著者 : 玄侑宗久
恋の悩みを抱えたまま、被災地の寺に入った新米僧侶の懊悩と逡巡。ブッダの弟子になった気弱で明るい青年は、仲間と共にフクシマでどう生きるのか。福島県に住む僧侶作家が7年を経て放つ書き下ろし長篇。
震災後の苦難に満ちた日々の中で、珠玉の小説が生まれた…地震・津波の記憶が鮮烈に蘇る「蟋蟀」「小太郎の義憤」、原発事故後の放射能や除染を背景にした「アメンボ」「拝み虫」、深い情感にみちた「東天紅」、厳粛さとユーモア、不思議な輝きに包まれる表題作「光の山」。福島在住の僧侶作家が、生と死の現実を凝視しながら描いた祈りと鎮魂の作品集。芸術選奨文部科学大臣賞受賞。
グループホームで働く千鶴は結納前日も夜勤が入り、入居者たちはそれぞれの方法で千鶴を祝い…(「Aデール」)。四十年以上前に失踪した初恋の女性・葉子に会うため、窪木は孫娘の園を連れて、葉子の入院する病室を訪ねる(「布袋葵」)。四雁川の流域に暮らす者たちを通し、生死や悲喜に臨む姿を静かに描く七篇。
父が痴呆症で徘徊をするようになった。ミサコという人を探しているらしい。記憶が断片になり、ある時は小学生、ある時は福祉課の課長にと次々変身する父に困惑する幹夫。だが介護のプロの佳代子に助けられ、やがて父に寄り添うようになり、ともに変化してゆく。無限の自由と人の絆を、美しい町を背景に描く。
飛鳥は二十三歳で突然自らの命を絶った。そして三年後の命日の前日、彼女はかすかな気配となって現れる。死をいまなお受け入れることのできない母親、弟、離婚して家を出た父親、男友だち、ストーカーだった男、弟の恋人…関わりのあった六人ひとりひとりが物語る飛鳥との過去とそれぞれの心の闇。自殺の真相は何だったのか?逝った者と残された者の魂の救済を描く長編小説。
東北の小さな町の寺に勤める僧・浄念は、躁鬱に苦しみつつ薬と酒の力を借りて法要をこなす毎日。不惑間近となったいま、学生時代にのめり込んだバンドへの情熱が心を占める。やっと実現にこぎつけたライブのステージで、強烈な恍惚感とともに降りてきた啓示の正体は…。精神を病みロックに没入する僧が、祝祭の只中で感じた歓喜と安らぎ、心のひそやかな成長を描く芥川賞受賞第一作。
「ああ云う場所はもうーこれから先はなくなってしまうのだろうな」。京極堂は最後に独り言ちた。多くの仏弟子を次々に魔境へと拉し去った妄念の寺が紅蓮の炎に包まれたとき、燃え落ちていく憑物の意外な正体が明らかになる。世界ミステリ史上もっとも驚くべき動機と犯人像を呈示した傑作、ここに完結。
21年ぶりのご開帳の準備に追われる僧侶・無状は、「あのお薬師さまは偽物だ」と言われて困惑する。昔、火事から少女が助け出した際に折れたはずの指がある、というのだが。芥川賞作家が記憶の謎、「心」というミステリーに挑む表題作。人工透析で生きる妻の願いと夫の愛を描く「ピュア・スキャット」を併録。
自殺から3年後の命日の前日、飛鳥はひそやかな気配となって現れた。23歳の娘の死を受け入れられない母親、弟、すでに再婚した父親、男友だち、ストーカーだった男、弟の恋人-関わりのあった6人ひとりひとりの物語があぶりだす飛鳥の死の真相とそれぞれの心の闇。自ら命を絶った者と残された者の魂の安らぎを描く長編小説。
昭和十年に始まった芥川賞が百一回を迎えたのは、日本近代文学の流れによりそうかのように、奇しくも時代が昭和から平成へと移ったときでした。第百回までの全受賞作を収録して好評を博した第一期・第二期十四巻に引き続き、文芸春秋八十周年記念出版として刊行される芥川賞全集第三期五巻は、新時代の文学の息吹を生き生きと伝える第百二十五回までの受賞作二十九篇を収録、既刊同様、選評、受賞者のことば、自筆年譜を併載しています。
兼務寺の再建計画に伴う一億円の寄付。僧理洲は先物取引に溺れた自身の放埓な青年時代、「気」の力を知った厳しい修行時代を思い出していた。…再建が始まり、今度は見知らぬ人物から一円玉ばかりの高額の寄付が送られてくる。現役僧侶が描く人間とお金の物語。
「けっきょく輪廻なんだよなあ、いろんな自分の。…地獄・餓鬼・畜生・修羅・人間・天道って、聞いたことあるだろ。じたばたしても、いろんな自分を結局は輪廻していく…」ロックで六道輪廻を突き抜けろ!精神を病みロックに没入する僧浄念が見た輝く世界。現役僧侶による衝撃の芥川賞受賞第一作。
「霊泉」を利用した温泉療養施設には、重い病に悩む客たちが遠方から大勢集まり逗留する。僧玄山はそこで書道教室を開きながら客たちの相談相手にもなっている。末期ガンの久美子は明るく振舞う人気者だが深い孤独を抱えたクリスチャン。しかし身寄りのない男を助けた久美子は玄山に自らの「罪」について衝撃的な告白をする。クリスチャンの女性と禅僧の出会い。現役僧侶による話題の芥川賞候補作。