著者 : 滝口悠生
小説家の夫と妻は、住み慣れた家からの引っ越しを考え始めた。長いつきあいの友人たちやまわりの人々、日々の暮らしの中でふと抱く静かで深い感情、失って気づく愛着、交錯する記憶。かけがえのない時間を描く、著者4年ぶりの長編小説。 「どこまでも伸びる一日。そして過ぎてみれば、たった一日。」(本書より)
ある秋の日、大往生を遂げた男の通夜に親戚たちが集まった。子、孫、ひ孫三十人あまり。縁者同士の一夜の何気ないふるまいが、死と生をめぐる一人一人の思考と記憶を呼び起こし、重なり合う生の断片の中から、永遠の時間が現出する。「傑作」と評された第154回芥川賞受賞作に、単行本未収録作「夜曲」を加える。
「男はつらいよ」シリーズの子役、秀吉だった「私」は、寅次郎と一緒に行方不明になった母を探す旅に出る。映画の登場人物と、それを演じる俳優の人生が渾然一体となって語られ、斬新で独創的と絶賛された“寅さん小説”の表題作ほか、短編「かまち」とその続編「泥棒」の三作を収録。野間文芸新人賞受賞作。
夢みたいに流れる風景にみとれた私は、原付バイクごとあぜ道へ突っ込む。空と一緒に回転し、田んぼの泥に塗れた19歳だった私と、14年後の私がつかの間すれ違う。互いの裸を描き合った美術講師の房子や、映画監督の夢をかかえて消えた友の新之助、そして旅先で触れた様々な言葉。切れ切れの記憶を貫いて、ジミヘンのギターは私のそばで静かに発火する。寡黙な10代の無二の輝きを刻む物語。
風呂トイレつき、駅から5分で家賃3万円。古アパート・かたばみ荘では、出るときに次の入居者を自分で探してくることになっていた。部屋を引き継いだ住人がある日失踪して…。人々の記憶と語りで綴られていく16年間の物語。注目の芥川賞作家、初めての長篇小説。
離婚と大地震。倒産と転職。そんなできごとも、無数の愛おしい場面とつながっている。旅先の妻の表情。震災後の不安な日々。職場の千絵ちゃんの愛らしさー。次第に輪郭を失いながら、なお熱を発し続ける一つ一つの記憶の、かけがえのない輝き。覚えていることと忘れてしまったことをめぐる6篇の連作に、ある秋の休日の街と人々を鮮やかに切りとる「文化」を併録。
秋のある日、大往生を遂げた男の通夜に親類たちが集った。子ども、孫、ひ孫たち30人あまり。一人ひとりが死に思いをはせ、互いを思い、家族の記憶が広がっていく。生の断片が重なり合って永遠の時間が立ち上がる奇跡の一夜。第154回芥川賞受賞。
初めての恋。東北へのバイク旅行。そしてジミヘンのギター。愛おしい日々の記憶は、呼び起こすたびにその姿を変える。2001年の秋からいくつかの蛇行を経て2011年の春までの時間をつなぐ、頼りなくもかけがえのない、やわらかな記憶。人と世界へのあたたかいまなざしと、緻密で大胆な語りが融合した、記憶と時間をめぐる傑作小説。第153回芥川賞候補作。
「男はつらいよ」シリーズの子役、秀吉だった「私」は寅次郎と一緒に行方不明になった母を探す旅に出た…27年の歳月を経て、そんな昔話を伊豆の温泉宿で「美保純」とともに懐かしむ「私」。「男はつらいよ」の世界に迷い込める、味わいたっぷりな“寅さん小説”、表題作の「愛と人生」の他、短編「かまち」とその続編「泥棒」の3作を収録。
放蕩の末に最後の日々を過ごす老人と、その孫娘の静かな同居生活を描く「寝相」。失業し妻と別居中の男、更生した元女番長、いつからか地面を這うようになった小学生が織り成す異色の群像劇「わたしの小春日和」。奇妙な美しさを放つ庭の情景が、男女4人の視点から鮮明に浮かび上がる「楽器」(新潮新人賞受賞作)。目の前に広がる世界に、人の中を流れる物語に、ただ目を凝らし、耳を澄ますための、3つの物語。