著者 : 桜木紫乃
『ラブレス』『ホテルローヤル』等、家族の光と闇を描き続ける直木賞作家・桜木紫乃のルーツ! 夢に生き、夢に死ねーー 昭和の北海道。 己の城を求め、男は見果てぬ夢を追う。 【著者コメント】 書きながら改めて、生きることは滑稽だと感じました。 滑稽でいいと思うところまで、書けた気がします。 やせ我慢人生を歩いてきたすべての先人に、愛を込めてーー人生劇場。 何もかもが赤く染まった鉄鉱の町・室蘭。 四人兄弟の次男に生まれた猛夫は、兄にいじめられ、母には冷たくあしらわれながら日々を過ごしていた。 心のよりどころは食堂と旅館を営む伯母のカツ。やがて猛夫はカツのもとで育てられることになる。 中学卒業後、理容師を目指し札幌に出た猛夫だが、挫折して室蘭に帰る。 常に劣等感を抱えるようになった猛夫は、いつか大きくなって皆を見返してやりたいと思うように。 理容師として独立、ラブホテル経営と、届かぬ夢だけを追い続けた男の行く末は。 自身の父親をモデルに、直木賞作家・桜木紫乃が北の大地で生きる家族の光と闇を描く。 【目次】 一章 鉄の町 二章 修業 三章 別れ 四章 長男 五章 夫婦 六章 闘い 七章 新天地 八章 落城
アイヌ紋様デザイナー・赤城ミワ。彼女といると、人は自分の「無意識」に気づいてしまう。自分の気持ちに、傷ついてしまうー。桜木紫乃の真骨頂、静かに刺してくる大人の物語。近づかずにはいられない。知らずにはいられない。「谷から来た女」二〇二一年。大学教授の滝沢は、番組審議会でミワに出会う。大人の恋愛を楽しむ二人だが…。「ひとり、そしてひとり」二〇〇四年。夜のすすきので、専門学校の同期生だったミワに再会した千紗は、あるお願いをする。「無事に、行きなさい」二〇一五年。ミワと付き合い始めて二年。倫彦は、将来を信じつつもどこか遠さを感じている。他、全六編。
1995年3月某日。渋谷駅で毒ガス散布事件が発生。実行犯として指名手配されたのは宗教団体「光の心教団」の幹部男性と、何も知らずに同行させられた23歳の信者岡本啓美。この日から、無実の啓美の長い逃亡劇が始まった。他人を演じ続けて17年、流れついた地で彼女が見つけた本当の“罪”とはいったい何だったのかー。
モロッコで秀男はカーニバル真子の「最後の仕上げ」となる手術を受け、日本で初めて「女の体」を手に入れた。好奇と蔑みの目、喝采と屈辱を浴び、話題を振りまきつつ、やがて追い詰められていく。「自己」と闘う思春期から(『緋の河』)「世間」と闘う激動期を活写する完結篇。
この扉の向こうに、秘密を抱えた旅人たちがいる。豪華寝台列車「ななつ星」の旅から生まれた5編の物語と2つの随想。ゆっくりと流れる時間の中、人は、それまで口にしたことのない言葉を語りだす。
北海道釧路市の千代ノ浦海岸で男性の他殺死体が発見された。被害者は札幌市の元タクシー乗務員滝川信夫、八十歳。北海道警釧路方面本部刑事第一課の大門真由は、滝川の自宅で北原白秋の詩集『白金之獨樂』を発見する。滝川は、青森市出身。生涯独身で身寄りもなかった。「二人デ居タレドマダ淋シ、一人ニナツタラナホ淋シ、シンジツ二人ハ遣瀬ナシ、シンジツ一人ハ堪ヘガタシ」。捜査の道筋で真由は『白金之獨樂』収録の詩「他ト我」と、被害者の心境を重ね合わせるようになる。滝川が人生の最後に、恋心と悔いを加速させ縋ろうとした縁ー。
男として生まれた。でも、きれいな女の人になりたいなー。蔑みの視線ー。親も先生も、誰に何を言われても関係ない。「どうせなるのなら、この世にないものにおなりよ」その言葉が、糧になった。生まれたからには、自分の生きたいように、生きてやる。リスペクトがあるからこそ、想像力のリミッターを解除できた。事実と虚構の化学反応が生み出す、過酷で、美しく、孤独で、切なく、劇的で、潔く、笑えて、泣ける、ザッツ・エンターテインメント!
