著者 : 澁澤龍彦
初の単行本化となる渡辺一夫訳の『架空の伝記』をはじめ、上田敏、堀口大學、日夏耿之介、日影丈吉、澁澤龍彦、種村季弘ほか12人、空前絶後の豪華翻訳陣による絢爛たる幻想短篇集。バルビエ他の挿絵も多数収録。
「エロスは黒い神なのです」 「この書物は闘牛の一種と思っていただきたい」。満潮によって閉ざされた城ガムユーシュに招かれた語り手が、イギリス人の謎めいた主人モンキュらとともに繰り広げる美しくもおぞましい性の饗宴。 「この破廉恥な姿態はどこから見ても申し分なく破廉恥で、私たちの目には裸体以上に(あるいは裸体以下に)みだらなものだった。五匹の蛸が彼女の身体にへばりついたまま、[……]少女の肉体と軟体動物頭足類とがからみ合っている有様は、一種厳然たる人獣交媾の段階に達していた。おそらく曖昧に崇高とでも呼ぶ以外には呼びようのないものが、そこには見てとれたのだ」。(本文より) 1979年刊の新版に基づく、シュルレアリスム小説の奇書にして名訳。
反社会、テロ、スキャンダル、ユートピアの恐怖と魅惑など、猥褻罪に問われた「サド裁判」当時に書かれた時評含みのエッセイ集。すでに一部の注目を集めはじめていた弱冠三十三歳の気鋭の評論家として、その真髄を示す評論集。時代は安保闘争直後の騒然とした雰囲気に包まれていた。後年とは異なり、時代と対峙する緊張をはらんだ批評が、随所に現れる。
虚空に飛ぶ能力を持った蹴鞠の名人の物語「空飛ぶ大納言」。奇想天外な食物幻想譚「饗宴」。中世室町時代を舞台にして、考証と空想のはざまを自在に往還する「開かずの箱」。夢の中の生と生の中の夢が迷路の中で呼びかわす「土偶木偶」。他全46編。
怪奇・恐怖・神秘を主題に、澁澤龍彦によって選ばれ翻訳された珠玉のフランス短篇小説群をオリジナル編集。『澁澤龍彦訳幻想怪奇短篇集』の続編。子供を何人も連れ去って一緒に住む奇妙な紳士を描いた『ひとさらい』のシュペルヴィエルは、澁澤がコクトーの次に熱中したと語った詩人で、文庫版初出。ほかに、マンディアルグやカリントンなど、意表を突く展開と絶妙な文体が愉しめる傑作選。
数々のフランス幻想小説の系譜の中でも、サドからネルヴァル、トロワイヤまで、怪奇・恐怖・神秘を主題に書かれた珠玉の澁澤訳作品群を、オリジナル編集。どれも、時代を感じさせない新鮮味のある作品で、とくに文庫版初の『共同墓地』(トロワイヤ著)全篇を収録。澁澤の翻訳の絶妙な味わいを堪能できる一冊。
「赤頭巾ちゃん」にしても「眠れる森の美女」にしても、本来は血なまぐさくて荒々しく、セクシャルで残酷な民話だった。ペローの童話はその味わいを残しながら、一方では皮肉な人間観察や教訓にみち、童話文学の先駆的作品となった…この残酷で異様なメルヘンの世界を、渋沢龍彦はしなやかな日本語で甦らせた。独特の魅力あふれる片山健の装画をそえておくる決定版ペロー童話集。
美徳を信じたがゆえに悲惨な運命にみまわれ不幸な人生を送るジュスティーヌの物語と対をなす、姉ジュリエットの物語。妹とは逆に、悪の哲学を信じ、残虐非道のかぎりを尽しながら、さまざまな悪の遍歴をかさね、不可思議な出来事に遭遇するジュリエットの波爛万丈の人生を物語るこの長大な作品は、サドの代表作として知られ、サドの思想が最も鮮明に表現された傑作として知られる。
妹ジュスティーヌとともにパンテモンの修道院で育ったジュリエットは、悪徳の快楽をおぼえ、悪の道へと染まってゆく。パリで同好のさまざまな人物と交わり、イタリアへと逃げおちた彼女は、背徳の行為をくり返し、パリへと帰る…。悪の化身ジュリエットの生涯に託してくり広げられる悪徳と性の幻想はここに極限をきわめ、暗黒の思想家サドの最も危険な書物として知られる傑作幻想綺譚。
ルイ十四世治下、殺人と汚職によって莫大な私財を築きあげた男たち四人が、人里離れた城館で、百二十日間におよぶ大乱行、大饗宴をもよおした。そこで繰り広げられた数々の行為の物語「ソドム百二十日」他二篇収録。
澁澤龍彦が「人獣交合の描写のエロティシズムとグロテスクぶりにかけては、この橘外男の『陰獣トリステサ』以上のものは、まだ世界のどこの文学にも現われていないようだ」と絶賛した表題作ほか、綺想の傑作『青白き裸女群像』『妖花イレーネ』を一挙収録。