著者 : 安藤哲行
キューバの作家、レイナルド・アレナスの『夜明け前のセレスティーノ』に続く〈ペンタゴニア〉五部作の第二作目。バティスタ政権崩壊とカストロの革命政権の交代期に、貧しい生活にあえぐ家族に囲まれて思春期を送る青年フォルトゥナートを主人公に、現実と非現実、人称の境を飛び越えながら、生の苦難と魂の叫びを描く。パワフルな言葉が紡ぎだすめくるめく小説世界。 第一部 プロローグとエピローグ 一 蠅 第二部 不平不満のある者たちが話す 最初の苦悩 二つめの苦悩 三つめの苦悩 四つめの苦悩 五つめの苦悩 二 蠅 第三部 上演 六つめの苦悩 三 蠅 訳者あとがき
【国書刊行会 創業50周年記念復刊】 〈真の創造の奇跡〉を、ここにふたたび。 〈この家はいつも地獄だった。みんな死んでもないのに、もうここでは死んだ人たちの話ばっかり。……でも暮らしがほんとに悪くなったときだった。セレスティーノが詩を書こうと思いついたのは。かわいそうなセレスティーノ! いまぼくには彼が見える。居間のドアの陰に坐って両腕を引き抜いている……〉 母親は井戸に飛びこみ、祖父は自分を殺そうとする。 寒村に生きる少年の目に鮮やかに映しだされる、現実と未分化なもう一つの世界。 ラテンアメリカの魔術的空間に、少年期の幻想と悲痛な叫びが炸裂する! 『めくるめく世界』『夜になるまえに』のアレナスが、さまざまな手法を駆使して作り出した奇跡の傑作。 『夜明け前のセレスティーノ』はリズムである。 ちょうどその著者がリズムであったようにーーファン・アブレウ *** 〈アチャス アチャス アチャス アチャス アチャス アチャス アチャス アチャス アチャス アチャス アチャス アチャス アチャス アチャス アチャス アチャス アチャス アチャス アチャス アチャス…… 斧(アチャス)の音がしないとぼくは眠れない。止まるな! 止まるな! 止まるな!〉 〈「斧(アチャス)はどんな音たてる?」 「パスッって音、まるで空中で鳴きつづけてる霊みたいに」 「斧(アチャス)はどんな音たてる?」 「パスって音……。パスッ……」〉 *** 少年期を、そしてキューバの生活を描いた最も美しい小説の一つ。 カルロス・フエンテス(作家) この並外れた小説を読むことは創造の真の奇跡と接触することだった。新鮮な爽やかさへ、旧態を打破するような恐れを知らない屈託のなさへと通じる空間にわたしを近づけてくれたのだ。危険にみちた領域に。 ……いま日本の読者の手に届くこの本は、思春期の輝かしい時代に、このうえない教訓をわたしに与えてくれた。つまり、「本当の文学とはわたしたちを変わり者にする文学、わたしたちを危険にさらす文学である。書くことはひとつの仕事ではなく、呪わしい儀式なのだ」という。 フアン・アブレウ(作家/画家) --本書日本語版のための特別エッセイ「ハバナの奇跡」より 『夜明け前のセレスティーノ』をどう語ったらいいか。濃緑の草がしゃべり出したような本だ。木の幹に詩を書くセレスティーノと、彼のいとこ「ぼく」。むきだしの生と死、暴力と抑圧。自由と抵抗の根っこには「詩」がある。叩きつけるリズムが日本語に乗り移った。 小池昌代(詩人/作家) --『私が選ぶ国書刊行会の3冊 国書刊行会創業50周年記念小冊子』より 夜明け前のセレスティーノ ハバナの奇跡(フアン・アブレウ) 訳者あとがき(安藤哲行) 新装版に寄せて(安藤哲行)
家の前に母親と住む汚い子供、酒浸りの高校時代、幽霊屋敷、子供と小動物の殺し屋、通りで見つけた頭蓋骨、鎖で脚をつながれた子供、黒い水から生まれた奇形児たち、「燃える女たち」の反乱…。読み進めるうちに、底知れぬ恐怖に満ちた現実に囚われていく。ラテンアメリカ新世代の“ホラー・プリンセス”が作りだす濃密なゴシックワールド。
メキシコの作家フアン・ホセ・アレオラの作品集Confabularioの日本語訳。 「明晰な理性に統べられた、無限の想像力の自由」、ボルヘスは、フアン・ホセ・アレオラをこう評している。 寓話とも、罪のない小噺とも、皮肉みなぎる笑劇とも取れるその作品たちをどう読み、どう味わうかは、著者とあなた(読者)の「共謀」しだい。 代表作「転轍手」「驚異的なミリグラム」をはじめ、28の掌篇・短篇を収めた作品集。 記憶と忘却 共謀綺談 山々が出産しようとしている まことに汝らに告ぐ サイ トリクイグモ 転轍手 弟子 エバ 村の女 ロードスのシネシウス 反抗的な人間の独り言 驚異的なミリグラム ナボニドゥス 灯台 悼んで バルタザール・ジェラール(一五五五⊖一五八二) ベビー・H・P お知らせ 弾道学について 調教された女 パブロ 物々交換のたとえ話 悪魔との契約 改宗者 神の沈黙 地の糧 評判 物語歌謡 下手な修理をした靴職人への手紙
アインシュタイン、フォン・ノイマン、ゲーデル、ハイゼンベルク、シュレーディンガー…実在するノーベル賞級科学者たちが織りなすタピスリー。ヒトラー暗殺計画、不確定性原理、ナチスの核開発、ゲーム理論、聖杯伝説など、政治と科学と愛と欲望が入り乱れる。ラテンアメリカ新世代の旗手による最高傑作、ついに刊行!!
一番小さくあれば大きくもある、そのうえ、けっして抜けだしえない、〈心〉という迷宮。この迷宮から抜けだそうとする主人公の旅の行方は?ポレミックな美術批評を展開しつつ、文学においても特異な世界を創造した、急逝惜しまれるマルタ・トラーバの傑作。
「わたしがメキシコの石壁を背に立たされて蜂の巣にされたという話を聞くことになったら、思い出してほしい。それはこの世とおさらばするには願ってもない方法だとわたしが考えていたことを。それは、老衰や病死、地下室の階段での転落死にまさる。メキシコで異邦人であること-ああ、それは安楽死だ!」不可思議な手紙を最後に、メキシコ革命の戦塵の中に消息を絶ったアンブローズ・ビアス。その謎の最期を、アメリカ人女性、メキシコ革命軍士官との愛憎のなかに、事実と虚構を混然とさせながら描く。ジェーン・フォンダ、グレゴリー・ペック主演映画原作。