著者 : 江國香織
両親の離婚によって母親の実家近くに暮らしはじめた望子。そのマンションの部屋からは郊外を流れる大きな川が見える。父親との面会、新しくできた友達。望子の目に映る景色と彼女の成長を活写した「川のある街」。河口近くの市街地を根城とするカラスたち、結婚相手の家族に会うため北陸の地方都市にやってきた麻美、出産を控える三人の妊婦…。閑散とした街に住まうひとびとの地縁と鳥たちの生態を同じ地平で描く「川のある街 2」。四十年以上も前に運河の張りめぐらされたヨーロッパの街に移住した芙美子。認知症が進行するなか鮮やかに思い出されるのは、今は亡き愛する希子との生活だ。水の都を舞台に、薄れ、霞み、消えゆく記憶のありようをとらえた「川のある街 3」。“場所”と“時間”と“生”を描いた三編を収録。
かつての「三人娘」が織りなす幸福な食卓と友情と人生に乾杯!作家の民子、自由人の理枝、主婦の早希。そして彼女たちをとりまく人々の楽しく切実な日常を濃やかに描く、愛おしさに満ち満ちた物語。江國香織“心が躍る”熱望の長編小説。
大晦日の夜、ホテルに集まった八十歳過ぎの三人の男女。彼らは酒を飲んで共に過ごした過去を懐かしみ、そして一緒に命を絶った。三人にいったい何があったのか…。妻でも、夫でも、子どもでも、親友でも、理解できないことはある。唐突な死をきっかけに思いがけず動き出す、残された者たちの日常を通して浮かび上がるのはー。人生におけるいくつもの喪失、いくつもの終焉を描く物語。
死んだ夫と交信する女性、妻の乳房に執着する夫、自分の死に気づいたタクシーの運転手…百人百様の人生を歩む登場人物たちが持つ意外な繋がりは一体?降り積もっては消えゆく、あなたの、そして誰かのお話。
資産家で、気ままな一人暮らしの稔は五〇歳。たいていは、家で本ばかり読んでいる。読書に夢中になって、友人で顧問税理士の大竹が訪ねてきても気づかないぐらいだ。姉の雀も自由人。カメラマンでドイツに暮らしている。稔に似て本好きの娘の波十は、元恋人の渚と暮らしていて、ときどき会いにやってくるが…。なかなか暮れない、孤独で切実で愛すべき男と女たちと、頁をめくる官能と幸福を描く長編小説。各紙誌で大絶賛された傑作、待望の文庫化。
佐野洋子の絵本『100万回生きたねこ』は、一九七七年に発売されて以来、今なお多くの人に読まれ続けている大ロングセラー。本書は、江國香織、谷川俊太郎をはじめとする十三人の作家や挿絵画家が、佐野洋子とこの絵本に敬意を込めて書き上げた短篇集。愛と死、生きることについて深く考えさせられる。
いじめを受けた側、いじめた側、その友だち、家族、教師…「いじめ」には、さまざまな“当事者”たちがいる。7人の人気作家が「いじめ」をめぐる人々の心模様と、ときにやさしく、ときに辛辣な視点で深く迫った物語を競作。胸の奥に、しずかに波紋を投げかける短編集。
小さな動物や虫と話ができる幼稚園児の拓人の目に映る、カラフルでみずみずしい世界。ためらいなく恋人との時間を優先させる父と、思い煩いながら待ちつづける母のもと、しっかり者の姉に守られながら、拓人は大人たちの穏やかでない日常を冒険する。
愛だけでは生きていけない。だけど、愛がない人生はつまらない。人生にうるおいを、読書にも愛を。一口に愛といってもその形はさまざま。異性への愛、兄弟愛、祖国愛etc.収録作品のジャンルも純文学から恋愛小説、時代小説までバラエティ豊か。笑える話も、泣ける話もあって、楽しみ方いろいろ。「愛」をきっかけに、豊かな読書ライフを始めてみては?短掌編あわせて19本、自信と信頼のラインナップ。
“あのひとへの、あたしの愛/それから、あたしへの、あのひとの愛/あたしは、あたしたちが一緒に暮らした日々の思い出を/あのひとの胸のなかにちゃんと蒔いておいた。/あたしがいなくなったあともその思い出があのひとを、なぐさめてくれるようにね。/けっきょくのところ、もんだいなのは愛ということ…”「あたし」と「あたしの人間」の、出会いから「あたし」の死までの17年と4カ月にわたる濃密な時間を、猫の視点で描いた感動的な物語。江國香織のしなやかな日本語で贈る傑作、初の文庫化。ジュディー・キングの素晴らしいイラストレーション16点も完全収録!
桃は35歳の歯科医。入籍間近と思われていた恋人と別れ9歳下の鯖崎とつきあい始めた。だが鯖崎は桃の親友の主婦・響子にも興味をしめす。一方、ネットで知り合った60歳の男と同棲していた響子の母・和枝が急死。亡き母の同棲相手への対応を巡り響子は夫と衝突する。そんな響子に鯖崎が接近し始め、桃は別れた恋人と再び会ってしまう…。年齢も境遇も異なる男女たちを通して恋愛、孤独、結婚の赤裸々な姿が浮かび上がる。
いい匂い。あの街の夕方の匂いー。些細なきっかけで、記憶は鮮明に甦る。雛子は「架空の妹」と昔話に興じ、そんな記憶で日常を満たしている。それ以外のすべてーたとえば穿鑿好きの隣人、たとえば息子たち、たとえば「現実の妹」-が心に入り込み、そして心を損なうことを慎重に避けながら。雛子の謎と人々の秘密が重なるとき、浮かぶものとは。心震わす“記憶と愛”の物語。
江國香織のみずみずしい日本語でよみがえる、心踊る“物語”の世界。脳みそのないかかし、心臓のないブリキのきこり、そして臆病なライオンの助けを借りて少女の冒険が始まる。植田真の繊細で美しい絵に彩られた名作、待望の文庫化!
外国人青年、少女、老婦人、大家族…。空港の到着ロビーで行き交う人々の、人生の一瞬の重なりを鮮やかに掬い取った川端賞受賞の表題作。恋人に別れを告げられ、妻が眠る家に帰った男性の心の変化をこぼさず描く「寝室」。“僕らは幸福だ”“いいわ”-夫婦間の小さなささくれをそっと見つめた「ピクニック」。わたしたちが生きる上で抱え続ける、あたたかい孤独に満ちた、六つの旅路。川端康成文学賞受賞作。
東京・神谷町の広壮な洋館に三世代十人で暮す柳島家。子供たちは学校に通わず家庭で教育されていたが、ある日とつぜん、父親の提案で小学校へ行くことに。次女の陸子はそこで知るのだった。叔父や叔母との同居、父親の違う姉と母親の違う弟の存在などは、よその家では「普通」ではないらしいということをー。世代をこえて紡がれる、風変りな一族の愛と秘密。江國香織の新たなる代表作。
三世代が親密に暮す柳島家。美しく幸福な家族に見える彼らにはしかし、果敢に「世間」に挑んで敗北してきた歴史があった。母の菊乃には婚約者がいながら家出し、妊娠して実家へ戻った過去が。叔母の百合には嫁ぎ先で病気になり、離縁した経験がある。そして、健やかに成長する子供たちにもまた、変化がおとずれー。家族それぞれに流れる時間を細やかに豊かに描いた、三世代百年にわたる愛の物語。