著者 : 結城玲子
ずっと独りで生きてきた。だから、 この胸の温かさの意味がわからなくて。 ロンドンで10年間働いてきた身寄りなき看護師ヘンリエッタは、 ある日、ほとんど会ったことのない伯母から遺産を譲り受けた。 それはオランダのとある村に立つ、城下の小さな家だった。 もうすぐ20代が終わるというのに、私には何かを遺す相手もいない……。 一抹の寂しさを抱えながら、ヘンリエッタは古びた愛車で現地へ向かった。 みぞれ降る中ようやく到着したのは夜で、家は暗闇に包まれていた。 そこで城の主で地主でもあるマルニクス・ファン・ヘッセルと出逢う。 背が高く、かなり年上だけれど魅力的な彼はしかし、横柄に告げた。 「私がここを貸す権利を持っているのだと思いなさい」 あれこれ指図する彼に腹を立てつつも、彼女の胸はぽっと温かくなり……。 ロンドンでの安定した生活を捨て、見知らぬオランダの地に飛び込んだヘンリエッタ。独りで生きることに慣れっこの彼女は、新しい暮らしも自分で築いていくつもりでしたが、近くの城に住む不機嫌な貴族のマルニクスがなぜか世話を焼いてくれて……。
男に騙されやすい母のもと、貧しい子ども時代を送ったアシュリンは、仕事ひとすじで必死に生きてきた。だがここ2年ほど、一人の顧客がアシュリンの心を占めている。ジャンルカ・パラディオーローマのホテル王で大富豪だ。あるときついに彼の誘惑に屈しベッドを共にしたアシュリンは、数週間後、身ごもっていることに気づき、愕然とする。結婚どころか恋愛すら無縁だった私が、妊娠してしまうなんて!意外にもジャンルカは結婚しようと言った。子どものために。君を愛してはいないがー彼の心の声が聞こえたような気がした。
生まれてから今までの22年間、ハリナは自由を知らない。キスの経験もないのは、野心家の父が娘を政略結婚に利用するためだ。富豪リコに惹かれたとき、彼女は朝がくれば終わりと知りつつ、初めて目のあたりにした完璧な魅力には逆らえず、彼に純潔を捧げた。結果、父の逆鱗に触れ、誰も来ない辺鄙な場所で暮らせと命じられる。だが、彼女が恋い焦がれた男性は王族よりも力がある富豪だった。こんな遠い僻地まで、リコが私を助けに来てくれるなんて。でも待って、なにかおかしい。なぜなら彼はものすごく怒っている。理由は、父によって決められた許婚がいると、私が言わなかったから?それとも…私があの夜、リコの子を妊娠したことを黙っていたから?
東京は桜が美しかったが、秘書のハナに眺める余裕はなかった。泣きながらCEOのアントニオとキスをし、ベッドをともにして、彼女の人生は一変したー赤ちゃんができたのだ。気づいたとき、ハナは妊娠したとアントニオに告げていた。会社にとって、重大な商談の直前に。しかし、プレイボーイの大富豪は身勝手な暴君でもあった。ハナを即座に解雇し、顔をそむけてビルの中へと消えたのだ。彼女はすべてを失った。愛する男性も、生きがいだった仕事も。心が凍えていたのは、降り出した雨のせいではなかった。
その日、モリーは貴族の屋敷の家政婦として朝から大忙しだった。なのに、大事な客人と言われたイタリア人富豪サルヴィオの前で大失敗をしたあげく、深夜泣いている姿まで見られてしまう。意外にも、サルヴィオはやさしくなぐさめてくれ、感激したモリーは、気づくと魅力的な彼に純潔を捧げていた。ところがクリスマス直前、彼女はサルヴィオとの一夜を理由に突然解雇され、頼れる人も住む家もないという苦境に立たされる。しかも月のものも遅い気が…。妊娠していたらどうしよう?元家政婦が宿した子どもでも、富豪の彼は愛してくれる?
