著者 : 桜木紫乃
道東釧路で図書館長を務める林原を頼りに、25歳の妹純香が移住してきた。生活能力に欠ける彼女は、書道の天才だった。野心的な書道家秋津は、養護教諭の妻玲子に家計と母の介護を依存していた。彼は純香の才能に惚れ込み、書道教室の助手に雇う。その縁で林原と玲子の関係が深まり……無垢な存在が男と女の欲望と嫉妬を炙り出し、驚きの結末へと向かう。濃密な長編心理サスペンス。
北国のラブホテルの一室で、心をも裸にして生々しく抱き合う男と女。互いの孤独を重ねる中に見えてくるそれぞれの人生の大切な断片を切り取る。第149回直木賞受賞作の文庫化。(解説/川本三郎)
直木賞作家桜木紫乃作品、初の映画化原作! 「かたちないもの」 笹野真理子は函館の神父・角田吾朗から「竹原基樹の納骨式に出席してほしい」という手紙を受け取る。 「海鳥の行方」 道報新聞釧路支社の新人記者・山岸里和は、釧路西港の防波堤で石崎という男と知り合う。「西港で釣り人転落死」の一報が入ったのはその一月後のことだった。 「起終点駅(ターミナル)」 映画化原作 表題作 鷲田完治が釧路で法律事務所を開いてから三十年が経った。国選の弁護だけを引き受ける鷲田にとって、椎名敦子三十歳の覚醒剤使用事件は、九月に入って最初の仕事だった。 「スクラップ・ロード」 飯島久彦は地元十勝の集落から初めて北海道大学に進学し、道内最大手・大洋銀行に内定した。片親で大手地銀に就職するのは、当時異例中の異例のことだった。 「たたかいにやぶれて咲けよ」 道東の短歌会を牽引してきた「恋多き」歌人・中田ミツの訃報が届いた。ミツにはかつて、孫ほどに歳の離れた男性の同居人がいたという。 (「潮風(かぜ)の家」 久保田千鶴子は札幌駅からバスで五時間揺られ、故郷の天塩に辿り着いた。三十年前、弟の正次はこの町で強盗殺人を犯し、拘留二日目に首をくくって死んだ。 【編集担当からのおすすめ情報】 「始まりも終わりも、ひとは一人。 だから二人がいとおしい。生きていることがいとおしい」 ーー桜木紫乃
性愛表現を究めた傑作アンソロジー 疲れた主婦を癒す指圧院、美しい教師と生徒ばかりのアートスクール、挿入のないセックスを追求するカップル。九つの極上の官能短編。 収録作品:「千年萬年」(小池真理子)、「作家志望」(桐野夏生)、「風酔ひ」(村山由佳)、「影のない街」(桜木紫乃)、「本朝金瓶梅」(林真理子)、「エレクションテスト」(野坂昭如)、「橋」(勝目梓)、「いれない」(石田衣良)、「淫の忍法帖」(山田風太郎)
どうしようもない淋しさにひりつく心。月明かりの晩よるべなさだけを持ち寄って躰を重ねる男と女は、まるで夜の海に漂うくらげーー。切実に生きようともがく人々に温かな眼差しを投げかける絆と再生の物語。
道東・釧路で『ホテルローヤル』を営む幸田喜一郎が事故で意識不明の重体となった。年の離れた夫を看病する妻・節子の平穏な日常にも亀裂が入り、闇が溢れ出したーー。愛人関係にある澤木と一緒に彼女は、家出した夫の一人娘を探し始めた。短歌仲間の家庭に潜む秘密、その娘の誘拐事件、長らく夫の愛人だった母の失踪……。次々と謎が節子を襲う。驚愕の結末を迎える傑作ミステリー。
謎の位牌を握りしめて、百合江は死の床についていたーー。彼女の生涯はまさに波乱万丈だった。道東の開拓村で極貧の家に育ち、中学卒業と同時に奉公に出されるが、やがては旅芸人一座に飛び込んだ。一方、妹の里実は道東に残り、理容師の道を歩み始めた……。流転する百合江と堅実な妹の60年に及ぶ絆を軸にして、姉妹の母や娘たちを含む女三世代の凄絶な人生を描いた圧倒的長編小説。
人生の岐路に立つ六人の女の運命を変えたのは、ひとりの女の“幸せ”だった。-道立湿原高校を卒業したその年の冬、図書部の仲間だった順子から電話がかかってきた。二十も年上の職人と駆け落ちすると聞き、清美は言葉を失う。故郷を捨て、極貧の生活を“幸せ”と言う順子に、悩みや孤独を抱え、北の大地でもがきながら生きる元部員たちは、引き寄せられていくー。彼女たちの“幸せ”はどこにあるのか?
知らないままでいられたら、気づかないままだったら、どんなに幸福だっただろうーー革命児と称される若手図書館長、中途半端な才能に苦悩しながらも半身が不自由な母と同居する書道家と養護教諭の妻。悪意も邪気もない「子どものような」純香がこの街に来た瞬間から、大人たちが心の奥に隠していた「嫉妬」の芽が顔をのぞかせるーー。いま最も注目される著者が満を持して放つ、繊細で強烈な本格長篇。
寄せては返す波のような欲望に身を任せ、どうしようもない淋しさを封じ込めようとする男と女。安らぎを切望しながら寄るべなくさまよう孤独な魂のありようを、北海道の風景に託して叙情豊かに謳いあげる。
真っ白に海が凍るオホーツク沿岸の町で、静かに再会した男と女の凄烈な愛を描いた表題作、酪農の地を継ぐ者たちの悲しみと希望を牧草匂う交歓の裏に映し出した、オール讀物新人賞受賞作「雪虫」ほか、珠玉の全六編を収録。北の大地に生きる人々の哀歓を圧倒的な迫力で描き出した、著者渾身のデビュー作品集。