著者 : 森瑤子
「旅」をキーワードに名作短編を紹介するアンソロジー。地球を離れて遠くの惑星まで行くストーリーから、空港からホテルに行くつもり、という話、さらには心理的な距離感を旅になぞらえた作品まで、緩急自在、多種多様な「旅」。物語に触れるとき、心は時間と空間を飛び越えます。読書とは、まさに旅そのもの。本書は、ここではないどこかへ行きたいあなたを、新たな読書の世界へと招待する扉です。
小説家の私は、末娘の問題行動を機に、半年ほどセラピストとの対話を続けていた。よき母親を目指してきたが、家族との不協和音に自身の精神状態も追い詰められていた。夫婦の再和合を目的に、南国の地へ旅に出かけるものの、その旅先で夫と問答してしまう私。セラピストとの会話を反芻し、現地の男とのエロティックな対話や経るうち、家庭内の問題や、自身が抱える心の闇の根源に気づくが…。妻、母、そしてひとりの女として「性」と向き合い、既成の価値感から自己を解放していく姿を大胆に描いた革新的小説!
高校時代、同じ演劇部に所属していた女友だち五人。外資系の会社で働きながら劇作家を目指す聖衣子、劇団で芝居を続けるサキ、雑誌編集者で未婚の母の真利江、エステティックサロンのインストラクター・羊子、裕福な家庭で育ったピアノバーの演奏者・伊佐子。境遇も職業も違う五人は、今でも定期的に女子会で近況を報告し合っていた。五人それぞれの人生をそれぞれの目線で綴った、女性の生き方オムニバス長編の元祖。仕事や恋、対人関係に揺れ、傷つきながらも知的で美しいハンサムガールへと変身する女性の姿を鮮やかに描く傑作。
スコットランド・デボン地方に4人きょうだいの長女として生まれ育ったリタ。病弱でこもりがちだった少女時代を経て、第一次世界大戦で初恋の人を失い、失意の底にいた彼女は、日本人で初めてモルトウイスキーの製造法を学びにやってきた竹鶴政孝と運命的に出逢う。極東の日本で政孝の生涯を献身的に支え続けたリタの心のよりどころとはー。ニッカウヰスキー創業者・竹鶴政孝と、妻リタの人生をモデルに描いた感動の長篇伝記小説。
ジェニファ・ジョーンズの顔の輪郭、ローレン・バコールの目、マリリン・モンローの口元、アン・マーグレットの躰、ディートリッヒの脚に美容整形した世界No.1の美女の肉体が競争して無残にも傷だらけになった話。青ざめた顔の1枚の絵に魅せられてその絵に愛された女の幸福な死…。心がねじれたり魂を売りたくなるような世にも不思議なラブショック・ショート・ストーリー100編を収録。
遭難のあとの熱い抱擁は夢だった。傷ついたスカーレットはサヴァナで知り合った父方のいとこのコラム神父らとオハラ一族の故郷アイルランドに旅立った。船中で妊娠を知ったスカーレットの歓び。しかしレットの一方的な離婚届と再婚の知らせに、身も心も引き裂かれたスカーレットはアイルランドに留まり、1875年晩秋に女児を出産。スカーレットと愛娘キャットの新しい生活が始った。
スカーレットがアイルランドのタラの地に再建したバリハラ館で、愛娘は日に日に賢さを顕した。いとこのコラム神父はフェニアン団だった。ダブリンの社交界にデビューしたスカーレットはフェントン伯爵から求婚された。1880年夏、スカーレットは友人の准男爵ジョンからレットの近況を知った。今ここアイルランドにレットがいる。彼が愛娘キャットの存在を知るのはもうすぐだ…。
夜も更けた大都会のあちこちに男と女の見果てぬ夢が咲き乱れ、やがて最期を迎えたクレオパトラの嘆きのように空しさだけがわだかまる。そして、稀代の色事師カサノバのため息にも似た底知れぬ幻滅の嵐が心の中に吹き荒れるー豪奢なひとときと蠱惑的なまざさしが交錯する愛のつづれ織り51篇。
舞台で端役をつとめながら「運命の男」が現れるのを待っている女優の卵ケイティ。運命の男は現れた、優しい仮面をかぶって。彼の子を宿しているとわかった時、彼が復讐と金への欲望にとりつかれていることを知る。「それでも彼を愛している」…。彼女は罠にはまってゆく-。小気味よいサスペンスタッチの表題作他、黒魔術のようなパーティーにまぎれこみ、そこから出られなくなる恋人同士を描く「蛙」、“精巧な美女人形”に翻弄される三人の男女の姿を描く「現場」の三篇を収める。
美也子は33歳の普通のOL。この8年間いつも週末に流行作家の日比大作と密会してきた。最近、彼との愛人関係に充たされない何かがある…。ある日突然、彼の娘が2人の前に現れ、美也子は傷つきやすい魅力的なこの娘に、そして別居中の彼の自由奔放な妻にある嫉妬を感じた。そんな折、山で死んだ兄の友人に、美也子は心の安らぎと新しい愛の歓びを見つけはじめた。長編恋愛小説。
玩弄物として貧民窟から拾われた欧亜混血美女ロレッタ崔。彼女はいま捨てられようとしている。リパルスベイに昇った十四夜の月が、かすかにその手の中のものを光らせたー。返還を目前にした香港を舞台に、あたかもゆるやかな死を迎えるごとく、頽廃を生きる人々の絶望的な愛、性、死を描く魅惑の連作。
〈男はわたしをもてあましながら少しずつ手放そうとしている…こっちから別れてもいいのだ〉恋人を捨てる「マリコの選択」。結婚式の前日ひとりヨットに乗り込み結婚を拒絶した男や、花嫁の過去を知りぬいて披露宴で道化を演じる若い夫の心理を描く「結婚式」。他にハネムーンで倦怠期になる新妻など「結婚」の前後にいる男と女の愛と欲望のくい違いを軽妙に描く短編7編を収録。
カーター家はフィルと小説家の妻シナ、そして3人の娘、ディディ、サヤ・ジョー、ナオミ・ジェーン。冬、一家は、夫の故郷イギリスを訪れた。頑固一徹な義父、記憶喪失で入院中の義母、東京に残ったディディの性の悩み等々、異国の地でかんがえる親とは、夫婦とは、子供とは…。家族の愛と絆を描いた、「誘惑」「熱い風」に続く長篇小説。