著者 : 松本清張
社会的に厳しい境遇にある隆志は、仕事で集金した金を持って同じような身の上の久美子と死出の旅に出た。どうせ死ぬのだからと贅沢な旅行を続ける二人の前に、ある中年の夫婦が現れる。落ち着いていて、品のあるその夫婦を見ているうちに、こういう生き方もあるのかと感じ入る隆志。そして遂に、最初からやり直そうと…(「拐帯行」)。シリーズ最終巻は著者の代名詞とも言える社会派ミステリ。掉尾を飾るにふさわしい傑作群を、どうぞ最後までお楽しみください!
トモ子の許嫁、宗一が殺人の主犯として逮捕された。事件当夜、宗一と寝ていたトモ子は、宗一が部屋を空けていた時間があったにも拘らず宗一と一緒にいたと証言する。一審二審と宗一は有罪になるが、トモ子は一貫して宗一のアリバイを主張。裁判は最高裁まで進み、差し戻される可能性が出てきた。そこでも、これまで通りの証言をするつもりのトモ子だったが、ある事を知り、心理に微妙な変化が起きる(「脊梁」)。ジャンル別作品集第4巻は「法廷ミステリ」。裁判や法律を扱いつつ、著者ならではの人間ドラマ5編を収録。
美術を専攻していた学生時代、教授の嫌忌を受けて不遇の人生を送らざるを得なくなった俺は、知り合いの骨董屋が持ってきた贋作を見てある“事業”を思い立つ。それは学界を支配する教授一派に対する強烈な一撃となるものだった(「真贋の森」)。ジャンル別作品集第3巻は、全集未収録の2作品を含む全4編の「美術ミステリ」。著者独壇場の“黒い仕掛け”を読み逃すな。
戦国時代、山陰地方を治めていた尼子氏には、「楠木正成にも勝る」と謳われた武将がいた。その勇猛さと才智を頼山陽や勝海舟にも激賞された山中鹿之助幸盛は、天文十四年(一五四五年)、出雲国富田に生まれた。幼少期を山野で過ごした鹿之助は、三日月の前立てと鹿の双角を備えた兜を被り、一騎打ちに抜群の強さを発揮した。しかし尼子氏は幾多の戦いを繰り返した後、強敵毛利元就の軍門に下ってしまう。それでも鹿之助だけは、百回打ちのめされても千回挫折を味わっても、尼子家再興を諦めなかった。清張歴史文学の頂点を極めた伝説の名作、ついに文庫化!
戦国時代。下剋上の世にあって、大内・尼子の強国間で知略謀略を尽くして大大名となった毛利元就(「調略」)。伸長してくる後輩秀吉に、複雑な心境に陥る丹羽長秀(「腹中の敵」)。家康に重用された父のあとを継ぎ、幕府で権勢をふるった本多正純(「戦国権謀」)など、乱世を生きた様々な武将を描いた珠玉の10編。待望の新シリーズ刊行開始。
昭和27年4月9日、日航定期便福岡行き「もく星」号は、羽田を離陸した20分後になぜか突然消息を絶った。それから13年後、密かに事故の真相究明に乗り出した中浜宗介らは、事故死した乗客のうち唯一の女性・相善八重子が、事故と何らかの関係があるのではと疑念の目を向ける…。筆者の代表作「日本の黒い霧」などと同様に、昭和の“謎”事件の真相を解明するため、記録的手法を導入して挑んだドキュメンタリータッチの長編小説・中巻。
愛と憎しみ、嫉妬、野望…将軍を中心として、女たちのさまざまな思いや情念が渦巻く江戸城・大奥。乳母と夫人、夫人と側室ーそれは大奥での権力をめぐり激しく火花を散らす“女の合戦”。乳母将軍・春日局の権勢から桂昌院、絵島生島の悲劇まで、その実情を冷徹な眼で社会派推理作家が描いた異色時代小説。
東京近郊に広大な敷地と白亜の近代校舎をもつ私立女子大学・若葉学園。校地買収で功績を上げ専務理事にのし上がった石田謙一だが、彼には大島圭蔵理事長の椅子を奪うという、さらなる野心があった。理事長と女性職員との関係を握った謙一は、そのスキャンダルを暴き理事長失脚を図るが、彼自身もまたバーのマダムとの情事や一人息子の非行という秘密を抱えていた…。
大島理事長と事務員・秋山千鶴子の関係を訴える投書を腹心の鈴木事務局長に偽造させ、新学長招聘も画策する謙一。一方、大島は謙一を懐柔すべく料亭に接待した。しかし席上、話は意外な展開を見、二人は互いの牙をむき出しに。謙一の解任を画策する大島。乱れ飛ぶ怪文書。学園経営権をめぐる激しい攻防の果て、遂に緊急理事会は招集された。教育界の腐敗をつく問題作!
水尾市の市会議員である鐘崎義介は酒造会社と市政に批判的な新聞社を経営するやり手。だが、温泉で出会った女・カツ子が自室の西洋風呂で見せる、若く奔放な姿態に溺れる。地方の名士である男は、都会的なものの虚飾に魅せられて破滅の道をたどり、やがて殺人を招き寄せていく!地方政界に渦巻く欲望と利権を描くとともに、“アリバイ崩し”にも挑んだ本格推理長編。
豊臣秀吉が死に、世は戦国に逆戻り。覇権争いは全国の大名を巻き込み、徳川家康率いる東軍、石田三成の西軍による「関ヶ原の戦い」へ。裏切る者がいれば、その裏を掻く者もいる、私利私欲が渦巻く戦場となった。徳川家康・秀忠、石田三成、島左近、直江兼続…彼らにとって関ヶ原とは何だったのか。超豪華作家陣が描く、傑作歴史時代アンソロジー!
過去の徴兵検査で第二乙種不合格、そして三十二歳となった今、兵隊にとられることはないと確信していた山尾に、召集令状が届く。この一枚の紙が、山尾のみならず家族の運命までも大きく狂わすことに。古兵の制裁にも耐え復員したが、すべてを失った山尾は、召集令状を作成した区役所兵事係への復讐を誓う。
稲木は楢沢莢子への愛に溺れてゆくが、莢子の異性問題から無理心中事件に巻き込まれる。一方、川西は裏口入学金の着服が問題化。派閥抗争に明け暮れる二人のライバル教授がたどり着いた先はー。地位と金と女を追求する教授、巨大な大学資金に群がる銀行、裏金と不正入試。象牙の塔の生々しい実態に迫り、理想を失った最高学府を糾弾する社会派ミステリーの傑作!
本所の蕎麦屋に正月四日、毎年のように来る客。彼の腕にはある彫ものがー。(池波正太郎「正月四日の客」)新川の酒問屋で神棚から出火。火元の注連縄にはこよりに包んだ髪が隠されていた。そこに秘められた母子の悲しい思い出とはー。(宮部みゆき「鬼子母火」)他、松本清張「甲府在番」、南原幹雄「留場の五郎次」、宇江佐真理「出奔」、山本一力「永代橋帰帆」と人気作家がそろい踏み!冬を舞台にした、時代小説アンソロジー。
天正3年、軍師・黒田官兵衛の運命が動き出す。播州御着の城主・小寺政職の家老だった官兵衛は、毛利を捨てて織田につくよう進言し、自ら使者として豊臣秀吉に謁見する。軍師としての才を認められ、智謀を発揮して秀吉の中国攻めを支える官兵衛だったが、卓越した才能ゆえに敵方に囚われてしまい…!?黒田官兵衛の生き様を描いた表題作ほか、「逃亡者」「板元画譜」2編の胸躍る傑作時代小説を収めた珠玉の作品集。