著者 : 深沢潮
愛をもって垠を支えることを誓う方子。その二人を相次いで悲劇が襲うーさらに起こった関東大震災。一方でそれまでの苦難をかいくぐり、独立運動家・金南漢に惹かれて海を渡る孤独な女、マサ。戦前・戦中・戦後の日本と朝鮮半島を舞台に、二人の女性の生涯を描く、著者渾身の力作。
「無難に生きるのが一番幸せなのよ」という母の口癖にしたがって生きてきた莉子。それなのに、待っていたのは勤務先の突然の倒産に恋人との別れだった。すべてを失った莉子に残ったのは趣味で続けてきた踊ることの楽しさだけ。両親の反対を押し切り、フラメンコを学ぶため思い立って本場スペインに旅立ったが、異国での生活に無力さを突き付けられる。自分を見つめ直す日々の中で、莉子は自分にとっての大切なものが何かを探し始める。
誰からも必要とされず、冴えない日々を送る葉奈。人生逆転を賭けて小説家デビューを目指すが、新人賞の最終選考でテーマが凡庸だと酷評される。そんな中、応援しているK-POPアイドルの投稿が大炎上。彼が元慰安婦女性や虐待被害者を支援するブランドを着ていたためだという。戦争に弄された、声なき哀れな女性たちーこれこそが書くべき強いテーマだと感じた葉奈は沖縄へ飛ぶが、取材先の女性から「当事者ではないのに、なぜ書くのか」と覚悟を問われ…。
21世紀目前、福美は困窮していた。抱えた娘の父親は行方知れず、頼る実家もなく仕事は辞めた。ただ、母乳だけはありあまるほど出る。それに目を付けられ、必要とする家庭に母乳を届ける活動をしているという団体に福美は雇われることに。すると、かつて同級生だった政治家一家から、乳母の指名が入る。母乳が出ずに困っていたのは、かつて福美をいじめていた奈江だった。求められる母親らしさ、親子の関係や家族のかたちに囚われた二人の女性の視点を通して「母性」を描くサスペンスフル長編。
二〇一三年の夏、在日韓国人の大学生・知英はパスポートを取得した。表紙の色を見て、改めて自分の国籍を意識する。町ではヘイトスピーチのデモに遭遇し、戸惑う。「なにじん」なのか、居場所はどこにあるのか、友人と分かり合えないのはなぜか。自分に問い続ける知英は少しずつバランスを失っていく。K-POPファンの梓、新大久保のカフェで働く韓国人留学生のジュンミン、ヘイトスピーチへの抗議活動に目覚める良美、日本に帰化したのち韓国で学ぶことを選んだ龍平、そして知英。ふたつの国で揺れる五人の男女の葛藤と再生を描く。
見栄や虚栄心がSNSに彩られ、不信と無理解が、こぼれひろがる…恋人、夫婦、家族、母娘ーさまざまな関係に、いま、何が起きているのか。年の差婚の実態、夫婦間の葛藤、子どもとの関係、何かがうまくいっても、さらに迷い続ける自分がいる…現在進行形の不確かな「いま」の、その先の生き方に気づいていく人びとのものがたり。果てない欲望の向こうに何があるのかを探る連作小説集。
たかがランチに3500円!?でもママ友の集まりには行ったほうがいいよね…。生協の配達員に恋する恵子。離婚を隠すシングルマザーの秋穂。スピリチュアルに傾倒する千鶴。若手俳優のおっかけにのめりこむ綾子。娘の受験に悩む由美。この街で、このタイミングで、子どもを産まなければ出会わなかった五人の女たち。幼稚園バスの送迎場所から「ママ友」たちの人生は交錯していくー。
親戚にも家族にも疎まれながら死んでいった在日一世の父。遺品の中から出てきた古びたノートには、家族も知らなかった父の半生が記されていた。ノートから浮かび上がる父の真実の姿とは。そして子供たちに伝えたかったこととは?
真紀と未央と佳乃は大学時代の同級生。結婚を経て自由に生きる未央、田園調布の一戸建で温かい家庭を築いている佳乃。三十五歳独身の真紀は幸せそうな二人が羨ましい。真紀は、結婚を決断してくれない新宮との未来に不安を抱きながらも、彼と身体を重ねる日々。そんな真紀の趣味は、新築マンションのモデルルールめぐり。素敵な家で暮らす自分を想像しながら揺れる気持ちを落ち着かせる。ある日、大地震が起こり、女友達が置かれている厳しい現実や悩みが露呈する。女の幸せってなに?真紀が最後に下した決断は…?
大手下着メーカーの広報としていた香織は、妊活のために会社を退社することに。そんな時、母校「聖アンジェラ学園初等部」の広報を校長先生からお願いされる。広報の仕事だったらお手のものと軽く考えていた香織。しかし、子を愛するがゆえに他人の足をひっぱったり駆け引きに利用されたりと、一筋縄ではいかない母親たちの複雑な思いに飲み込まれていく。悩んだ香織と母親たちが出したそれぞれの決断は?
30年で200組。福は在日の縁談を仕切る日本一の“お見合いおばさん”だ。斡旋料で稼ぐのに、なぜか生活は質素。日々必死に縁を繋ぐ理由とは(「金江のおばさん」)。在日韓国人の彼に恋をした。結婚への障害は妊娠で突破したはずが、大量のごま油と厳しい義母が待っていて…(「日本人」)。婚活から介護まで、切なく可笑しく温かく家族を描く連作集。
35歳、独身の真紀は、実家で母と暮らしている。大学時代の女友達佳乃は子育てに忙しく、未央は奔放にパートナーを選び自由に暮らしているように見える。二人を意識しつつ、居心地のよい部屋を求めてモデルルームを探し歩き、結婚したいと思いながら、不実な男とのつきあいを断てないー欲深いのに、心ぼそい。伴侶を求める切実な想いを綴る。
在日のお見合いをしきる「お見合いおばさん」福のもとを訪れる親子の婚活の実態と家族の裏事情。青春・恋愛・夫婦・子育て・介護…イタくてせつない現実をタフに生き抜く老若男女の姿を活写する。R-18文学賞受賞作+書下ろしを収録する連作長編小説。