著者 : 田中慎弥
うだつの上がらない「作家」である私の人生の折々に登場してくる、死神。中学二年生で初めて出会ったあいつのことだけは、これまで作品には書けなかったのだが……。芥川賞作家が描く「死」と「家族」。ユーモラスにして、痛烈な新境地。
きっかけはファウルフライ。いったいなんの因果で、何事も起らない筈の世界にこうも様々な面倒が次から次に生れるのか。母に連れられていったお屋敷で、朱音と朱里という二人の神秘的な姉妹に出会った。母はなぜ「俺」を姉妹に会わせたのか。それは、母の姉である福子から聞いた、自分の出生にまつわる信じられないような秘密と、朱音たちの母の故郷である「流れる島」にまつわる悲しい神話に結びついていたー。
「僕の名前はポール」-再開発計画に揺れる駅前ビルに突如現れたのは、一匹の喋るクマネズミ!市議会議員の浦田さんの助けを得ながら、欲望うずまく人間たちの世界に飛び込んでいく。ついには、堂々市議会に登場し、大演説をぶつことに。マスコミも巻き込んだ騒動は、はたしてどのような結末を見ることになるのか?芥川賞作家が新境地に挑んだ仰天寓話小説!
道理で女が出てゆくわけだーー。妄想に取り憑かれた作家の姿を描く新しい私小説。今日も死ななかった。あの帽子を見たために、今日も死なずにすんだーー。一緒に住んでいた女に出ていかれ、切り詰めた生活でひたすら小説を書く40代の男。書けない日々が続き、いつしか死への誘惑に取り憑かれた男に、ある日人探しの依頼が届くが……。虚実のあわいで佇む作家の日常を描く連作小説集。芥川賞作家の新境地作。
揃いの国民服に身を包む金髪碧眼の「日本人」に、武力による平和実現の大義を説く黒髪の首相A。母の墓参に帰郷したはずが、「日本国」の違法侵入者として拘束された小説家Tは、主権を奪われた「旧日本人」の居留地に送られる。そこで自分と瓜二つの伝説の救国者Jの再来とみなされたTは、国家転覆を狙うレジスタンス闘争に巻き込まれていく。もう一つの日本に近未来の悪夢を映す問題作。
見知らぬアタッシェケースを預けられた男、自殺と断定された妻を殺害したのは自分だと主張する夫など、日常がふいに歪む瞬間を1600字で切り取った、芥川賞作家初の掌編小説集。(解説/中村文則)
おまえは日本人じゃない、旧日本人だ。そして我が国は今も世界中で戦争中なのだ! 小説の書けない作家Tが母の墓参りに向かっている途中で迷い込んだのは、国民は制服を着用し、平和的民主主義的戦争を行い、戦争こそ平和の基盤だと宰相Aが煽る「もう一つの日本」だった。作家Tは反体制運動のリーダーと崇められ、日本軍との闘いに巻き込まれるが……。獰猛な想像力が現実を食い破る怪物的野心作!
