著者 : 猪俣美江子
1920年代初頭の秋の夕方。ケント州の小さな村をドライブしていたジェリーは、美しい娘に出会った。彼女は住居の“白亜荘”まで送ったとき、メイドが駆け寄ってくる。「殺人よ!」ジェリーは、スコットランドヤードの敏腕警部である父親のW・Tと捜査をするが…。英国本格の巨匠の初長編ミステリにして、本邦初訳作、ユーモア・推理・結末の意外性ーそのすべてが第一級!
クリスマス直前のウィーンで、オペラの歌姫の最期を看取った人々。帰途にチャーター機が悪天候で北チロルの雪山に不時着してしまう。彼ら八人がたどり着いたのは、雪で外部と隔絶された小さな村のホテル。歌姫の遺産をめぐり緊張が増すなか、弁護士によって衝撃的な遺言書が読みあげられる。そしてついに事件がー。修道士カドフェル・シリーズの巨匠による、本邦初訳の傑作本格。
ロンドンの女優エステラ。その絶大な人気は、体が不自由でウェールズに住んでいるという娘との交流を綴った新聞の連載エッセイに支えられていた。エステラの未来は順風満帆に思われた。服役中の危険人物の夫が、病気のため特赦で出所し、死ぬまえに娘に会いたいと言い出すまでは…。勃発した怪事件に挑むのは、警部チャッキー。巨匠の技巧が冴える、本邦初訳の傑作ミステリ!
名探偵キャンピオン氏の魅力を存分に味わえる、粒ぞろいの短編集。袋小路で起きた不可解な事件の謎を解く「ボーダーライン事件」や、20年間毎日7時間半も社交クラブの窓辺にすわり続けているという伝説をもつ老人をめぐる、素っ頓狂な事件を描く表題作など計7編のほか、著者エッセイを併録。
グレースは心の優しい女性だ。恋人と別れたいけれど、相手を悲しませたくない。だから、仕方なく殺してしまうのだ。一方、グレースを偶然見かけた殺し屋のサムは彼女に恋心を抱き、監視するようになる。そして彼女の殺人の手際のよさに思いをつのらせていく。やがて、グレースが三人目の恋人を殺した時、グレースとサムは運命の出会いを…殺人癖のある女と一匹狼の殺し屋の危険な恋を描くブラックな味わいのサスペンス。
わたしの心の闇は23段階あり、気分が沈むにつれて深まっていく。わたしは今どの段階にいるのか?保守的な警察署内で、偏見と闘うエクアドル人の女性警官フィル。ある夜、製薬会社の工場で劇薬の漏洩事故が起き、現場に急行した彼女は謎の男を見かけた。数日後男は銃の暴発で死亡するが、彼と製薬会社との対立を知ったフィルは、潜入捜査を決意する!気骨で孤独に立ち向かうフィルの姿を描く、魂を震わすハードボイルド。
大規模な医療改革を目指す委員会に名前をつらねる二人の議員が、連続して不審な死を遂げた。一人は自動車事故で、もう一人は高層ビルから転落して…もし事件がそこで終わっていれば、すべてはたんなる偶然と片づけられていたにちがいない。が、またもや同じ委員会のメンバーが、今度は不可解な発作を起こして重体に陥ってしまった。しかも三人の共通点は、同じ委員会のメンバーであるだけではなかった。かつて天才外科医として名を馳せた医師ラズラムの手で、全員が美容整形手術を受けていたのだ。連続する事件の背後にいるのはラズラムなのか? もしそうなら、彼はどんな手を使って議員たちを死にいたらしめているのか?ラズラムの助手として働く内科医ジーナは、恩師でもある彼の挙動に不審を抱き、友人のFBI捜査官ジェリーとともに事件の謎を追うが。
「リトル・シャムロック」のバーテンダー、ディズマス・ハーディは、地方検事局時代の同僚ラスティから、かつて二人が刑務所送りにした凶悪犯ルイスの出獄を知らされる。出所したら二人を殺すと脅して、さらに刑期を延長された男である。やがて、ラスティの愛人が射殺された。ラスティもまた射たれ、死体は海に流されたらしい。死体があがらず、捜査が進まないのに業をにやしたハーディはみずから事件解明に乗り出すが。
写真家クレアは放浪の旅を終え、家族の待つ我が家に帰ってきた。顔を合せれば喧嘩ばかりの姉カーメラ、新米警官の妹ジニー、やんちゃな甥マイクリーン、そして愛する父母。ところが、近くの森で少年が惨殺されるという事件がおこる。折しも一家の留守に泥棒が入り、森で憩う人々を撮ったクレアの写真が盗まれた。幼いマイクリーンを気遣いつつ、事件解決に奔走する三姉妹の姿をユーモアたっぷりに描く爽快なデビュー作。
わたしは騙し絵画家。人の目を欺く幻影を生みだすのが仕事だ。そのわたしのもとへ、美術品収集家として名高い大富豪の老婦人がやってきた。屋敷の舞踏室に、壁画を描いてほしいのだという。しかし、屋敷でわたしを待っていたのは、十五年前に起きて迷宮入りした殺人事件の、今も消えぬ暗い影だった…読後に強烈な印象を残す、心理サスペンスの新しい傑作。
