著者 : 小野不由美
叔母から受け継いだ町屋に一人暮らす祥子。まったく使わない奥座敷の襖が、何度閉めても開いている。 (「奥庭より」) 古色蒼然とした武家屋敷。同居する母親は言った。「屋根裏に誰かいるのよ」(「屋根裏に」) ある雨の日、鈴の音とともに袋小路に佇んでいたのは、黒い和服の女。 あれも、いない人?(「雨の鈴」) 田舎町の古い家に引っ越した真菜香は、見知らぬ老人が家の中のそこここにいるのを見掛けるようになった。 (「異形のひと」) ほか、「潮満ちの井戸」「檻の外」。人気絶頂の著者が、最も思い入れあるテーマに存分に腕をふるった、極上のエンターテインメント小説。 宮部みゆき氏、道尾秀介氏、中村義洋氏絶賛の、涙と恐怖と感動の、極上のエンターテインメント。
「山」と「海」──それは私たち人間にとって、最も身近な「異界」です。深い森の奥や暗い海の底には、今もなお、人知の及ばぬ神秘の世界が広がっています。天狗や山人、海坊主や舟幽霊といった山妖海怪は、そうした異界に対する畏怖の念が生み出したものなのかも知れません。 山の怪異、海の恐怖──それらはまた、小説から実話まで、古今の怪談文芸の得がたい源泉ともなってきました。とりわけ近年は、田中康弘『山怪』シリーズの記録的な大ヒットを契機に、「山の怪談」本が熱い注目を集めています。斯界の先覚者・安曇潤平の一連の著作や『里山奇談』のヒットも記憶に新しいところです。 本誌は2008年刊行の第8号で、いちはやく「山の怪談」を特集し、現在のブームに10年近くも先駆けて、トレンド形成に先鞭をつけました。そこで今回の特集では趣向を変えて、「山」と「海」の怪談文芸を対比的に取りあげます。ふたつの異界のはざまに、私たち日本人が何を垣間見、何を語り伝えてきたのか……御期待ください! 『幽』編集顧問 東 雅夫 特集「山妖海怪、奇奇怪怪」 ●巻頭グラビア 宇佐見まこと書き下ろし「獺祭」+玉川麻衣作品 ●日本怪談紀行/怪談巡礼印象記 恐山から仏ヶ浦へ 加門七海/東雅夫 ●名作復刻 幸田露伴「幻談」/上田哲農「枕」/安部公房・山下彌三左衛門対談 ●競作 安曇潤平/黒史郎/里山奇談チーム ●エッセイ 小池真理子/樋口明雄/朱野帰子/安田登 ●論考 田中康弘/川島秀一 ほか 小説連載 京極夏彦/小野不由美/有栖川有栖/初野晴/山白朝子/円城塔/恒川光太郎/近藤史恵/織守きょうや 実話連載 福澤徹三/中山市朗/松村進吉/安曇潤平/藤野可織/小池壮彦 漫画連載 波津彬子/高橋葉介/諸星大二郎/押切蓮介/花輪和一 ほか エッセイ&書評&企画 南條竹則 ほか 特別企画 「カクヨム異聞選集」選考会リポート 稲川淳二 ほか
逆転に次ぐ逆転、超絶トリック、鮮烈な美しさ。死してなお読者を惹きつけてやまないミステリーの巨匠、連城三紀彦を敬愛する4人が選び抜いた究極の傑作集。“誘拐の連城”決定版「ぼくを見つけて」、語りの極致「他人たち」、最後の花葬シリーズ「夜の自画像」など全6編。巻末に綾辻×伊坂×米澤、語りおろし特別鼎談を収録。 どれも超高密度(綾辻) 普通は書けない。(伊坂) 驚きは屈指のもの。(小野) その「技」は魔法的(米澤) 四人の超人気作家が厳選した究極の傑作集。 特別語りおろし巻末鼎談つき! 逆転に次ぐ逆転、超絶トリック、鮮烈な美しさ。死してなお読者を惹きつけてやまないミステリーの巨匠、連城三紀彦を敬愛する4人が選び抜いた究極の傑作集。“誘拐の連城”決定版「ぼくを見つけて」、語りの極致「他人たち」、最後の花葬シリーズ「夜の自画像」など全6編。巻末に綾辻×伊坂×米澤、語りおろし特別鼎談を収録。 【目次】 「ぼくを見つけて」 「菊の塵」 「ゴースト・トレイン」 「白蘭」 「他人たち」 「夜の自画像」 特別鼎談 ミステリー作家連城三紀彦の魅力をさらに語るーー綾辻行人×伊坂幸太郎×米澤穂信