本州西端、800年前に安徳天皇が没した海辺の街で暮らす高校生・滝本徹は、出生の秘密を抱えていた。ニューヨークをテロが襲った年、徹の親友・相沢良男は世界の無意味を唱え、クリスチャンの国語教師のレイプ計画を進める。一方、地元選出の政治家である徹の実父・倉田正司が権力の中枢へ向かうと共に、対抗勢力の陰謀がうごめき始める・・・。この世を動かす絶対的な力とは何か?現代日本のテーマを根源から問う傑作長篇小説。 俺たちは生まれつき、捨てられているーー。本州西端、800年前に安徳天皇が没した海辺の街で暮らす高校生・滝本徹は、出生の秘密を抱えていた。ニューヨークをテロが襲った年のクリスマス、徹の親友・相沢良男は世界の無意味を唱え、クリスチャンの国語教師、山根忍へのレイプ計画を進める。一方、地元選出の政治家である徹の実父・倉田正司が権力の中枢へ向かうと共に、対抗勢力の陰謀がうごめき始める・・・。この世を動かす絶対的な力とは、暴力か、権力か、性の力か?人間の悪に対して神は何をなすのか?現代日本のテーマを根源から問う傑作長篇小説。 第一章 夏の終りのどさくさ 第二章 崩れる家と燃える家 第三章 力の世界 第四章 神の目 第五章 事件 第六章 聖堂は、燃えろ 第七章 暗い森 第八章 東京の炎 第九章 巨人との対峙 第十章 破壊と光
新作が書けぬ小説家・下村に届いた旧友春男の近況。長く疎遠だった春男は、三十を過ぎうつ病を発症したという。青春の華やぎを一切拒絶して引きこもる息子を案じ、両親の相談を受けた下村は、筆の進まぬ窮状を脱する好機と、ある不穏な「実験」を思いつくが…。潮風と砂が吹きつける海峡の町で、孤独且つ平和という泥濘であがく人々の精神の危機を冷徹にえぐる表題作ほか2篇。
今年一月に芥川賞を受賞した『共喰い』がベストセラーとなり、今もっとも注目を浴びる作家・田中慎弥さんの受賞第一作です。日中戦争で傷を負い不名誉な形で戦線を離脱、複雑な胸中を隠したまま戦後を過ごしてきた「父」が、昭和天皇の死を受けてとった行動とはーー。 田中氏自身を彷彿とさせる作家が受け取った読者からの手紙、という「枠物語」の手法をとりながら展開される数奇な物語。「父と息子」「戦争の記憶」「介護」といった骨太のテーマが、不気味な蜘蛛のイメージと共に描かれます。 「戦争体験」「父と子」「介護」といった重いテーマに正面から挑んだ意欲作。また、一種のミステリーとしても読める構造をもっており、文学の醍醐味をとことん味あわさせてくれる珠玉の一作です。なお、カバー装画は線香の炎で紙を焼き、繊細なイメージを描き出す異色のアーティスト・市川孝典さんの作品です。こちらも合わせてお楽しみください。
野球賭博絡みのトラブルで失踪した父親から少年に葉書が届く。「野球をやってるか」。野球好きだった父親の願いをきくべきか、野球を嫌悪する母親に従うべきか。おりしも1986年、日本シリーズでは、大逆転劇が起ころうとしていた。はたして少年の身にも奇跡は訪れるのか。芥川賞作家の描く父と子の迫真の物語。
野球賭博絡みのトラブルがもとで失踪した父親から少年のもとに葉書が届く。「野球をやっているか」。父親の願いを適えるべきか、野球を嫌悪する母親に従うべきか。少年の心は揺れる。そんななか、少年は憧れの同級生とある劇を上演することになった…。いまもっとも注目を集める作家が描く親と子の迫真のドラマ。
海峡を目の前に見る街に代々続く旧家・桜井家の一人娘梅代は、出戻ってきた娘の美佐子と、幼稚園児の孫娘の三人で暮らしている。古びた屋敷の裏にある在日朝鮮人の教会に、梅代とその母はある憎悪を抱え、烈しく嫌ってきたー。注目の新鋭が圧倒的な筆力で描く表題作ほか「不意の償い」「蛹」を収録。
「あのう、すみません。すみませんていうのは働かないとかやりたいことがないとかっていうことについてじゃなくて、いま私がこうやって喋らせてもらってることに関してで。…ええとつまり、働く気はないけど喋る気はあるっていうことです」父を早く亡くし、母に酒をのませてもらい金を無心して生きている私。祖父の三回忌で伯母に「そろそろ働いたら?」と問われ、明かされはじめた過去。中学教師に秘められた戦争中の出来事とはー。圧倒的な筆力で現代を照らしだす新鋭の誕生。新潮新人賞受賞作「冷たい水の羊」併録。