舞台上の骨折で引退を決意したストリッパーのノリカ。心機一転、故郷札幌で店を開くことに。訳ありの凄腕バーテンダーやタイプの違う二人の女性ダンサーと店は軌道に乗り始める。しかし、私も舞台に立ちたい、輝きたいという気持ちは募るばかりでー。ノリカの表現者としての矜持と葛藤。そして、胸が詰まるような踊り子たちの鮮烈な生き様を描く、直木賞受賞作『ホテルローヤル』に連なる一冊。
北海道の東の街から流れ流れて沖縄にやってきたツキヨは、那覇の路地裏にある「竜宮城」で身体を売っている。奥歯の痛みに耐えられなくなったツキヨは、客に教えてもらったもぐりの歯医者を訪ねた。元歯科医の万次郎と呼ばれる男は、同居しているヒロキという青い眼をした若者の背に、モナ・リザのタトゥーを入れているところだった。ヒロキと気が合ったツキヨは、「竜宮城」を出て万次郎たちと暮らすことにするがー。
北海道最東端・根室は、国境の町である。戦前からこの町を動かしてきた河之辺水産の社長には、三人の娘がいた。長女智鶴は国政を目指す大旗運輸の御曹司に嫁ぎ、次女珠生は芸者を経て相羽組組長の妻となり、三女早苗は金貸しの杉原家の次男を養子にして実家を継ぐことになっている。にわかに解散風が吹いた総選挙で、智鶴の夫・大旗善司は、北方領土の早期返還を公約に掲げ、初当選を果たした。選挙戦を支えたのは、珠生の夫・相羽重之が海峡でかき集めた汚れ金だった。三姉妹はそれぞれの愛を貫き、男の屍を越え生きてゆく。直木賞作家が贈る波瀾万丈エンタメ!
元映写技師の夫、信好。母親との確執を解消できないままの妻、紗弓。一緒にくらすと決めたあの日から、少しずつ幸せに近づいていく。そう信じながら、ふたりは夫婦になった。ささやかな喜びも、小さな嘘も、嫉妬も、沈黙も、疑心も、愛も、死も。ふたりにはすべて、必要なことだったー。イッキ読み、厳禁!1日1編で10日間。ふたりが、夫婦が、「幸福論」へと辿りつく姿を、じっくりご堪能ください。
没落した社長夫人が新聞に見つけた訃報、それはかつて焦がれた六本指の少年のものだった。霧たちこめる釧路で生まれた男が、自らの過剰を切り落とし、夜の支配者へとのしあがる。男の名は影山博人。貧しく苛烈な少年時代を経て成熟していった男は、女たちに何を残したのかー。謎の男をめぐる八人の女たちの物語。
妻を失った上に会社を追われ、故郷を離れた五十四歳の亮介。十年所属した芸能事務所をクビになった二十九歳の紗希。行き場を失った二人が東京の老舗キャバレーで出会ったのは運命だったのかーー。再会した北海道で孤独に引き寄せられるように事件が起こる。そこにあったものは「愛」だったのか?驚愕の結末が話題を呼んだ傑作サスペンス長編。
釧路で書道教室を営む夏紀は、認知症の母が呟いた、耳慣れない地名を新聞の短歌の中に見つける。父親を知らぬ自分の出生と関わりがあるのではと、短歌を投稿した元教師の徳一に会いに根室へ。歌に引き寄せられた二人の出会いが、オホーツクで封印された過去を蘇らせる…。桜木ノワールの原点ともいうべき作品、ついに文庫化。
北海道釧路市の千代ノ浦海岸で男性の他殺死体が発見された。被害者は札幌市の元タクシー乗務員滝川信夫、八十歳。北海道警釧路方面本部刑事第一課の大門真由は、滝川の自宅で北原白秋の詩集『白金之獨樂』を発見する。滝川は青森市出身。八戸市の歓楽街で働いた後、札幌に移住した。生涯独身で、身寄りもなかったという。真由は、最後の最後に「ひとり」が苦しく心細くなった滝川の縋ろうとした縁を、わずかな糸から紐解いてゆく。