著者 : 帚木蓬生
代々、使譯(通訳)を務める“あずみ”一族の子・針は、祖父から、那国が漢に使者を遣わして「金印」を授かったときの話を聞く。超大国・漢の物語に圧倒される一方、金印に「那」ではなく「奴」という字を当てられたことへの無念が胸を衝く。それから十七年後、今度は針が、伊都国の使譯として、漢の都へ出発する。
漢へ赴いた針のひ孫の炎女は、弥摩大国の巫女となり、まだ幼い女王の日御子に漢字や中国の歴史を教える。成長した日御子が魏に朝貢の使者を送るとき、使譯を務めたのは炎女の甥の在だった。1〜3世紀、日本のあけぼのの時代を、使譯の“あずみ”一族9代の歩みを通して描いた超大作。傑作歴史ロマン小説!
1900年、万国博覧会で賑わうパリ。精神科医のラゼーグは警察に保護された少女を診察する。日本人らしき彼女は音奴と名乗るほかは多くを語ろうとしない。一方でラゼーグの元に、万国博を訪れた外国人女性の連続失踪事件の知らせが届く。事件解決に協力するよう要請されるラゼーグだったが、行く先々で謎の馬車に見張られていることに気付きー。異国の地を舞台とした傑作長編サスペンス。
精神科医ラゼーグら周囲の心遣いから次第に心を開くようになった音奴。日本の旅芸人一座にいたという彼女が語り始めた身の上にラゼーグは驚きを隠せない。そんななか、連続女性失踪事件を追うパリ警視庁警視の妹で、ラゼーグとも親しい仲だったラボリ嬢が殺害される。犯人は誰で、その目的は何なのか。失踪事件の真相とは。華やかなパリ万国博覧会の陰で起こった猟奇的事件をスリリングに描く。
日本占領下の東南アジアに、B29の大空襲を受けた東京に、原爆投下直後の広島に、そしてソ連軍が怒涛のように押し寄せる満州や樺太の地に医師たちの姿があった。国家に総動員された彼らは、食料や医薬品が欠乏する過酷な状況下で、陸海軍将兵や民間人への医療活動を懸命に続けていた。二十年の歳月をかけ、世に送り出された、帚木蓬生のライフ・ワーク。日本医療小説大賞受賞作。
イギリス医学界の重鎮、アーサー・ヒルがノーベル賞を受賞したー。知らせを受けた青年医師の津田は、同じ分野で研究を続けながら惜しくもこの世を去った恩師、清原の死因を探るなかで、アーサーの周辺に不審な死が多いことに気付く。彼らを死へと追いやった見えざる凶器とは一体何か。真相を追ううちに津田は大きな陰謀に飲み込まれてゆく。ノーベル賞を題材にした本格医療サスペンス。
目の前を悠然と流れる筑後川。だが台地に住む百姓にその恵みは届かず、人力で愚直に汲み続けるしかない。助左衛門は歳月をかけて地形を足で確かめながら、この大河を堰止め、稲田の渇水に苦しむ村に水を分配する大工事を構想した。その案に、類似した事情を抱える四ヵ村の庄屋たちも同心する。彼ら五庄屋の悲願は、久留米藩と周囲の村々に容れられるのかー。新田次郎文学賞受賞作。
ついに工事が始まった。大石を沈めては堰を作り、水路を切りひらいてゆく。百姓たちは汗水を拭う暇もなく働いた。「水が来たぞ」。苦難の果てに叫び声は上がった。子々孫々にまで筑後川の恵みがもたらされた瞬間だ。そして、この大事業は、領民の幸せをひたすらに願った老武士の、命を懸けたある行為なくしては、決して成されなかった。故郷の大地に捧げられた、熱涙溢れる歴史長篇。
日系ブラジル人医師の津村は、北京の国際医学会で知り合った北朝鮮の医師に技術を伝えて欲しいと請われ、招聘医師として平壌産院に赴く。北園舞子は、職場の会長で在日朝鮮人の平山の付き添いとして、万景峰号に乗船する。一方、舞子の友人で韓国人の李寛順は、とある密命を帯びて「北」への密入国を敢行する。三者三様の北朝鮮入国。だが、彼らの運命が交錯する時、世界史を覆す大事件が勃発する。衝撃のサスペンス巨編。