受話器の向こうから聞こえてきたのは、12年間、レイチェルがかたときも忘れたことのない声だった。「トリスという名前に心あたりがありますか?」トリスー豪華客船の旅で惹かれ合い、愛を誓ったのに、消息が知れなくなった大富豪の御曹司。成就しなかった恋。弄ばれたという現実を受けいれるのにどれほど時間がかかったか。つきまとう過去の痛みは、いまなお胸の奥でくすぶっている…。だがトリスは、レイチェルを捨てたくて捨てたわけではなかった。あのあと事故で彼女の記憶のすべてを失っていたのだ。
「なんてかわいい人だ」富豪アレクセイの声に、ミナは緊張した。昨日、私の親友は泣きながら語った。出世したい父親により、自分は花嫁として富豪に差し出されるのだと。傲慢なアレクセイが妻となる女性の顔も知らないことに賭けて、ミナは親友を救うために、身代わりになろうと決意していた。そのアレクセイは、奴隷でも買ったような目でこちらを見ている。けれど相手のまなざしに体が熱くざわめき出し、ミナはあわてた。女性を物としか思わない男性に惹かれてどうするの?二人のあいだには嘘しかなく、彼は私の名前さえ知らないのに。
看護師のエマは車でオランダを旅行中、誤って高級車にぶつかってしまう。すぐに謝り、弁償すると申し出たが、相手の男性は冷たくそっけない。それでいて、同乗していたエマの母には優しくふるまう彼に、苛立ちと、切ないような不思議な感覚を胸におぼえ、エマは戸惑った。名も告げず去った彼を、その後も思い出しつつ迎えた旅の最終日、古城での催しで、エマは件の男性と偶然再会し、胸を高鳴らせる。ユスティンと名乗った彼はしかし、隣にすらりとした美女を連れていた。「そういうことなのね…」小さくつぶやいて肩を落とすエマだったが、帰国後、職場の病院で、驚くべき事態が彼女を待っていたー手術の最新技術を伝授する外科医として、ユスティンが現れたのだ!
ルイス!スペインにいるはずの彼が、なぜカリブ海に?休暇旅行中のクロエは目を疑い、そしておびえた。莫大な富を持つこの億万長者は、私の兄を破産寸前に追いこんだ。兄をだましたうえ、私までつかまえて、なにをする気なの?なんとルイスは、自分のプロポーズを断れないよう島を一つ買い、承諾するまでクロエをそこに閉じこめる計画を立てていた。昔のルイスはやさしくて勇敢で、私の憧れの人だったのに。今の彼は兄を苦しめ、私を利用する非情な悪魔でしかない。そんな人にバージンを捧げる?でも不実な胸は高鳴って…。『プロヴァンス富豪の脅迫』に登場したスペイン富豪ルイスが、ヒーローとして帰ってきた!有名なプレイボーイでもある初恋の男性に再会した、ヒロインのクロエ。二人きりで過ごすうち、彼の冷酷さは親から愛されなかったせいだと知り…。
エロイーズの休暇旅行は、衝撃的な出会いから始まった。ホテル王のヴィトは空港で助けた彼女を見初め、ヨーロッパの有名な観光地を案内する一方で、夜は熱く求めた。彼は私を特別な女性と思っている?私は愛されているの?しかし、エロイーズがヴィトとの将来を夢見はじめた数週間後、突然、婚約者だと名乗る女性が訪ねてくる。否定するどころか、ヴィトに面と向かって婚約を認められ、絶望したエロイーズは故郷へ逃げ帰るしかなかった。そのおなかに、彼の愛の形見を宿して…。
ヒービーは勤め先のオーナー、ニックに片思いをしていた。彼は数カ国に支社を持つ、ハンサムでエネルギッシュな実業家だが、女性を片っ端からベッドに誘っては捨てるという、非情な男性だ。それでもヒービーはある夜、彼の手管に堕ちてしまった。そこには愛も優しさもないーただの悦びだけ。その一夜でヒービーが妊娠しても、何も変わらなかった。金目当てでわざと妊娠したんだろうとひどいことを言いながら、子どものための結婚を宣言し、ヒービーを自分の邸宅に住まわせ、彼女が拒めないのを承知で、夜ごと甘い誘惑に溺れさせる。だがある日、そんなニックも青ざめるような事件が起き…。
まさか、妊娠するなんて…。秘書のエリーはニューヨークの街中で途方に暮れていた。6時間後に結婚式を挙げるというのに、おなかの子の父親は花婿ではないのだ。この事実を子どもの父親にー傲慢でセクシーなボス、大富豪ディオゴに知らせるべきかしら?エリーは震える足を奮い立たせて、ディオゴの前に立った。だが、彼はエリーの話に耳を傾けるどころか、彼女が結婚すると知ってなじり、警備員を呼んで追い払わせたのだ。数時間後、ディオゴは真相に気づいてエリーを捜すが、彼女はすでにオフィスを去り、花嫁として教会にいた。
パリにあるレイラの香水店に、驚くべき客が訪れた。さる国の王で、稀代のプレイボーイとして有名なアリックスだ。愛人へ贈る香水を買いにきたようだが、彼がレイラに留めた目は、どんなに疎い女でもそれとわかるほど情熱的な光を帯びている。そして翌日から、アリックスの怒涛の誘惑が始まった。高価なドレス、ディナー、プライベートジェットでベネチア旅行ーオペラ鑑賞後の夢のような夜、レイラはついに彼に身を委ねた。めくるめくような愛の手ほどきに、初めて内気な殻を破った。アリックスが秘かに進める、後ろ暗い計画など知りもせずに。