ベッドで隣に横たわる妻のめそめそした泣き声を聞きながら、ピップは怒りと苛立ちを必死に抑え、寝たふりをつづけた。なぜこの女はセックスで愛を繋ぎとめようとするのだろう。透けたネグリジェを着ても、こちらの嫌悪感を掻きたてるだけなのに。彼が心を寄せる人は別にいた。魅力的な肢体をもつ、天使のような娘。だが、妻がいるかぎり、彼はその娘の愛を知らずに終わるだろう。殺意は一瞬のうちに形をとり、鮮明な光景となって脳裡に広がった。やるならいまだ…。弁護士ヘレン・ウェストは事件の報告書に腑に落ちないものを感じた。健康な中年女性が、原因もなしにある日突然就眠中に死ぬだろうか?検死では毒物は発見されず、死体を発見した夫ピップにも不審な点はなかった。だが、ヘレンの与り知らぬところでピップは若い娘への異常な愛を募らせ、自らの欲望を満たそうとしていた。英国女流の鬼才が放つ英国推理作家協会賞受賞作。
偽りを言う者は滅びるー。事故死した検死医の葬儀の日、獄中の連続殺人犯から脅迫めいたメッセージが届けられた。死んだ検死医の偽証で、自分は無実の罪まで着せられているというのだ。再捜査を始めたメイブリッジ主任警部は、解決したはずの事件の裏に潜む愛と僧しみの人間模様を知るが…。サスペンスの名手が卓越した心理描写で描く、美しくも残酷な物語。
森に埋められていた女性の死体は、一糸まとわぬ姿だった。割れた額、咽にぱっくりあいた傷。いったい誰がこんな酷いことを…。被害者の身元は、地元の不動産業者の妻と判明した。発見された森で、娘の家庭教師としばしば逢引きをかさねていたという。じつは殺された晩も、ふたりは会っていた。だが、それは甘い逢瀬などではなく、別れ話のためだった。必死ですがりついてくる女を、男は思わず杖で殴りつけていた。しかし、男が認めたのはそこまでだった。泣きじゃくる女を残して、そのまま立ち去ったというのだ。弁護士のヘレンは、男がいまつきあっている女性と親しかったことから、恋人のベイリー警視の捜査と対立することになると知りつつ、自分の担当外の事件に探りをいれはじめる。静かな村にひそむ歪んだ人間関係を弁護士ヘレンが解き明かす、英国推理作家協会賞法廷ミステリ賞受賞作。
豊かな体と長い髪、どんなに隠そうとしてもショーガールのように見られてしまうきれいな脚、それがわたしの外見だ。ウェストサイドのレストランでキャッシャーをしている売れない女優ーそんなわたしの帰りを待つのは、アパートの部屋に住まわせているかわいい野良犬たちのはずなのに、その日は様子がちがっていた。付き合いのあった盲目の男と盲導犬が殺されていたのだ。刑事には容疑者扱いされるし、その後わたしの愛犬の一匹も何者かに惨殺されて…。キュートで犬好きの女優が予想もつかぬ怪事件に巻きこまれていく風変わりな新シリーズ。
ネオンと強烈なリズムが闇を引き裂く街ウェッジ。この街で離婚したグラフィックデザイナーのターナーはマイクルを知った。逞しい筋肉、肉食獣のような身ごなし。彼の獲物は危険な歓びを求める女たちだ。マイクルは女たちの望みをかなえてやるー彼なりのやり方で。いつしかターナーも彼と血の快楽を分けあうようになっていた。だがマイクルが本当に求める女はただ一人、彼と真に歓びを分かちあえる女。その運命の女がついに現われたとき、ターナーとマイクルは死を弄ぶ危険なゲームに巻きこまれてゆく。鬼才が放つ新感覚のサイコ・サスペンス。
英文学教授ポーラ・グレニングは、庭の石段ど足を滑らせ怪我をした友人の代理講師として、急遽、金持ちの未亡人レディ・ヒンドンの屋敷で毎週ひらかれる創作講座にでることになった。だが友人の怪我はたんなる事故ではなかった。何者かが石段に細工していたのである。それだけではない。“家庭内の殺人”をテーマに生徒たちが書いた短篇には、事故との類似性を感じさせるものがあったのだ。生徒の誰かがストーリーをなぞって罠を仕掛けたなどということがあるだろうか?あれは、生徒の中に実際に“家庭内の殺人”を犯した者がいると暗示していたのか?しかし真意を確かめる間もなく、事態は思わぬ方向へと展開した。英国女流の新鋭が放つクラシックな本格サスペンス。
東部の田舎町にヘイスティングス一家は引越してきた。作家の夫、元女優の妻、前妻の娘ギャビー、双子の弟ショーンとパトリック。いかにもモダンなこの一家を、裏の森から一対の邪悪な目が見つめていた。あの子供たちをいただいたらさぞ楽しめるだろう-そのものは、人間の形をしていなかった。一家の越してきたケスラー農場の裏に広がる森は“妖精の森”と呼ばれ、地元の人々は夜歩きを避けていた。そして、前住者のケスラー老人は謎めいた経歴の持ち主で、多量の金を地所内に埋めていたという噂もあった。だが、ヘイスティングス夫妻は格別気にとめていなかった-事件が起こるまでは。ファンタジイの巨匠が新たな境地を切り拓いていく大きな話題を呼んだ、全米ベストセラー巨篇。