著者 : 葦浦阿紀
ラーラの父はハリングトンの家名を継ぐ牧師だが、財産はない。貧しい家計を助けようと、ラーラは小説を書き始めたが、経験不足に悩む。ある日、家庭教師の友人のノイローゼを知って、身代わりを思いつく。友を助け、小説の取材をするために地味な女教師になりすましたのだ。教え子はキーストン侯爵の姪だが無気力で、問題児と見なされていた。だが、ラーラは熱心に指導し少女の音楽的才能を引きだしていく。無関心だった侯爵も、注目し始めた。だが、友人を苦しめた魔手が再びラーラにも襲いかかろうとする…。
アリタは父を不名誉な死で失い伯父のラングストン公爵の邸で冷たい伯母の仕打ちに耐えていた。厩舎の世話に明け暮れる日々のなか馬だけが心のよりどころである。アメリカの大富豪クリント・ウィルバーが隣の館を買い上げることになった。その隣人に、公爵は馬を売りつけ夫人は娘を結婚させようと画策する。交渉は馬に詳しいアリタに一任されクリントは、厩舎の改造に協力するなら売買に応じると条件を出してきた。アリタはマースフィールド館へ通い始めクリントと共に、パドックの整備など新案を次々に実行していくが…。
司祭の娘シェンダは森で出会った紳士に罠にかかった愛犬を助けてもらう。彼は微笑と口づけを残し、立ち去った。その直後、父を事故で失ったシェンダは近くのアロー館にお針子として雇われる。実は、その館に致着した新しい伯爵こそあの森の中の紳士だったのだ。当時イギリスはフランスと戦争中で伯爵は、ナポレオンのスパイ探索を海軍大臣から特命として受けていた。館の客人の不審なメモを、偶然にも発見したシェンダは、伯爵に急報する。彼女の能力に驚いた伯爵は、女スパイの動向を探るため、協力を依頼した。そして、シェンダはロンドンへ旅立つ。
エヴァは父のヒリングトン卿と共に亡き母の故郷であるパリへやって来た。ところが、その父も心臓発作で急死してしまった。やっと葬儀を終えたあとエヴァは高価な飾りボタンの紛失に気づく。その行方を求めて、父の倒れた場所が悪評高い館とも知らず、エヴァはその館に赴いた…。
数年ぶりに、故国ドンブローツカに戻ったイローナ王女。だが、国は内紛によって二分されていた。そんな時、ロシア軍の侵攻開始の報せが入る。速やかに国内の団結を図らねばならない。そこで、イローナに反国王派のセアロス公との縁談がもちあがる。イローナは王女としての決断を迫られる…。
新しくきたチャドウッド伯爵に援助を断られ、オリヴィアは茫然としていた。先代の伯爵が亡くなってから一年、食べるものさえ満足にない村の暮らしは困窮をきわめていた。その帰り道、村の若者にナイフで刺されて重傷を負った伯爵をオリヴィアは助けるはめになった。村人たちの暴動をなんとかおさえなければ…。意識不明の伯爵を前にして、オリヴィアは一計を案じた。
チャーンクリフ伯爵は、ルイ王朝の家具を求めフランスに渡った。伯爵が妻にしたいと望む娘エレインがフランス家具をほしがったからだ。だが、荒れ果てたマリニー城で見つけたのは昔の栄華をしのばせる華麗な家具だけではなかった。謎めいた老女に導かれて秘密の通路を抜けるとそこには、追手の目を逃れ、隠れ棲む貴族の令嬢リネッタがいた。
敵に四方を包囲され、援軍を待ちわびるロスコー准将の部隊は、もはや命運もつきかけ、餓死寸前の状態に追い込まれていた。娘ミュアリアルの身を案じたロスコー准将は、士官たちに問う。「もしもの時には、娘を射殺してくれるだけの勇気のある者はいるだろうか」と。「お嬢様のためなら地獄も通り抜けましょう」そう答えた男の瞳には、不敵ともいえる豪胆な光が宿っていた。ニック・ラトクリフ-孤高の鷲を思わせるこの男の手に、ミュアリアルの命は委ねられた…。
ダービーの優勝をめぐるブランスカム伯爵の陰謀-。それを知ったアルチェスター侯爵は、復讐を決意する。名もなく、貧しい娘をにせの貴婦人に仕立てあげ財産目あての結婚をもくろむ伯爵に押しつけよう。侯爵は復讐を胸に孤児院を訪れる。そこには、骨と皮ばかりにやせた娘キストナがいた。
レディー・ヴェスタは、ひとり、地中海の小国、カトーナの埠頭に立っていた。カトーナの王妃にと求められたヴェスタは、父に切望され、相手の顔も知らぬまま、イギリスをあとにした。そして、ここで出迎えのミロバン男爵と会うはずだった。ところが、ヴェスタの目の前に現れたのは、ミクロス・ツァコー伯爵だった。彼は、革命が起こりそうだからヴェスタにすぐに帰国するように勧める。しかし、ヴェスタの決意は固く、何としても夫となる大公殿下に会うという。ヴェスタの頑固さに、さすがの伯爵も折れ、2人は大公殿下の住む宮殿をめざして歩き出した。
先代の伯爵親子の事故死という悲劇は息子の従弟にあたるロックブルック伯に突然の爵位継承をもたらした。由緒ある称号と莫大な財産を相続したロックブルック伯だったが心のうちは重い憂鬱に閉ざされていた。軍人時代一夜を伴にした公爵令嬢レディー・ルイーズがかれが伯爵になり富と名声を手中にしたと知るや公爵である父を通して結婚をほのめかすようになったのだ。執拗なレディー・ルイーズの求婚から逃れるため遠乗りに出たロックブルック伯は、落馬し、故クランフォード少佐の館にかつぎこまれた。少佐の妹プリラの手厚い看護に触れロックブルック伯はある決意をした。
差出人不明の手紙に呼び出され、好奇心からハイドパークへ出向いたヘルストン伯爵。そこへ、1頭の馬が猛スピートで駆けてきたかと思うと、目の前で、緑色の乗馬服の女が馬から落ちた。驚いて駆け寄る伯爵に、女はレディ・チェビントンの娘カリスタだと名乗り、チェビントン館からの招待を断ってくれと思いもかけない言葉を口にする。「うちにいらしたら、無理やりわたしと結婚させられてしまうからよ」。
ああ、なんていい気分。ノースカロライナの自然に接すると、心が大きくなったような気がしてくる。テリーは専門の民話研究の資料を集めるためにこの小さな町、スーワードを訪れたのだ。はやる心を抑えられず、いつになく落ちつきを失くしていた彼女は、なんと駐車場で一人の男に車をぶつけてしまった。慌てて駆つけるテリーに男はそっけなく答えた「ほっといてくれ」。だが孤独な瞳をもつこの山男に、テリーの心は騒ぎはじめた。
パルナソスの王女ゾリーナは、父亡きあと、ハンプトン・コート・パレスの一画に母に暮らしている。そんなある日、ビクトリア女王からゾリーナに縁談が言い渡された。60近いリオシア国王と結婚ですって!驚きよりも憤りをおぼえるゾリーナは晩餐の席で二重の衝撃を味わうことになった。使者としてやってきたリオシア国王の子息こそ偶然の出会いから、ゾリーナの胸深く刻みつけられた男性、ルドルフその人だったのだ。