著者 : 有吉佐和子
挿絵画家とその妻、揺れる心理を描く「挿絵の女」/指輪のイニシャルから死の真相に迫る、異色の推理小説「指輪」/代表作『紀ノ川』につながる「死んだ家」/中国の怪異説話をもとにしたユーモラスな「崔敏殻」/日本画の大家のモデルになった芸者と呉服屋の奔走を描く「秋扇抄」/舞踊家紫猿の初の老け役の舞台を元書生の目を通して描いた「鬼の腕」。珠玉の6編。
女犯の咎で寺を追われ二十年修行した僧が試される時(「ほむら」)、桜見物に召しだされた女歌舞伎一座の男女と関わる千姫の懊悩(「千姫桜」)、中国稀代の美女・王昭君を描いた画家の運命(「落陽」)。人間普遍の欲望、精神の血しぶき、芸術の極みを描き出した二十代有吉佐和子の輝かしい才能が堪能できる珠玉の八編。
大検校菊沢寿久が守ってきた、深く寂しく強靱な生命力を底に流す地唄の世界。継承者として期待された娘の邦枝は、偉大な父に背いて日系二世の男と結婚、渡米する。古き伝統の闇と新旧世代の断絶、親子の確執を描くデビュー作「地唄」を収録した初の長編小説。若き有吉佐和子の圧倒的筆力と完成度の高さに酔う!
短大卒業後、口紅の会社に就職した晴子。雑務の合間に色味やネーミングについて意見を求められたり、専務の山野に誘われふぐを食べたり、毎日が初めてのことばかりだ。晴子のアイデアがきっかけで新製品の開発が決まり、職場は盛り上がる。晴子は山野に大人の魅力を感じつつ、宣伝担当でエネルギッシュな住谷にも惹かれていき…。有吉佐和子が30歳の時に発表した、単行本未収録の恋愛小説。
日本に初めてできた高級洋装店「パルファン」に就職した隆子。型紙を使わない独自の裁断、二度の補正、顧客への気配りなど、店主ユキやスタッフの技術に圧倒されるが、“いつか私だって”と野心を燃やす。数年後、着実に力をつけた隆子は、ユキがパリに長期滞在する間、店の留守を任されるまでになり、ユキの恋人の相島ともー。嫉妬や噂が渦巻く服飾業界で、したたかに生きる女たちを描く。没後30年記念、初期名作を復刊!
五年前に夫を亡くし、更紗染にすがって生きてきた紀代。初の展示会は著名人が集い盛況だったが、新聞記者の丸尾に「更紗は道楽か」と問われ、紀代は自分の甘さや未熟さに気づく。年下だが頼れる丸尾に、紀代は好意を抱き始める。亡夫の友人、岩永も、彼女の作品をまとめ買いするなど陰で支えていたが、ある日ー。ふたりの男性の間で揺れ惑う女心。切なく交錯する想いを描く、至高の恋愛小説。
卒業を間近に控えた女子大生仲良しグループ。珠美は秘書、文代は教師、トモ子は編集者など、七人それぞれの進路へ巣立とうとしている。恋愛に憧れつつも、まだ見合い結婚が主流の終戦直後、彼女達が常に盛り上がるのは、唯一婚約者のいる祐子の話だ。卒業後、婚約者の誕生日に全員が祐子の家に招待されるがー。若い女性の心の葛藤を、瑞々しく描く。有吉文学の原点となった、初の長編小説。
「二億円用意しろ。さもなくば大詰めで女優を殺す」一本の電話が、帝劇関係者に激震を起こす。満員の観客が見守る中、演劇界の至宝二人の老優たちが繰り広げる魂の舞台の行方は果たしてーバックステージで同時進行する緊迫の駆け引き、愛憎渦巻く人間ドラマ。有吉佐和子の天才が光る。傑作ミステリー長編。
一流会社勤務の夫の転勤に伴い、東京で憧れの社宅暮らしをスタートした音子。喜びも束の間、社宅内の人間関係に振り回されてゆく。一人息子・悟の教育問題、見栄と欺瞞に満ちた主婦同士の情報戦に追い詰められ、焦った音子は愚かな行動に出るがー痛烈な人間描写、現代のドラマが大迫力、傑作長編エンターテインメント。
無名の陶芸家が生み出した美しい青磁の壷。売られ盗まれ、十余年後に作者と再会するまでに壷が映し出した数々の人生。定年退職後の虚無を味わう夫婦、戦前の上流社会を懐かしむ老婆、四十五年ぶりにスペインに帰郷する修道女、観察眼に自信を持つ美術評論家。人間の有為転変を鮮やかに描いた有吉文学の傑作。
日本舞踊会の中心的存在として隆盛を迎えた梶川流。将来も安泰に思えたある日、家元猿寿郎が事故死した…。そして家元の血を継ぐ隠し子たちが、未亡人となった秋子の前に現れる。妹の千春や母の寿々までもが跡目を巡り弟子たちと争いを繰り広げるなか、梶川流を守るため、秋子が選んだ道とはー。因襲の世界で懸命に生きる女たちを描いた波瀾万丈の人間ドラマ。『連舞』に続く傑作長編小説。
昭和初期の東京・上根岸。日本舞踊の名門梶川流の師匠を母とする異父姉妹。家元の血を享け、踊りに天賦の才を見せる妹の千春の陰で、姉の秋子は身を慎んで生きてきた。しかし戦後の混乱期、梶川流の存亡を賭け、秋子が進駐軍の前で挑んだ驚くべき舞台が彼女の人生を予想もつかぬ方向へ導いていくー。伝統と因襲の世界で生きる女たちの苦悩と希望を描く、波瀾万丈の人間ドラマ。傑作大河長編。
世界で初めて全身麻酔に挑み、乳がんの摘出手術に成功した江戸後期、紀州の名医、華岡青洲。その成功に不可欠だった麻酔薬の人体実験に、妻と母は進んで身を捧げた。だが、美しい献体の裏には、青洲の愛を争う二人の女の敵意と嫉妬とが渦巻いていた…。著者の没後20年を記念して、新装版で甦る日本文学の作品。
伝統芸能に生きる父娘の葛藤と和解を描き、著者の文壇登場作となった「地唄」、ある男の正妻・愛人・実妹、三人の女が繰り広げる壮絶な同居生活と、等しく忍び寄る老いを見据えた「三婆」、田舎の静かな尼寺に若い男女が滞在したことで起こる波風を温かい筆致で描く「美っつい庵主さん」等五作品を収録。無類の劇的構成力を発揮する著者が、小説の面白さを余すところなく示す精選作品集。
突然の降板を宣言した有名劇作家に代わり、帝国劇場の急場を救うことになった演出家・渡紳一郎。元妻で脚本家の小野寺ハルと共に土壇場で作り上げた舞台は、大女優らの名演で大入りが続く。だが一本の怪電話で事態は一変。「二億円用意しろ。さもなくば大詰めで女優を殺す」。舞台の裏で絡み合う愛憎劇、そして事件は驚愕の幕切れへー。読者を虜にして離さない華麗なる傑作ミステリ長編。
鬼怒川のほとりにある絹の里・結城。貧農の娘チヨは、紬織りの腕を見込まれて、16歳で日露戦争生き残りの勇士のもとに嫁いだ。気のいい婚家の人々の中で、彼女は幸せになれるかに思われた。しかし、夫も、太平洋戦争から復員した息子も、そして孫までも“黄金埋蔵伝説”にとり憑かれ、悲惨な運命を辿る…。戦争の傷跡を背負いながら精一杯たくましく生きたひとりの女の生涯を描く。