著者 : 夏樹静子
北海道に単身赴任した検事・霞夕子。凶悪事件の少ない落ち着いた日々だったが、事件発生の急報が入った。現場で捜査に加わる夕子の勘が捉えた、かすかな違和感、些細な事実。「いったい、どういうことなのかしら…」。夫と妻、父と娘、姉と弟-北の断崖に渦巻く人間関係のあや。人生の危うさ、心の弱さを見つめてきた著者による出色の短編集。
新幹線に乗り遅れたと、東京駅から新潟までタクシーを飛ばした女は、好物のはずの夕食の蕎麦をなぜ残したのか?-「乗り遅れた女」。深夜タバコを買いに出、交通事故に遭った男の妻とその犯人は、なぜ監察医に会いに行ったのか?-「三分のドラマ」。もしかしたら犯人は私だったかもしれない…。身近で緻密なミステリー6編。
だれも祝ってくれない誕生日。孤独をかみしめながら、その日彼女は無惨に殺された。現場に残されたダイイング・メッセージが事件の鍵を握る「夜更けの祝電」。不幸な結婚のせいで自殺した友人のため、復讐を企てた女の思い詰めた気持ちが切ない「早朝の手紙」。その他いずれ劣らぬ難事件を、東京地検主任検事、霞夕子が華麗に推理する。
女は毎日、まだみずみずしい花束を捨てていたー古典的探偵小説を連想させる殺人現場と、緻密な計画が意表を突く「花を捨てる女」、家出から戻った妻が別人だと親友が通報する「アイデンティティ」、次々と現れる遺言書に状況が翻る「三通の遺言」など、絶望に迷路から女たちが仕掛ける、繊細で大胆な殺人事件の数々。愛に迷う女たちの心のひだを鮮やかに編んだ推理短編集。
資産家老女の架空名義の銀行預金一億円を横領した男女銀行員。女子行員を巧みにあやつる男子行員、妻子ある彼との新しい生活設計を夢みる女子行員ー二人の愛の微妙な心理の揺れがやがて悲しい結末になっていく。男を信じようとして信じきれない女の運命を描く表題作など、卓絶したミステリー5篇。
高校時代の親友である立子と衿香は、インテリア・コーディネーターと、ファッション・コーディネーターとして、お互い励まし、競いあいながら第一線で活躍していた。しかし二人の行手には、人間関係の罠や悪意に満ちた仕事への妨害など、思いがけない障害が次々と待ち受けていた。その上、衿香のピルケースの中身がすり替えられ、大型車に追いかけられ…。新鮮なサスペンス・ロマン。
植物状態の患者の病室に、ある夜何物かが侵入し、病人の殺害を計ったが発見され逃亡した。警察の事情聴取は進むが、動機のありそうな人物は一向に浮ばない。病人に「死なれては困る」人間はいても、「殺したい」人間は皆無なのだー死角を突いた巧妙なトリックの表題作ほか、手に負えない乱暴息子を殺された母親の複雑な気持を扱った「酷い天罰」など、現代的な犯罪を描く全四編を収録。
東北出身のホステスが、都心のラブ・ホテルで、農薬が混入されたジュースを飲んで死んだ。デートの相手はなんと官内庁勤務の初老の男ー意外な犯人が浮上する「毒」。死によってでしか愛を確認できなかった男女の行く末を澱んだ湖面に象徴させた、ロマンチックな雰囲気の「湖」ほか、ありふれた日常の陰に隠された女たちの殺意を、綿密な取材と玲悧な文体で描く本格派ミステリー5編収録。
女子プロ・餅田翔子は、日本女子オープン予選2日目、短い髪でサングラスをかけたヤクザ風の男の視線が気になり、スコアを崩した。あの男は、半年前にゴルフのプレイ中、事故死したあの人の息子ではないのか-。3日目の夜、ホテルの部屋のドア下に便箋があり〈重大な話あり。明日の試合後、地下のバーで待つ。来ないと後悔するぞ〉。ミステリー界の重鎮が、女子プロゴルフ界の内幕をベースに、殺人事件の謎と、勝負師の孤独ときびしさとを、サスペンスタッチで描く戦慄の渾身巨編。