尾悠子推薦 「百塔の街の迷宮の主、紙の王冠を戴く男。黄金の霧に踏み迷い、鏡や錬金術やドッペルゲンガーや両性具有者たちのイメージを辿っていけばひとは迷路の奥でその男に出逢う。出口も入口もなく、高い窓がひとつあるだけの寂しい部屋でかつてゴーレムに出逢ったことも忘れない。その顔は我々じしんの顔をしており、マイリンクの名は額にくっきり焦げ付いたひとつの指の痕のようだ。」
ある小村に村医者として赴任したアムベルクは、亡父の旧友フォン・マルヒン男爵とその養子の不思議な少年と出会う。帝国復活を夢みる男爵の謎の計画に次第に巻き込まれていくアムベルク。夢と現実、科学と奇蹟の交錯がスリリングな物語の迷宮を織りなす傑作。
1701年冬、シレジアの雪原を往く二人の男。軍を脱走し大北方戦争を戦うスウェーデン王の許へ急ぐ青年貴族と、〈鶏攫い〉の異名をもつ逃走中の市場泥坊ーー全く対照的な二人の人生は不思議な運命によって交錯し、数奇な物語を紡ぎ始める。泥坊が一目で恋におちる美しい女領主、龍騎兵隊を率いる〈悪禍男爵〉、不気味な煉獄帰りの粉屋、〈首曲がり〉〈火付け木〉〈赤毛のリーザ〉をはじめとする盗賊団の面々ら、個性豊かな登場人物が物語を彩り、波瀾万丈の冒険が展開されるピカレスク伝奇ロマン。 序言 第一部 泥坊 第二部 教会?し 第三部 スウェーデンの騎士 最終部 名無し 解説
1925年、二重帝国崩壊後のウィーン。大戦時に両シチリア連隊を率いたロションヴィル大佐は、娘のガブリエーレとともに元トリエステ総督の催す夜会に招かれた。その席で彼は、見知らぬ男から、ロシアで捕虜となって脱走した末、ニコライ大公に別人と取り違えられたという奇妙な体験談を聞く。そして宴もお開きになるころ、元両シチリア連隊の将校エンゲルスハウゼンが、邸宅の一室で首を捻られて殺害される。六日後には、事件を調べていた元連隊の少尉が行方不明となり…。第一次世界大戦を生き延びた兵士たちが、なぜ今“死”に見舞われるのか。謎に次ぐ謎の果て、明らかとなる衝撃の真相とは。二重身、白昼夢、幻視、運命の謎。夢想と論理が織りなす、世の終わりのための探偵小説。反ミステリの金字塔。
20世紀初頭に入り爛熟期を迎えた文化都市ウィーン。音楽と犯罪学に打ち込む素人探偵ダゴベルトは、友人グルムバッハ夫妻との晩餐後、葉巻と珈琲を楽しみつつ、ハプスブルグ朝末期の社交界で起きる様々な難事件解決の顛末を披露する。「クイーンの定員」にも選出されたダゴベルト探偵譚から9篇を精選。オーストリアのコナン・ドイルと称される著者の本邦初となるオリジナル短篇集。