著者 : 姫野カオルコ
昭和ー平成ー令和。それぞれの時代の風俗を巧みに取り込みながら、容姿への疑問と不安を物語に昇華させた連作集。美貌も知名度も偏差値も功績もすべてをぶっとばす、あの部分。ルッキズムの悪口は蜜の味?ヒメノ式「家族の寓話」へようこそ。
コロナ禍のさなか、家でひきこもっていた女性が見つけた名簿と一冊の本。地方の高校に通っていた記憶が、映画を見ているかのように浮かびあがる。『ラブアタック!』、『パンチDEデート』、「クミコ、君をのせるのだから。」、ミッシェル・ポルナレフ、スタイリスティックス、『ミュージック・ライフ』、『FMレコパル』、旺文社のラジオ講座…そして、夜の公衆電話からかけた電話。「今からすれば」。見る目を広めた彼女の胸に、突如湧き上がる思いとは。
命の危険はなかった。けれどいちばん恐ろしい場所は“我が家”でしたー。母の一周忌があった週末、光世は数十年ぶりに文容堂書店を訪れた。大学時代に通ったその書店には、当時と同じ店番の男性が。帰宅後、光世は店にいつも貼られていた「城北新報」宛に手紙を書く。幼い頃から繰り返された、両親の理解不能な罵倒、無視、接触についてー。親という難題を抱える全ての人へ贈る相談小説。
私は東大生の将来をダメにした勘違い女なの? 深夜のマンションで起こった東大生5人による強制わいせつ事件。非難されたのはなぜか被害者の女子大生だった。 現実に起こった事件に着想を得た衝撃の書き下ろし「非さわやか100%青春小説」! 横浜市郊外のごくふつうの家庭で育った神立美咲は女子大に進学する。渋谷区広尾の申し分のない環境で育った竹内つばさは、東京大学理科1類に進学した。横浜のオクフェスの夜、ふたりが出会い、ひと目で恋に落ちたはずだった。しかし、人々の妬み、劣等感、格差意識が交錯し、東大生5人によるおぞましい事件につながってゆく。 被害者の美咲がなぜ、「前途ある東大生より、バカ大学のおまえが逮捕されたほうが日本に有益」「この女、被害者がじゃなくて、自称被害者です。尻軽の勘違い女です」とまで、ネットで叩かれなければならなかったのか。 「わいせつ事件」の背景に隠された、学歴格差、スクールカースト、男女のコンプレックス、理系VS文系……。内なる日本人の差別意識をえぐり、とことん切なくて胸が苦しくなる「事実を越えた真実」。すべての東大関係者と、東大生や東大OBOGによって嫌な思いをした人々に。娘や息子を悲惨な事件から守りたいすべての保護者に。スクールカーストに苦しんだことがある人に。恋人ができなくて悩む女性と男性に。 この作品は彼女と彼らの物語であると同時に、私たちの物語です。
あれは、そういうことだったのか…。なぜか鮮明に刻まれたこどもの頃の記憶。大人になった今だからこそ、本当の意味に気づくことがある。-三歳の私は、なぜ欲しくもない「特急こだま号」の玩具をねだったのか。六歳の時の夏休み、「あの崖」の近くで過ごした情景は、たのしい記憶のはずなのになぜ私を苦しくするのか。まだ洗練されていなかった昭和と現在が交錯する短編集。
昭和三十三年滋賀県に生まれた柏木イク。気難しい父親と、娘が犬に咬まれたのを笑う母親と暮らしたのは、水道も便所もない家。理不尽な毎日だったけど、傍らには時に猫が、いつも犬が、いてくれた。平凡なイクの歳月を通し見える、高度経済成長期の日本。その翳り。犬を撫でるように、猫の足音のように、濃やかで尊い日々の幸せを描く、直木賞受賞作。
二十歳の繭村甲斐子は、大きな瞳と高い鼻、豊かな乳房とくびれたウエストを持つ女性だった。だが、彼女は名医・大曾根に懇願し、全身整形をする。一方、同郷の望月阿倍子も、社会人となった新生活を機に整形。その姿は甲斐子そっくりになった。正反対の考えのもと、整形をした二人の、整形後の運命はいかにー。美しさとは?幸福とは?根源を問う衝撃作。
恋愛で結びつくなどという結婚は、働かないと食べてゆけない人がすることー。上流階級でしか暮らせない男女のめぐり逢いを、醒めた文体で描いた、四篇からなるロンド小説。欲望を経た純愛、秘かな被虐性愛、静かに熱を帯びる片恋、南島での邪淫。満ち足りた暮らしの満たされない孤独を、四組の「わたし」と「藤沢さん」が織りなす。異才が贈る、正しい背徳と倦怠。
大正に生まれ、見合い結婚で大阪に嫁ぎ、戦火をくぐり抜け、戦後の自由な時代の波に乗り…。人生の荒波にもまれつつも、平凡な少女は決して後ろ向きになることなく、その魅力を開花させ、みんながハルカの天真爛漫なキャラクターに引き込まれていく。ヒメノ式「女の一生」、直木賞候補の傑作長編。
近畿地方の田舎町。長命商店街の娘、田中景子は、京美の“グループ”に入りたくてたまらなかった。“可愛い女子のグループ”に。Jみたいな子が入れて、なぜ自分は入れないの?私とJは何が違うの?同級生Jへの嫉妬に苛まれながらも、初恋にときめいたあの頃を景子は回想する。「青痣(しみ)」。『ツ、イ、ラ、ク』のあの出来事を6人の男女はどう見つめ、どんな時間を歩んできたのか。表題作「桃」を含む6編を収録。
地方。小さな町。閉鎖的なあの空気。班。体育館の裏。制服。渡り廊下。放課後。痛いほどリアルに甦るまっしぐらな日々-。給湯室。会議。パーテーション。異動。消し去れない痛みを胸に隠す大人達へ贈る、かつてなかったピュアロマン。恋とは、「堕ちる」もの。
深夜の寄宿舎を徘徊し、出会った者のたましいを奪うという巨大な青い猫の噂。どこにでもある「学校の怪談」のはずだったが、母は女学生時代にその猫を見たことがあるのだという…。平穏な日常に潜み、ふいにその姿をのぞかせる恐怖。その本質を描く、著者初のホラー短編集。
秋原健一、四十三歳、ふつうの会社員。波多野妙子、OLを辞めた三十歳。それぞれに過去の小さくも苦い思いを抱えた男と女は、通勤の京浜急行で出会い、途中下車した駅の蕎麦屋でせいろをすすり、ただテレビを観る。淡く、不思議な甘さに包まれながらー。爽やかな感性の触れあいを描いた表題作他二編収録。日常に潜むふとした喜びやせつなさを掬い取った可憐な短編集。
かけがえのない、高校生だった日々を共に過ごした四人の男女。テストにやきもきしたり、文化祭に全力投球したり、ほのかな恋心を抱いたりー。卒業してからも、ときにすれ違い、行き違い、手さぐりで距離をはかりながら、お互いのことをずっと気にかけていた。卒業から20年のあいだに交わされた、あるいは出されることのなかった手紙、葉書、FAX、メモetc.で全編を綴る。ごく普通の人々が生きる、それぞれの切実な青春が、行間から見事に浮かび上がるー。姫野文学の隠れた名作。