いっけん「怪談」よりも「伝奇小説」「時代小説」「ミステリー」のイメージが強烈な山田風太郎。だがその名も『怪談部屋』『二十世紀怪談』をはじめとする初期の奇想小説のみならず、その根幹には常に「怪異なるもの」に対する偏愛が、如実に窺われる。〈忍法帖〉シリーズの忍者たちが繰りだす超絶忍法の数々に脈打つ怪奇幻妖趣味しかり。有名な三遊亭圓朝の怪談復権アジテーション(『真景累ヶ淵』冒頭)から物語が語りだされるゴースト伝奇ストーリー『幻燈辻馬車』しかり。あるいは、死神さながら膨大な「死」の瞬間を凝視した特異なノンフィクション『人間臨終図巻』またしかり。その奔放多彩な文業はまさしく「二十世紀の怪談」を志向していたとも云えるのではないだろうか。今回の特集では、怪談専門誌としての独自のスタンスから、今も多くの作家たちの畏敬をあつめる現代エンターテインメントの巨人「山風(ヤマフウ)」の一面に、斬新なアプローチを試みる。巻頭では水木しげる氏が漫画化し、さらに京極夏彦氏が彩色を施した「大いなる幻術」をカラー12Pで掲載!貴重なインタビュー再録や、筒井康隆氏、貴志祐介氏が語る風太郎作品の魅力、菊地秀行氏、仁木英之氏、花房観音氏による短編競作など計約60P。
世にありとある怪談は、文芸作品であれ映像作品であれ、「事実」と「虚構」を両端に据えた、面妖なるグラデーションのいずれかに位置づけられるはずだ。 その領域を、事実と虚構のボーダーランドと呼ぶことも可能だろう。近年、主に映像分野で注目を集めてきた「フェイク・ドキュメンタリー」もしくは「モキュメンタリー」は、そうした怪談本来の特性をいわば逆手にとることで、日常を切り裂き、現実を震撼させようとしてやまない、いかがわしくも魅力的なジャンルである。おりしも、それら映像作家の営為に挑発されるかのごとく、小野不由美の『残穢』を筆頭に、『幽』で連載中の京極夏彦『虚談』や辻村深月の最新刊『きのうの影踏み』など、虚実皮膜のあわいに果敢に踏み込む文芸作品も相次いでいる。 怪談という表現の本質を、いま一度、見つめ直すために──『幽』次号は「リアルか、フェイクか」というテーマで、怪談表現の過去と現在を総展望いたします。 特集 ◆浅田次郎『神坐す山の物語』ほかをめぐって 浅田次郎氏インタビュー 東雅夫 御嶽山(みたけさん)イベントルポ ◆論考 近世/近代/現代 小二田誠二「フェイク・ドキュメンタリーのルーツとしての江戸実録本をめぐって」 千街晶之「『リング』から『残穢』に至る怪談実話史をめぐって」ほか ◆復刻 平山盧江 ◆特別寄稿 福澤徹三 ◆インタビュー 『残穢』『鬼談百景』監督:中村義洋 ◆座談 NHKドラマ『怪異TV』制作秘話 ◆エッセイ 道尾秀介/花房観音/長江俊和/黒史郎 ◆連載 綾辻行人、小野不由美、京極夏彦、有栖川有栖、初野晴、朱野帰子、高橋葉介、諸星大二郎、柴門ふみ、波津彬子、伊藤三巳華ほか ◆インタビュー 辻村深月『きのうの影踏み』、田中康弘『山怪』ほか
この家は、どこか可怪(おか)しい。転居したばかりの部屋で、何かが畳を擦る音が聞こえ、背後には気配が……。だから、人が居着かないのか。何の変哲もないマンションで起きる怪異現象を調べるうち、ある因縁が浮かび上がる。かつて、ここでむかえた最期とは。怨みを伴う死は「穢(けが)れ」となり、感染は拡大するというのだが──山本周五郎賞受賞、戦慄の傑作ドキュメンタリー・ホラー長編!
