著者 : 笠間直穂子
土地固有のかたちとフランス語の多様性を追求し続けたスイス・ロマンドの国民作家C・F・ラミュ──ラヴォー地域の村落を理想郷として描く詩的小説の表題作、故郷の地勢から発する文学を決意した「存在理由」、「手本としてのセザンヌ」「ベルナール・グラッセへの手紙」を収録。本邦初訳。
「彼女に恋していたから、彼は苦痛だった」--裕福な趣味人マリオルは、心ならずもパリ社交界の女王ビュルヌ夫人に魅惑される。マリオルの繊細な愛情を喜びながらも、夫人がなにより愛するのは自らとその自由……。独立心旺盛な女と、女に振り回される男のずるさ、すれ違う心の機微を、死期の迫った文豪が陰影豊かに描く。 第一部 第二部 第三部 地 図 解 説
ごろごろする石。乾いた土。ながれる川の、吹いてくる風の、音。土や緑の、山羊や牛の、マッチの、におい。遠くないところで戦争があり、でもここには、べつの戦いがある。べつの剝きだしの生が、ある。 (帯文/小沼純一) 「火でも焚いてみるか?」「あたし、何も持ってない。あんたは?」「あるとも」--山羊の番をする少女のもとに、どこからともなく現れた14歳の少年。風の強い丘の草地、赤い燐マッチで火を熾した二人は隣どうし寝そべり、小石なみにカチカチのチーズを炎でとろりとさせパンにぬって食べる……。夕暮れどきの情景が、香りと音をともない彩り豊かに立ち現れる(表題作「パストラル」)。規範的なフランス語と異なるスイス・ロマンドの地理に即した文学言語をもちい、恋、老い、農家のくらし、山の民話など、人間と、人間を取り巻く世界の根源的な姿を映し出す20作品。 パストラル 農村の年寄り 湖の令嬢たち 日照り 使いの者 居酒屋の老人たち 香具師一家の休息 助けを求めて 野生の娘 山にひびく声 フォリー姿の物狂い 森での一幕 眠る娘 恋 三つの谷 田園のあいさつ 漁師たち ぶどう作り 恋する女の子と男の子 農家の召使い