著者 : 富田常雄
紘道館の俊英姿三四郎に、苛烈な試練が次々と襲いかかる。柔術諸派との興廃を賭けた対決につづくアメリカ人ボクサーとの変則的な興行。その陰には、怨みを越えて彼を慕う乙美を身売りから救おうとする強い決意が秘められていた。だが、金銭を得る興行は、紘道館からの破門を意味していた…。快男児の激情と懊悩を、柔道の苦難の青春期に重ね合わせて描く渾身のロマン、いよいよ波乱万丈。
愚庵和尚から柔の技を学んだ帝大生の矢野は、やがて師の元を離れ、学問と翻訳業のかたわら、独自の柔の道を歩み始めた。その頃、危難を救った縁で知り合った千賀子と将来を約束するが突然、二人の上に絶望的な影が射した。維新前夜、肥後藩士だった千賀子の父の横暴に怒り、刺殺したのが矢野の父だったのだ。自由民権の息吹きと東京下町を舞台に描く柔道小説完結篇。
甲賀の忍者・猿飛佐助は、主人・真田幸村を敬愛していた。その幸村は、豊臣秀頼の要請に応じ関東方との合戦に備える大阪城に入った。しかし盟主秀頼はいまだ若年、大阪方の人心も腐敗しきっていた。城内は関東方の放った間者が跳梁し、幸村が狙撃され、秀頼も毒殺されんとした。佐助の働きで辛じてこれを防ぎ、野戦を主張する幸村が城外に出丸を急造し終えるころ、冬の陣が始まった。長篇歴史ロマン。
旗本の三男、山瀬仁三郎こと不知火の仁吉は、深夜出会った美女野々山操が肥後宇土藩主細川元政を仇と狙う事情を知り、細川家の内情を探り始める。その頃、江戸市中を騒がす盗賊日本左衛門と鼠小僧次郎吉が夜の巷を横行。そのうえ奇怪な朱鞘の浪人が出没し、剣魔情鬼と恐れられていた。敢然、百鬼夜行の大江戸に乗り出したのは、千変万化、姿を変えて活躍する天下御免の新隠密《阿ノ一番》-。長篇時代小説。
幕府隠密以上の権限を持ち、江戸参勤の大名の動静を探る《阿ノ一番》山瀬仁三郎こと不知火の仁吉の活躍で,宇土藩主細川元政抹殺を謀る家老らの奸計が明るみに出た。さらに、悪家老に殺されたはずの細川家の家臣・中江銀之助こと朱鞘浪人港伝次郎は紅蓮の炎と大捕物陣に囲まれ、壮絶な死闘を展開していた。その網の目の外で繰り拡げられる日本佐衛門と鼠小僧の対決の場へ急ぐ《阿ノ一番》-。長篇時代小説。
徳川三代将軍家光の治世、泰平の世が続き、武士も文弱に流れたとはいえ、まだ豊臣家残党の策動が絶えなかった。武骨一徹の旗本大久保彦左衛門の次男大八郎は父に似ず、その軟弱ぶりを、水野十郎左衛門ら旗本奴白柄組に嘲笑される始末。そんな頃、浜竜四郎と名乗る剣客が無法者を懲らしめているとの噂が流れた。青年武士大八郎をめぐる剣と愛慕の渦を描く長篇時代小説。
無法者を懲らす剣客浜竜四郎は大八郎のもう一つの顔だった。一方、徳川幕府転覆を企む流兵馬一味は浜竜四郎の名を騙り、辻斬りを働いて江戸市中を震え上らせた。兵馬の妹越路太夫を白柄組の毒牙から救い一心太助に匿わせたことで大八郎は許婚伊佐緒の父から絶縁、父彦左衛門からも勘当されてしまった。同じく家を出た伊佐緒と共に太助の世話を受け、大八郎は兵馬一味を追った。長篇時代小説。
伊井直人は名ばかりの伊達家剣道指南役、若妻定の薙刀にも敗れた直人は、面あてに妻との閨房も断って出奔した。一方、定との不倫を疑われた弟子の仏子四郎五郎も旅の途次、真田幸村の遺児磯姫らが隠れ棲み武技を磨く加賀山中の地で直人に再会。妬心に狂う直人から逃れ江戸での御前試合を目指したが、諸国から集まる武芸者の中には直人、定、さらに仏子を慕って里を出た磯姫の男装姿があった…。時代娯楽巨篇。