著者 : 小竹由美子
追っ手を逃れてニューハンプシャーからボストンへ、そしてヴァーモントへ移り住んだ料理人とその息子。成人した息子は作家として成功し、父親となるが、やがて愛する者たちを次々に失ってしまう。運命に導かれるように、気づけば彼は故郷の町の川のほとりに辿り着き、かつて自分を守ってくれた樵の物語を書き始めるー。ハートフルで壮大、待望の最新長篇。
マリアムには娘も知らない過去があった。イランの都市マシャドの邸宅に要人の娘として生まれ、ある出来事をきっかけに、父によってイギリスへと送られたのだ。英国人青年を夫とし、平穏な家庭を築いてきたマリアム。だが40年を経て、かたく封印してきた懐かしくも忌まわしい過去を辿る旅に出る。遥かなる故郷と引き裂かれた恋人への思い。長い年月をともに過ごしながら残された夫の哀しみ。そして、揺れる母をみつめる娘のまなざし。イラン系英国人作家によるデビュー長篇。
モスクワからやってきた従妹との甘く苦い恋の顛末を描く表題作ほか、「世界で二番目に強い男」「思い出を偲ぶ場でケダモノのように」などカナダへ移住したロシア系家族の人生のひとこまを描く全七篇。淡々とした文章。ぬくもりとユーモア。「ニューヨーカー」の編集者も舌をまく傑出した語り口。チェーホフの再来と大好評を博した連作短篇集。
有名人のサインを売買し、そのあがりで悠々暮らす“直筆商”アレックス。密かな哀しみを抱きしめたまま、お気楽かつ自堕落に生きている。亡父が縁を結んでくれた古なじみの友人たちに十年越しの恋人。ロンドン郊外での代わりばえのしない日常に、少年時代から純情を捧げてきた伝説的映画女優の直筆サインが大嵐を巻き起こす。一行おきにはじける笑い、なのにじんと胸にしみる読後感。衝撃のデビュー作『ホワイト・ティース』から3年。現代社会と“シンボル”という壮大なテーマに、とめどなくコミカルな表現で挑んだ世界中の読者待望の最新作。
ロンドン下町育ちの優柔不断男アーチーと、バングラデシュ出身の誇り高きイスラム教徒サマード。似ても似つかないこの二人の友情を軸に、19世紀からミレニアムにいたる時空間を往還しつつ、カオスの都ロンドンを活写する。ディケンズ/ラシュディばりのストーリーテリングにインディーズの心意気。新世紀初の偉大な才能と称えられた、ジャマイカ系大型新人のデビュー長篇。ウィットブレッド賞処女長篇賞、ガーディアン新人賞、英国図書賞新人賞、コモンウェルス作家賞最優秀新人賞受賞。