著者 : 田中阿里子
インドネシアのジャワ中部にある仏教遺跡ボロブドウル。「丘の上の僧房」「曼荼羅」を意味するという。8〜9世紀の建造後、長く火山灰の下に埋もれ、1814年の発見で世界的な文化遺産として修復された巨大仏蹟は、夥しい数の石仏や彫刻で訪れる者を圧倒する。若き日にこの地に魅せられて以来、再訪を重ねる著者の熱い想いを綴る。その他ジャワに生きた男達の物語「ジャワ往還記」他1篇を収録。
源氏物語の完成に向けて苦慮し、藤原道長の強引な求愛に懊悩する紫式部。一方、式部の娘賢子は母の厳しい教育を受け、侍女らにかしずかれて成人するが、友人も少なく孤独の身であった。後見もいない賢子の将来を思いやり、母娘ともども皇太后彰子の許へ出仕するようになる。やがて、和泉式部、赤染衛門らとの交際が始まり、さらに、貴紳顕官の子弟たちの誘惑が待っていた…。長篇歴史小説。
その生涯は不遇であった。奈良・聖武帝の御世に多感な青年期を送った大伴家持は、名門貴族の嫡男に生まれながら、都の政争の渦中で没落し、鄙の地・陸奥に没したとき、屍になってなお、謀反の嫌疑によって追罰を受けた。万葉集を編纂し、最多の歌を収めるこの歌人が、都を遠く去った越中や因幡、伊勢に詠った風景は、胸底にわだかまる憂愁であり、天平へのかなわぬ憧憬であっただろうか。歴史長篇。
「紅旗征戎吾が事に非ず」-栄耀栄華を極めた平氏は西海の藻屑と消え、鎌倉武家権力に席捲される朝廷・公家社会。巷は餓死者の屍臭に包まれ、野盗は貴顕の邸をも襲い、大地震と大火は末法の到来を教えていた。だがひたすらに現世の争乱に背を向け、和歌の架ける世界を追い続けた定家。後鳥羽院との確執、式子内親王への慕情を軸に。中世の歌世界に巨星として輝く、その八十年の生涯を描きつくす歴史大作。
聖武天皇は広嗣の乱を機に遷都を繰返し、大仏建立に情熱を傾ける。阿倍内親王=のちの孝謙女帝をとりこんだ藤原仲麻呂が兵馬の権さえ掌中におさめてしまった。武人として既に昔日の俤もない大伴一族。はがゆさ、切なさを防人達の別離の悲しみに重ね、歌をよみ、万葉集を編む大伴家持。