著者 : 梶山季之
放漫経営のツケが祟り、倒産寸前の苦境に陥った栄養剤メーカーのS製薬。銀行は融資を渋り、他社への吸収合併を迫って来た。社長の女婿で経理部長の滝沢は、資金調達に狂奔する中、九州に広大な不動産を有する資産家の知己を得たが…。愚昧な企業経営陣の顛末を描いた表題作を始め、伝説の“流行作家”が、ジャーナリスティックな視点で綴った傑作推理六編を収録。
朝鮮で植民地官僚の家庭に生まれ、敗戦の年に内地に引き揚げた著者は朝鮮を舞台にした作品を何作も執筆している。創氏改名が朝鮮の人々をいかに蹂躙したかを描いた「族譜」。日本軍の民衆虐殺事件が作品の要となる「李朝残影」。いずれも朝鮮植民地支配と日本人の責任を問いかけ、朝鮮民衆の受難を描いた作品として極めて完成度が高い。昭和二〇年八月十五日を主題にした自伝的小説「性欲のある風景」も収録。
昭和40年代、高度成長期日本。3種の神器と謳われた欲望の象徴・自動車をめぐって、各メーカーは熾烈な争いを繰り広げる。ライバル会社を欺き、出し抜き、機密を盗み出す“産業スパイ”の世界をあますところなく活写、1962年に発表されるや一躍ベストセラーとなり、「企業小説」という新ジャンルを開拓した傑作。同年、田宮二郎主演で映画化されている。
女ーそれは男を迷わせるだけではない。会社組織をも狂わせる凶器だ。篭絡した四人の美女を武器に、高度成長の波に乗る電機業界の舞台裏に暗躍する産業スパイ・片桐七郎。俺こそが影の凶器だ、と豪語する非情の男は、アメリカ仕込みの凄腕で、着々と成果を挙げていく…。精力的な取材とダイナミックなストーリー展開で、わが国に企業スパイ小説というすぐれて現代的なジャンルを拓いた著者の代表作。
東西製薬広告部長・宝田十一郎は出張帰りの電車の中で、広告代理店の東京エージェント専務・桂巴絵に声をかけられた。過去に一度だけしか逢ったことのない巴絵の色香に惑わされた宝田は、誘われるままに途中下車し、一夜を共にしてしまう。ほんの遊びのつもりだった宝田は、「もう二人は他人ではなくなったのだから、今度売り出す新製品の宣伝を担当させて頂けません」と迫る巴絵に、愕然となるー。
「トラブル・コンサルタント」なる会社を経営する伊夫伎亮吉は、天性の知恵と機知を発揮し、巧妙に法の目を掻い潜りつつ、団体や個人間の揉め事を内済し、巨利を得ることに生き甲斐を感じている。-ある日、彼が以前勤めていた“世界レーヨン”の八木専務から依頼があった。取引先である金沢の繊維メーカー“東西織物”が倒産寸前らしいので、その原因を調査してほしいという…。異色企業長篇。
男手ひとつで育てられ、貧しい少女時代を送った絹代は、男に騙され十五歳で処女を喪った。だが、男に体をゆだねるうち、それがお金になると知った絹代は、あどけない顔立ちと若い肉体を存分に生かし始める。やがて、彼女はその騙しのテクニックごとに四つの貯金通帳を持つようになるのだが…。したたかに登りつめていく女を描く表題作他、異色官能サスペンス集。
小豆相場は天候によって左右される。体を張って気温変化を知ろうとする相場師“森玄”の調査を手伝った木塚慶太は、赤いダイヤ=小豆の魔力から逃れられなくなった。そして“森玄”に対して戦いを挑んできた松崎辰治の卑劣な手段。慶太を巻きこんで、「買い」と「売り」の壮絶な仕手戦がはじまる…。資料を駆使し相場のカラクリを暴く経済小説。
大砲をぶっ放したり放火をしたり、餓鬼の頃から波天荒。13歳のときすでに、いっぱしの繭買入業者となり、日露戦争を挾んで繭の思惑買いで大儲けをする。女遊びも半端じゃない。なんと妾を持ったのが21歳のとき。その後儲けた金で次々と事業を興し、34歳で史上最年少の代議士となった梅井草平の波瀾万丈の人生を描いた表題作ほか、事業欲性事欲ともに溢るる大胆不敵な“実録・男の人生”5編。
19歳の冴子の運命は、上京直後、親切な男に声をかけられたことから大きく変わった。性のテクニックを仕込まれる奇妙な同棲生活。やがて、男に言われるまま美容整形を受け、見違えるほどの美女に変身した冴子は、銀座の一流クラブへ送り込まれた…。意外な殺人事件に発展する「腐爛死体の場合は」をはじめ、事件の裏に蠢く男と女の愛欲を抉る傑作推理。
早坂宗吉は、独身サラリーマン。社長に愛人の子を認知してほしいと頼まれた。報酬は莫大な認知料と重役昇進。いやいやながらひき受けた早坂だったが、世の男性が同じ悩みをかかえている事に目をつけ、商売にできないかと考えた。働かずして収入を得る新手のビジネス・認知業は大当り。だが…。表題作をはじめとする異色官能サスペンス集。
レスビアンの私は、楚々とした美女・高子に女同士だけが味わえる恍惚の味を教え込んで恋人にした。だが、高子は男のもとへ走り、やがて私は拾てられた。相手が男であることで凄まじい嫉妬に陥った私は、高子を殺そうと決意するが…。嫉妬が生み出した奇怪な犯罪を描く表題作をはじめとする異色官能サスペンス集。
愛欲を貪り尽くして飽くことを知らぬ女。運命に抗いつつ哀しみに溺れていく女。肉体を武器に世の中をわたっていく女。男を騙す女、そして騙される女。これら百花繚乱の芳香豊かな華々しき女性たちの人生模様を、自在の筆をもって、あますところなく描ききる。元祖超流行作家・梶山季之のきわめつき傑作小説集、登場。
大きな平らな岩が、川の中に突き出ている。男は不意に、「おや?」と瞳を凝らした。碧い水のよどみのなかに、蝋細工のような人体が浮いていた。でも、それは蝋細工ではなかった。なぜなら白いナイロンのパンティをつけ、その乳房や首筋のあたりに、バラの花弁のようなキス・マークが、滲むように浮き上がっていたからだ…。(「男の階段」より)男の出世の踏台となって無惨に殺された女をはじめ、日常の裏側に潜む愛欲と野望を赤裸に描く、ミステリーの傑作集。
映画スター櫟弘一郎は、美貌の混血娘冴子の奴隷として仕えている。同じく奴隷である大東映画社長笛吹に一蹴された日米合作映画出演の話を実現させてもらった代償としてである。執拗な拷問を受けながら、弘一郎は冴子の不可思議な魅力に陶酔を覚える。そして冴子は、富豪の有閑マダムにお好みのセックス・ゲームを提供する奴隷事業を始めるため、4人の奴隷を連れてメキシコに渡った。
有閑マダムに奴隷を派遣し、セックス・ゲームを楽しませる冴子の奴隷事業は見事に当り、ついにはシカゴ・シンジケートに眼をつけられることになった。一方冴子は“白い奴隷”獲得に乗り出す。ハリウッド有数の富豪であり、マゾでもあるエリック・バートン、女装の美少年J・シナモン等大成果を上げてゆくー。対立する冴子とシンジケート。そんな最中に、バートンが死体となって現われる…。