著者 : 宮尾登美子
土佐の13人の女たちから紡いだ13の物語。おきみさん、おときさん、おまつさん…、南国土佐の女たちの人生から着想を得て、著者が初めて試みた“ルポルタージュ・フィクション”である。高知の特産物や風物詩、名所などが鍵言葉となり、幾何かの波乱を含んだ女たちの人生と絡みあう13の短篇集。抗えぬ運命や襲いかかる困難に翻弄されながらも、健気に気丈夫に生きる故郷の女たちの気質が巧みに描かれている。
大正末年から昭和十年代の激動期。詐欺師や博奕打ち、やくざ者を相手に身体を張って生き抜く遊郭の女たちの忘れえぬ肖像と、生き馬の目を抜く世界での己の苛烈な生きざまを、岩伍の独特の語りを通して綴る宮尾文学の名作。文字が大きく読みやすい、新版登場。
皇室の外戚としてなんとしても権威を得たかった徳川家康。天皇の在位さえも意のままに操り、二代将軍秀忠の娘・和子を、天皇家へお輿入れさせるべく動く。生まれたときから運命を定められた和子が十四歳にして帝へと嫁ぐ、その胸に秘めていた想いとはー。女たちの生き様、心情を丹念に描いた傑作歴史小説!
将軍家から朝廷に嫁いだ和子は、宮廷の女たちの巧妙な妨害により、帝と心を通わすことがなかなかできずにいた。周囲のはからいでようやく二人の仲が深まったのは、入内から二年四ヵ月後であった。和子はあまたの子をもうけ国母となるも、幸福は長続きしない…。愛と哀しみに翻弄された生涯を描く大作、感動の結末へ!
大正四年、鬼龍院政五郎は故郷・土佐高知の町に男稼業の看板を掲げ、相撲や飛行機の興行をうったり労働争議に介入したりの華やかな活躍を見せる。鬼政をとりまく「男」を売る社会のしがらみ、そして娘花子・養女松恵を中心とした女たちの愛憎入り乱れた人生模様を、女流作家独自の艶冶の筆にのせた傑作長篇。
東京から高知県庁へと赴任した薬事課長・小杉。地元薬品業界の悪質な官民癒着に立ち向かう彼を、利害で結ばれた濃密な人間関係の壁が阻む。一方で美貌の人妻・晃子との秘密の恋が、小杉をのみこむ。南国の熱気、情念に満ちた女たち、闇を抱えた男たち、そして突然の死ー。高知を舞台にした後年の自伝小説群に連なる、情感あふれる筆致が冴える。著者若き日の、謎を孕んだ恋愛小説。
義仲・行家ら、源氏勢の入洛が迫る。この先、どんな運命を辿るのか。前途に光明が見えぬなか、平家一門は幼い安徳天皇と三種の神器を戴いて、とるものもとりあえず都から逃げ落ちる。西国の一ノ谷、屋島、そして壇ノ浦へ。最後の闘いの火蓋が切られた。諸行無常の響きが全編を貫く、壮大なる歴史絵巻、全巻完結。
福原遷都を強行した清盛だが、頼朝の伊豆挙兵を機に、各地で源氏が蜂起、また富士川の合戦前夜には平家軍が戦わずして無残に敗走、と憤懣やるかたない日々が続く。わずか5ヵ月で京へ都返り、それから程なく原因不明の熱病により、ついに清盛は力尽きるー栄華を極めていた平家の、没落への序曲を描く著者畢生の大作、第3巻。
保元・平治の戦いに相次いで勝利をおさめ、平清盛は武士として、栄華の絶頂を極める。しかし高位を独占する平家の横暴ぶりに、不満を募らせる源氏や貴族勢は、打倒平氏の準備を着々と進めていたー鹿谷の謀議発覚後、後白河法皇の裏切りに業を煮やした清盛は、ついに法皇を幽閉し、幼い安徳天皇を連れて福原遷都を強行する。
