著者 : 平岩弓枝
時は唐代、太宗の御代のこと。一人の高僧が、取経のために天竺へと旅立った。その名は玄奘三蔵。親世音菩薩は、三歳が無事に天竺へ着けるよう、ゆえあって天界を追われたものたちにいずれ来る三蔵と共に天竺へ参るよう言い渡す。師弟の愛、仲間との絆、旅を通じて成長していく姿を余すところなく描く、いままでで一番美しい「西遊記」。
無銘の古刀に名匠の偽銘を切って高価な刀剣にみせかける鏨師。その並々ならぬ技術を見破る刀剣鑑定家。火花を散らす名人同士の対決に恩愛のきずながからむ厳しい世界をしっとりと描いた第41回直木賞受賞作「鏨師」のほか、「神楽師」「狂言師」「狂言宗家」など、著者が得意とする芸の世界に材を得た初期短編集。
「かわせみ」に逗留する華族夫人・蝶子は思いのほか気さくな人柄だが、築地居留地で賭事に興じて千春を心配させる。果たしてその正体は?表題作ほか、千春が麻太郎の出生の秘密を知る「西洋宿館の亡霊」など全六篇。
向島で三代続く料理屋・笹屋の一人娘、お京もこの正月で20歳になった。しっかり者の看板娘として店をきりもりし、今や親が手を出すすきもない。舞い込む縁談を断り、親の反対を押し切って選んだ相手はかつぎ豆腐売りの信吉だったが、あっさり断られてしまう…。しっかり者の女たち、それゆえに悲しくもおかしい。平岩作品の醍醐味、豊かな江戸人情を描いた珠玉と呼ぶにふさわしい10編を収録。文字が大きく読みやすい新装版。
長助の近所の質屋に空巣が入った。犯人を捕えて取り戻した銭箱に、メキシコ・ドルラルと呼ばれる洋銀が一枚…。日米間の不公平な通貨両替を利用し、闇の両替で私腹を肥やす小判商人を追って、東吾や源三郎、そして麻太郎と源太郎の少年コンビが活躍する表題作をはじめ、騒然とした幕末の世情と揺れる人の心を描く七篇を収録。
若き日、嫂と犯した密通の古傷が、名を成した今も、自分を苦しめる。驕慢な心はついに妻を験そうとするが…。表題作「密通」のほか、人生に絶望し、死のうと決めた夫婦と娘が出会い、希望を取り戻す「心中未遂」、婚礼を前に、揺れる女の想いを描いた「夕映え」、夫のためと騙され、他の男に身を任せたことが破滅につながる「菊散る」など、江戸人情を細やかに綴る全八編を収録。余韻溢れる珠玉短編集。文字が大きく読みやすい新装版。
さあ、明治の「かわせみ」が幕を開けます!幕末の戦乱で東吾は行方不明、畝源三郎も落命するが、麻太郎、花世、源太郎たちは逞しく成長し、激動の時代を確かな足取りで歩き出すー時代は変わっても変わらぬ人情を映し出す、大河小説第2部堂々のスタート。
花の季節、花見客で賑わう乗合船で起こった強盗騒ぎで、若い娘が機転を利かせ、強盗を川に投げ込んだ。人々がはやし立てる中、「女のくせに見苦しい」と嘲笑した侍に腹を立てた娘。だが、旗本の次男坊と料亭の蔵前小町はやがて恋に落ちた。時は幕末、時代の波が二人を飲み込んでいく…。「御宿かわせみ」シリーズの原点ともいうべき表題作をはじめ、平岩文学の原型を凝縮した七編を収録する短編集。文字が大きく読みやすい新装版。
東照大権現となった神君徳川家康公の命日を祭るため、朝廷より毎年遣わされる例幣使。京都から日光へ向かった例幣使一行を、人間消失と謎の殺人が襲う。救いを請う書状を受け、江戸を発った新八郎にも次々と異変と危険が迫り来る。初めての日光で彼を待ち受ける意外な人と真相は?好調シリーズ第三作。
娘はかつての自分と同じように、家を捨て恋に走った。妻としての幸せも、母としての幸せもつかめなかった世津に、女の幸せは訪れるのか…。女は何事にも忍従し、家を守らねばならないといわれた時代。あいつぐ逆境にありながら美しく強く生きた女の一生を、流麗な筆に綴って感動を呼ぶ、大河ロマン完結編。
女の顔は男しだいで変わるという。これまで誰にも頼らず一人で生きてきたが、深く男を愛するようになったまさき。祖父の莫大な遺産を相続することになり、態度を豹変させる親戚や、恋人・慎一郎の母が隠していた出生の秘密など、女の強さ・弱さが複雑に絡まり、まさきの恋は数奇な運命に翻弄され、最後に一つの決心を生み出す。
「かわせみ」へ奉公に来た頃は、山出しの猿公といわれたお石だが、女中頭のお吉の丹精の甲斐あって、気のつく働き者の娘に成長した。ある日、大店の嫁にという話がくる。一大決心で嫁ぐことにしたものの、お石も「かわせみ」の人々もその日を思うと何故かしら涙が出てきてしまうのだった。表題作ほか全八篇。不朽の人気シリーズ。
平安京に異変が起きた。ものみな凍りつき、春が来ない。頼みの楽士・真比呂は、根の国の主・無明王に連れ去られたままだ。愛すべき虎猫の化身・寅麿を従え、青鹿毛の名馬に跨り、名笛・小水龍を携えて、若き藤原道長は海を渡るー京の民を救うため。物の怪どもと戦うため。途中雷神の子らや赤目の美猫・紅眼児が加わり、妖魔との死闘は続く。大好評『平安妖異伝』に続く痛快長編。
「あいつが浮かれ蝶々なんぞにひっかかるものか」麻生家に通う途中で感じた熱い視線。新内流しの娘、お蝶の思惑を量りかねる麻太郎だったが…。大人の入り口に差しかかった麻太郎、花世、源太郎たちが大活躍。
先頃、業者の紹介で「かわせみ」にやって来た女中のおつまは二十五歳、無口だが気がきき、勤めぶりにかげひなたがなかった。盆休みに故郷へ帰ったはずのおつまだったが、浅草界隈で男と一緒のところを目撃されてしまう。流されるように生きていく女の哀感を江戸の風物詩とともに描いた表題作ほか全八編。不朽の人気シリーズ。
品川・御殿山にあるお屋敷の庭でかくれんぼをしていた源太郎と花世が、迷い込んだ隣家で遭遇した殺人事件。その背後には、一通の手紙を巡って前御台所を巻き込む複雑な事情があったが、幼い花世が解決の鍵を握っていた。表題作ほか「マンドラゴラ奇聞」「薬研堀の猫」「江戸の節分」など全八篇を収録。大好評人情捕物帳シリーズ。
主君の命によって上った京の町で、禁裡の向こうを敵に回す難事件を解決した新八郎。江戸への帰路は、薄幸の母子を信濃まで送り届けるため、中仙道を辿ることに。だが、街道の先々に胡乱な影が待ち受け、卑劣な罠が仕掛けられていた。さらに新八郎に振りかかる、思いも寄らぬ女難とは?新シリーズ第二作。