著者 : 石川由美子
〈あんたの武器はあんた自身〉母さんは言った。あたしの武器はあたしだ。 奴隷の境遇に生まれた少女は、祖母から、そして母から伝えられた知識と勇気を胸に、自由を目指すーー。40歳の若さで全米図書賞を二度受賞した、アメリカ現代文学最重要の作家が新境地を開く、二度目の受賞後初の長篇小説! 悲しみが霧雨になって降り注ぐ。スカートに指をこすりつけ、しだいに長くなってくる影のなかで地面に膝をつきながら、わが身の境遇につくづく驚かずにはいられない。この天涯孤独ぶりはどうだろう。こんなところで腰の片方には命を、もう片方には死を持ち歩いているなんて。 「どっち?」あたしは宙に向かって問いかける。「どっちを与えるべき?」夕暮れのなかを漂っていく自分の声を聞いて、少しだけ孤独がやわらぐ。 この同じ空のどこかで、あたしのミツバチたちも飛び回っているに違いない。(…) この同じ空のどこかで、サフィも息を吸って吐いているに違いない。 「サフィ」あたしは尋ねる。「どっち?」(本書より) 第1章 剣と化した母さんの手 第2章 縄に至る道 第3章 一連の喪失 第4章 川は南へ 第5章 嘆きの街 第6章 身を委ねる 第7章 真っ暗闇の驚異 第8章 塩と煙の捧げ物 第9章 燃える男たち 第10章 甘い収穫 第11章 やせ細ったしみ 第12章 渡し守の女たち 第13章 ふたたび星を見た 謝辞 訳者あとがき
鳴り響くアメリカ国歌、まき散らされる炎、光る銃に流れる血。崩壊する町で逃げ惑う住民たちが辿りついた先は、元大統領邸宅だったー。“現代アメリカ”の極地を描く近未来ディストピア作品集。秘密裏に息子をサンプルとした社会実験をおこなう教授、世界滅亡前に家を買おうと奮闘するシングルマザー、白人至上主義者たちが暴徒化した世界で立ち上がる、偉人と奴隷の子孫の女子学生、これはSFなのか?それとも現実なのか?衝撃のデビュー作。表題作の中編ほか5作品を収録。
高校を卒業して自立のときを迎えた双子の兄弟を取り巻く貧困、暴力、薬物ー。そして育ての親である祖母への愛情と両親との葛藤。全米図書賞を二度受賞しフォークナーの再来とも評される、現代アメリカ文学を牽引する書き手の鮮烈なデビュー作。
アメリカ南部で困難を生き抜く家族の絆の物語であり、臓腑に響く力強いロードノヴェルでありながら、生者ならぬものが跳梁するマジックリアリズム的手法がちりばめられた、壮大で美しく澄みわたる叙事詩。現代アメリカ文学を代表する、傑作長篇小説。全米図書賞受賞作!