著者 : 牧秀彦
風雲急を告げる幕末。神官の家に生まれた祝井信吾は剣の修行に明け暮れていたが、ある時父が何者かに殺害された。死の間際、神宝の御太刀を守護する命を受けた信吾は本社がある京へ向かう。道中、路頭に迷いかけたところを江戸で試衛館の近藤勇と土方歳三に救われた信吾。剣の腕を見込まれ浪士組に誘われるが、御太刀を狙う強敵が次々に現れた。神剣に隠された政局を揺るがす謎とは?大スケールで描く幕末剣戟譚、開幕!
相思相愛の日比野左内と茜姫であったが、二人はまだ男女の仲に至っていない。父殺しの汚名を着せられて出奔した兄を見つけ出し、その潔白を証明するまでは、誰とも深い仲にはなるまい。左内は、そう心に決めているのだ。二人が甘く切ないすれ違いをした夜、左内の前に弊衣の浪人者が現れた。その人物こそ、日比野博之進、三十四歳。長く行方知れずとなっていた、腹違いの兄であった。
父の仇を討つべく八歳より母の導きで血の滲む修行。長剣抜刀「卍抜け」に開眼し、十八歳で仇討ち旅に出た林崎重信。十一年ぶりに出羽の地を踏んだ重信を狙う刺客。かつて重信が討ち果たした仇の息子であった。この刺客に、諜者らしき男が語りかけた。「おぬしの仕事は、最上義光の一命を断つこと。私怨を晴らすのにかまけて、信長公よりご依頼の儀を疎かにされては困る」
晩秋の江戸で侍・町人の別なく針を突き立て切り刻む凄惨な殺しが続発。暗殺奉行の依田は両国に突如現れた唐人一座と長崎との接点に巨悪の存在を察知し、将軍家重公の下知を待つも、なぜか一向に沙汰が下りず焦りを深める。一方、急患に手を焼く女医彩香の前に傲岸不遜な男が現れる。彩香を押しのけ、鮮やかに小刀を捌いて患者を救った男は、長崎から来た医者だと名乗る。大反響のシリーズ第四弾!
尼崎藩の元江戸家老、塩谷隼人もついに隠居。長屋の大家としての第二の人生が始まった。美貌の書道家弥生も新たに店子に加わり、穏やかな日常が続くかと思われた。そんなある日、長屋出入りの魚屋の太助が、棒手振りの同業者から逆恨みで襲われる光景に、隼人は出会す。天秤棒を振り回し、見事追い払う太助であったが、隼人は苦言を呈する。「生兵法は怪我の元と申すは、おぬしのことぞ」
武家女の物の怪が旗本を色香で惑わせ次々と取り殺しているー江戸を騒がす不気味な噂に、暗殺奉行の依田は謀略の匂いを嗅ぎつけ、闇裁きの配下に探索を命じる。一刀流の早見、手裏剣遣いの神谷ら軍団の面々が仕掛仕置に闘志を燃やすなか、ひとり浮かぬ顔の与七。実は三人目の旗本が殺められた川開きの夜、血刀を手に必死で逃げる美しい女を深川で助けたのだった。大反響の新シリーズ第三弾!書き下ろし長編時代小説。
尼崎藩江戸家老を長く勤めた塩谷隼人であったが、藩主松平忠告も死去。家中の落ち着きを待ち三回忌の後、ついに暇をもらい晴れて隠居の身となった。主家から離れた後の月々の暮らしを考えた隼人は、八丁堀に土地を借りて長屋を普請。しかしどうしたことか、店子がまったく集まらない。窮する隼人だが、尼崎藩や船宿『海ねこ』の面々に頼るわけにはいかぬ。職を求め、口入屋を訪ねるが…。
天ぷら屋台の元締めでしっかり者の母に育てられた銀次。普段はふらふらしているが、面倒見の良さと剣の腕で町の事件を解決していく。髪結いの娘が攫われた。引き裂かれた母子のため、銀次の鉄刀が一閃する!(「女房子供を大事にしろ」)。辻斬りに襲われた銀次。予想外の強さに敗れた銀次は、再戦を誓い修行に励む。辻斬りの正体は?そして決着の行方は!?(「辻斬り野郎が許せねぇ」)。人情迸り、激闘乱舞する新シリーズ、開幕!
文化二年、お盆の頃。摂津尼崎藩江戸家老・塩谷隼人は胸に虚しい思いを抱えていた。それは、還暦を過ぎた今となっても父の仇討ちを果たせていない悔恨からきている。そんな折、両国広小路で暴漢たちに絡まれていた一人の武士を助けた。松崎と名乗るその武士は、聞けば四十年の間、親の仇を追う身であり、奇しくも隼人と同い年であった。因縁を感じた隼人は、助太刀を決意するが…。
藩主の娘・茜や江戸家老・塩谷隼人の覚えめでたいとされ、朋輩の嫉妬に憔悴する鏡大次郎。隼人はことの発端となった道場主・日比野左内を藩邸に呼ぶ。左内は大次郎と激しく木刀をかわした後、あらぬ噂で彼を追い込んだ首謀者二人に言い放つ。「立ち合えば自ずとお人柄も分かります。鏡殿の剣には一片の偽りもごさいませんでした故、ご両名のお心の内を拝見いたしとう存じまする」。新作二篇収録。