清盛7歳。死別した母を思慕する少年は、平家の統領である父のもとに引き取られる。出生の秘密が暗い影を落とすなか、自らの運命を受け止め、強い決意をもって乱世を生き抜いていくー。清盛を中心に平家一族の視点から物語をとらえ、宮尾作品の醍醐味である女たちのドラマをふんだんに織り込んだ、壮大なる歴史絵巻。
土佐藩の上士の娘・苗は、祖母・袖の嗜みであった一絃琴を5歳の時に初めて聴き、その深い音色に魅せられた。運命の師有伯と死別した後、結婚生活で一度は封印したものの、夫の理解を得て市橋塾を始め、隆盛を極めた。その弟子となった蘭子は苗との確執の果て、一絃琴の伝統を昭和に伝える…。直木賞受賞作。
十八歳で藩主斉彬の養女となった篤姫は薩摩島津家分家に生まれた学問好きな姫であった。その才覚、器量を見込んだ斉彬は画策の末、篤姫を十三代将軍家定の正室として江戸城に送り込んだ。形ばかりの結婚に耐え、病弱な夫を支え将軍御台所として大奥三千人を見事に統べる篤姫には、養父斉彬の密命が…。2008年大河ドラマ原作。
将軍家定の急死、継嗣をめぐる幕府内の対立、養父斉彬の死。篤姫は、家定との結婚が斉彬の遠大な野望であったことを知り慄然とする。天璋院となったのちも総帥として大奥を統べ、皇妹和宮の降嫁、大政奉還等、激動の幕末を徳川家の人間として徳川宗家のために生き抜いた篤姫の偉大な生涯を描いた歴史長編。
あたりを払って誇り高く咲くキレンゲショウマ。「私はこの花に会うため、お山さんに来たのではないか」珠子は心打たれた。吉野川沿いの養護施設で育った珠子は、十五歳で霊峰・剣山にある神社の神官の養女となる。清澄な自然を背景に、無垢な魂を持ち続ける少女の成長と恋を描き、新鮮な感動を呼ぶ長編。
権謀術数の上に築かれた地中海世界。シーザー亡き後、ローマの総督となったアントニーは、クレオパトラと再会、たちまち恋に陥る。世界大国を夢み、東方遠征を企てる二人の運命は破滅へと加速していく…。華麗にして波瀾に富んだ女王の生涯が蘇る宮尾文学の粋。
「芸妓娼妓紹介業」の看板をかかげ、次々と貰い子をする父と、迎え入れる家族の葛藤、そして貰われてきた娘たちの哀しみ。複雑な家庭で共に暮した人々の人生を描いた表題作のほか、処女作「村芝居」、連作「宿毛にて」など、初期と円熟期の名品八篇を収録。宮尾文学の源流ともいうべき、ファン必読の短篇集。
高知の下町に生れ育った喜和は、十五の歳に渡世人・岩伍に嫁いだ。芸妓紹介業を営み始めた夫は、商売にうちこみ家を顧みない。胸を病む長男と放縦な次男を抱え必死に生きる喜和。やがて岩伍が娘義太夫に生ませた綾子に深い愛をそそぐが…。大正から昭和戦前の高知を舞台に、強さと弱さを併せもつ女の哀切な半生を描き切る。作者自らの生家をモデルに、太宰治賞を受賞した名作。
徳川二代将軍の娘和子は、史上初めて、武家から朝廷に嫁ぎ、「稀なる福運の姫君」と称えられた。戦国を毅然として生きた女性・お市の方の血を引いて、自らの苦悩は決して語らない女性であったが、宮廷の冷たい仕打ちは、中宮の紅絹の布が知っていた…。涙を秘めた慈愛の国母を描いて、深い感動をよぶ長編小説。
三重の山林王の一人娘として何不自由なく育った葵は、従兄と結ばれ、二児にも恵まれた。しかし、その幸福な結婚生活も束の間、夫の急逝、両親の相つぐ死、二児の死と次々に不幸に襲われる。失意の底にあった葵が見出したものは、日本の香道の復興という大事業への献身であった…。度重なる不幸から立ち直り香道の復興に一身を献げた女の生涯。