学校の七不思議にまつわる怪談やマンションの部屋で聞こえる不自然な音、真夜中に出るという噂の廃病院で見た白い人影、何度しまってもいつの間にか美術室に置かれている曰くつきの白い画布……。小野不由美が初めて手掛けた百物語。文芸評論家・千街晶之氏は「この世のあちこちに人知れず潜んでいる怪異が、不意にその姿を顕す。日常があり得ざる世界へと暗転する一瞬を確かに捉えてみせた傑作怪談」と単行本発売時、推薦文を寄せた。文庫解説を担当した稲川淳二氏は、「怪談とはどういうものかを知りたければ、この本を読めば分かります」と絶賛。「作品全体の質感を一言で表現するなら、”うっすらとした闇”です。」(解説文より)。山本周五郎賞受賞傑作ホラー『残穢』(新潮文庫)と内容がリンクしていると話題の本書。『残穢』は、実写映画化(監督:中村義洋『予告犯』『白ゆき姫殺人事件』、出演:竹内結子 橋本愛)、2016年1月30日(土)公開! 「幽」公式サイト http://www.kadokawa.co.jp/yoo/
特集 幽霊画大全 2015年夏、東京・上野の東京藝術大学美術館で史上空前の「幽霊画」展覧会(「うらめしや〜、冥途のみやげ展」)が開催されます。幽霊画所蔵で知られる全生庵と近代怪談文芸の開祖でもある三遊亭圓朝のコレクションを中心にした展覧会。そこで本誌でも幽霊画大特集を企画しました。怪談の原風景ともいうべき幽霊絵画と文芸との関わりを、人気作家や気鋭のアーティストによる寄稿・創作を交えて総展望いたします。 圓朝幽霊画コレクションをめぐって 鼎談 安村敏信×横山泰子×平井正修(全生庵住職) 史上初復刻! 鏑木清方「幽霊の絵」 国枝史郎「絵画と妖怪趣味」 ルポルタージュ 東雅夫「北陸幽霊画紀行」 エッセイ 私の愛する幽霊画 高橋克彦 藤野可織 中野京子 松浦だるま 金子富之「幻影写真画」+書き下ろし掌編 「心霊風景」 皆川博子 恩田陸 加門七海ほか 新企画 【小説】朱野帰子 【コラム】お化け好きフォーラム 小説連載 有栖川有栖/綾辻行人/小野不由美/山白朝子(乙一)/京極夏彦 他 実話連載 福澤徹三/中山市朗/松村進吉ほか 漫画連載 伊藤三巳華/高橋葉介/諸星大二郎/押切蓮介/花輪和一/柴門ふみ/漆原ミチほか エッセイ&書評&企画 加門七海/南條竹則/小池壮彦/安曇潤平ほか
昨年、没後110年を迎えたラフカディオ・ハーン/小泉八雲。節目の年にふさわしく、生誕地レフカダ島(ギリシア)での記念イベント、八雲ゆかりの地・松江(島根県)や焼津(静岡県)で記念行事が開催される一方、新たなコンセプトによる邦訳や舞台公演の試みが相次ぎ、曾孫にあたる小泉凡氏による『怪談四代記』が刊行されるなど、再評価の機運が高まっています。ハーン/八雲の名著『Kwaidan(怪談)』が刊行されたのは、1904年。創刊号以来の特集です。『幽』編集顧問 東雅夫
ミステリーに殉じた作家を敬愛する四人による驚嘆のアンソロジー。巧緻に練られた万華鏡のごとき謎、また謎。遊郭に出入りする男の死体が握っていた白い花に魅せられた若い刑事(「桔梗の宿」)、月一度、母の愛人と過ごす茶室に生涯を埋めた女(「花衣の客」)ほか。綾辻×伊坂、巻末対談でその圧倒的な魅力も語る!
「絶望」から「希望」を信じた男がいた。慶国に新王が登極した。即位の礼で行われる「たいしや大射」とは、鳥に見立てた陶製の的を射る儀式。陶工である丕緒(ひしょ)は、国の理想を表す任の重さに苦慮する。希望を託した「鳥」は、果たして大空に羽ばたくのだろうか──表題作「丕緒の鳥」ほか、己の役割を全うすべく、走り煩悶する、名も無き男たちの清廉なる生き様を描く短編4編を収録。
人は、自分の悲しみのために涙する。陽子(ようこ)は、慶国(けいこく)の王として玉座に就きながらも役割を果たせず、女王ゆえ信頼を得られぬ己に、苦悩していた。祥瓊(しょうけい)は、芳国(ほうこく)国王である父が簒奪者(さんだつしゃ)に殺され、公主の平穏な暮らしを失くし哭(な)いていた。そして鈴(すず)は、蓬莱から流され辿り着いた才国(さいこく)で、苦行を強いられ、蔑まれて泣いていた。それぞれの苦難(くるしみ)を負う少女たちは、幸福(しあわせ)を信じて歩き出すのだが──。