宗像時子は父が遺した古アパート、扇荘の管理人をしている。扇荘には様々な事情を抱えた人たちが住んでおり、彼女はときに厳しく、ときには優しく、彼らと接していた。ある日、新たな入居者が現れた。その名は有馬生馬。ちょっと古風な好青年だった。二度の辛い別離を経験し、恋をあきらめていた時子は、有馬のまっすぐな性格にひかれてゆく。暖かで、どこか懐かしい恋愛長篇。
十人に一人がHIVに感染している国南アフリカ。かつて白人極右組織による黒人抹殺の陰謀を打ち砕いた日本人医師・作田信はいま、新たな敵エイズと戦っていた。民主化後も貧しい人々は満足な治療も受けられず、欧米の製薬会社による新薬開発の人体実験場と化していたのだ。命の重さを問う感動の長編小説。
歯を食いしばり一日を過ごす。星を数える間もなく眠りにつく。都に献上する銅をつくるため、若き国人は懸命に働いた。優しき相棒、黒虫。情熱的な僧、景信。忘れられぬ出会いがあった。そしてあの日、青年は奈良へ旅立った。大仏の造営の命を受けて。生きて帰れるかは神仏のみが知る。そんな時代だ。天平の世に生きる男と女を、作家・帚木蓬生が熱き想いで刻みつけた、大河ロマン。
華やかな奈良の都で、国人は大仏造営の作業に打ちこんでいた。ともに汗を流す仲間たちと友情を築いた。短き命を燃やす娘と、逢瀬を重ねた。薬草の知識で病める人びとを救い、日々を詩に詠む。彼は、確かな成長を遂げていた。数え切れぬほどの無名の男たちによって、鉱石に命が吹き込まれ、大仏は遂に完成した。そして、役目を終えた国人はー。静かな感動に包まれる、完結篇。
エンブリオーそれは受精後八週までの胎児。天才産婦人科医・岸川は、人為的に流産させたエンブリオを培養し臓器移植をするという、異常な「医療行為」に手を染めていた。優しい院長として患者に慕われる裏で、彼は法の盲点をつき、倫理を無視した試みを重ねる。彼が次に挑むのは、男性の妊娠実験…。神の領域に踏み込んだ先端医療はどこへ向かうのか。生命の尊厳を揺るがす衝撃の問題作。
「男性の妊娠」研究を国際学会で発表し、各国の賞賛を浴びた岸川。彼の高度な医療水準に、アメリカで不妊治療をビジネス展開する大企業が目をつける。最先端の技術と情報を盗むため、巨大組織が仕掛けた卑劣な罠。そして、それに対して岸川がとった恐るべき反撃策とは。岸川の持つ闇が徐々に暴走し始める…。生殖医療の暗部を鋭くえぐり、進みすぎた生命科学が犯す罪を描き出した戦慄の長編小説。
父が遺した古いアパート「扇荘」を管理する時子。初婚は死別、再婚は2年で破綻。今は、老人介護のパートのかたわら、母の代わりに、家賃の集金や住人のトラブル処理に気丈に応対する日々だったが…。「このままずっと独りなのかしら…」そんな時子の前に、“彼”は現れた。忘れていたときめき、ゆれる想い、幸せの予感、あふれる涙。38歳、老いた母を助けて暮らす女性を描いた、感涙の物語。
パリ警視庁特別医務室に勤務する精神科医のラセーグは、犯罪者や保護された者を診断する毎日。折しもパリでは万国博覧会が開催され、にぎわうが、見物客の女性が行方不明となる事件が相次ぐ。そんな中、ひどく怯える日本人少女を面接し、彼女の生い立ちに興味をもつ。一方でラセーグは、見知らぬ貴婦人にストーカー行為を受け、困っていた。執拗な誘いに負けて、彼女の屋敷を訪ねるがー。
貴婦人の誘惑は執拗さを増すが、ラセーグは無視した。が、彼に好意をもつ先輩警視の妹が殺害されるに及び、貴婦人の関与を確信する。連続失踪事件で日本人少女も巻き込まれていたことが分かり、ラセーグは、それらと似通った過去の猟奇的事件を調査するー。優雅なパリの街並み、そこに集う人々との温かい交流を描きつつ、驚愕の事件を推理する精神科医の心情に迫ったミステリー・ロマン。
九州の小さな海岸の町。贅沢な施設と高度な医療で知られるサンビーチ病院。不妊夫婦に福音をもたらし患者たちに「神の手」と慕われる院長の産婦人科医、岸川卓也のもう一つの顔。男性の妊娠、人工子宮、胎児からの臓器移植…。生殖医療の無法地帯に君臨する医師の狂気の華がひらくとき。生命の尊厳と人間の未来を揺るがす書き下ろし長編小説。