著者 : 柴崎友香
コロナウィルス感染拡大のなか、小説家のヤマネは、『実践講座・身近な場所を表現する/地図と映像を手がかりに』という講座を担当することになる。 PCを通して語られるそれぞれの記憶、忘れられない風景、そこから生まれる言葉……。 PC越しに誰かの記憶が、別の新たな記憶を呼び覚まし、積み重なってゆく。 人と人とのあらたなつながりを描く長篇小説。 読売新聞連載、待望の単行本化。
あれから何年経っただろう。あれからって、いつから?どのできごとから?二つの大震災。未知の病原体の出現。誰にも同じように流れたはずの、あの月日ー。別々の場所で暮らす男女三人の日常を描き、蓄積した時間を見つめる、叙事的長編小説。
六世紀ごろに大陸から伝わり、改暦を重ねながら明治の初めまで用いられてきた旧暦。そこには春夏秋冬の四季に留まらない、さらにこまやかな季節が織り込まれている。大暑や立秋、大寒といった気候の節目を表す二十四節気と、「地始凍」「熊蟄穴」など、動植物や空模様がそのまま季節の呼び名に採り入れられている七十二候。十二人の作家の想像力で、「二十四節気七十二候」が現代の物語に生まれ変わった。
住み心地のいい離れの一軒家で一人暮らしを続ける北川春子39歳。母屋に越してきた夫を亡くしたばかりの63歳、青木ゆかり。裏手の家に暮らす新婚の現実的な今どきの新婚25歳、遠藤沙希。年代も性格もまったく異なる3人の出会いから始まった、温かく、どこか噛み合わない“ご近所付き合い”、その行方はー。芥川賞作家の新たな代表作!
かつての住み家であったのであろう、“この家”を彷徨い続ける“わたし”。その理由がわからないままに時は移り、家には次々と新しい住人たちがやってくる。彼らを見守り続ける“わたし”は、ここで、いったい何を、誰を待っているのかー。俳優・東出昌大をイメージして作品を執筆、さらに写真家・市橋織江がその文学世界を撮影した、“新しい純文学”。
十年前、京都で引っ越しパーティーに居合わせた男女。それぞれの時間を生き、つきあっていたカップルは別れ、変わったり変わらなかったりしながら30代になった彼らが、今夜再会する。中沢が鴨川沿いにオープンさせたバルに集まった面々に、今日もさまざまな「できごと」が起きる。行定勲監督が、なんと、紙上映画化した書き下ろし小説「鴨川晴れ待ち」を収録。
世界各国から作家や詩人たちが集まる、IWP(インターナショナル・ライティング・プログラム)に参加した著者が、不得手な英語で話し合い、街を歩き、アメリカ大統領選挙を目撃した三か月を描く小説集。
京都で開かれた引っ越し記念飲み会。そこに集まり、出会いすれ違う、男女のせつない一夜を描く、芥川賞作家の不朽の名作の増補新版。行定勲監督で映画化された本篇、映画撮影の夜に迷いこんだ作者と登場人物が語る「きょうのできごとのつづきのできごと」に加え、映画から生まれた番外篇「もうひとつの、きょうのできごと」を収録。
謎の男・麦に出会いたちまち恋に落ちた朝子。だが彼はほどなく姿を消す。三年後、東京に引っ越した朝子は、麦に生き写しの男と出会う…そっくりだから好きになったのか?好きになったから、そっくりに見えるのか?野間文芸新人賞受賞作。森泉岳土のマンガとコラボした魅惑の書き下ろし小説を増補。
友人のイチローに誘われ、改築を繰り返した奇妙な家の赤い小屋を間借りすることになったわたし。家を増築する父親や女優の母親、個性派揃いの彼の家族たち。不思議な家で生活し、家族の過去が気になりだした頃、イチローから「たまに同じ一日が二度繰り返される」と打ち明けられ、日常がゆがみ始める…。
三十九歳の千歳は、親しいわけでもなかった一俊から「結婚しませんか?」と言われ、広大な都営団地の一室に移り住む。その部屋で四十年以上暮らしてきた一俊の祖父から人捜しを頼まれ、いるかどうかも定かでない人物を追うなかで、出会う人たち、そして、出会うことのなかった人たちの過去と人生が交錯していく…。
人生は走ることに似て、走ることは人生に似ているー。芥川・直木賞作家から青春エンタメ小説の名手まで、類を見ない豪華メンバーが“走る”をテーマに競作した短編14作、ここに集合!人が次の一歩を踏みだそうとする時、その背中をそっと押してくれる、バラエティー豊かな作品が目白押し。異色のアンソロジーをご堪能あれ。
第151回芥川賞受賞作。「春の庭」 書下ろし&単行本未収録短篇を加え 待望の文庫化! 東京・世田谷の取り壊し間近のアパートに住む太郎は、住人の女と知り合う。彼女は隣に建つ「水色の家」に、異様な関心を示していた。街に積み重なる時間の中で、彼らが見つけたものとはーー第151回芥川賞に輝く表題作に、「糸」「見えない」「出かける準備」の三篇を加え、作家の揺るぎない才能を示した小説集。 二階のベランダから女が頭を突き出し、なにかを見ている。(「春の庭」) 通りの向こうに住む女を、男が殺しに来た。(「糸」) アパート二階、右端の部屋の住人は、眠ることがなによりの楽しみだった。(「見えない」) 電車が鉄橋を渡るときの音が、背中から響いてきた。(「出かける準備」) 何かが始まる気配。見えなかったものが見えてくる。 解説・堀江敏幸
読みかけていた本が、-ない。思い出さないほうがいい記憶がーよみがえる。別の世界との隙間に入り込んでしまったような。見慣れた風景の中にそっと現れる奇妙なものたち、残された気配。怖い日常。芥川賞作家が「誰かが不在の場所」を見つめつつ、怖いものを詰め込んだ怪談集。
31歳のわたしは年末から風邪を引いて2日間寝込んで気づいたら年が明けていた。そこに会社の既婚者の先輩女性が転がり込んできてー(「ハッピーでニュー」)。東京で暮らすわたしは、人が住む中で一番暑い場所に近いハルツームの天気を毎日確かめる。偶然や今という一瞬が永遠とつながる場面を描いた傑作「ハルツームにわたしはいない」。週末はいつもより少しだけ特別。見慣れたはずの風景が違って感じられる、8つの物語。