著者 : 藤原緋沙子
幕末の動乱は土佐国も大きなうねりで呑み込んだ。様々な思想と身分の差から生じる軋轢は、人々の命を奪っていった。金蔵はそんな時代に貧しい髪結いの家に生まれた。類まれなる絵の才能を認められ、江戸で狩野派に学び「林洞意美高」の名を授かり凱旋。国元絵師となる。しかし、時代は金蔵を翻弄する。人々に「絵金」と親しまれながらも、冤罪による投獄、弟子の武市半平太の切腹、そして、土佐を襲う大地震…。金蔵は絵師として人々の幸せをいかに描くかに懊悩する。やがて、絵金が辿り着いた平和を願う究極の表現とはー。
「お吟さんに力を貸してもらいたい」日本橋でよろず相談を受ける千成屋のお吟のもとに、京橋の呉服太物商・天野屋から依頼が舞い込んだ。四年前、娘のおはつの婚約者だった佐之助が何者かに襲われ顔に傷を負い江戸を去った事件の犯人を捕まえたのが千成屋だったのだ。今度は遊びほうけるおはつの今の亭主・多七を更生させてほしいという。おはつのため、多七について調べ始めるお吟。やがて江戸を去ったはずの佐之助や、佐之助を切った犯人も江戸にあらわれ…。(「菜の花の道」より)。「隅田川御用帳」シリーズの著者が贈る、人情時代小説。書き下ろし2篇を収録。
日本橋で御府内のよろず相談を引き受ける『千成屋』の女将・お吟は、会津からの客を伴い『ほたる茶屋』にやって来た。お吟が神田川の水際の蛍に視線を走らせていると、茶屋の女将のおふさと幸助と呼ばれる店の若い衆の声が聞こえてきた。幸助が突然店を辞めさせてくれと言うのだ。おふさは、前科持ちだった幸助を店に受け入れ、家族のように接してきたという。店を出た幸助は何か事件に巻き込まれ、再び悪の道に戻ろうとしているのか。おふさの切なる願いを聞いたお吟は、幸助を助けるために奔走する。(「ほたる茶屋」より)
口は悪いが、情には厚い金貸しのおたつ婆。おせっかいが高じて、人助けばかりしている。今日も、文無しの浪人を介抱し、挙句「生き別れた娘に一目会いたい」という彼の最期の願いを聞くことに。僅かな手掛りを頼りに、おたつは長屋の仲間達と奔走するが…。おたつ自身もまた、己の過去を清算すべく、ある人物を捜していた。人気シリーズ第二弾。書き下ろし。
北辰一刀流の千葉家で生まれ育った佐那は、十六歳の時、坂本龍馬と千葉道場で出会う。惹かれ合う二人を、時代の波が引き裂いた。そして三十九年後ー。千葉灸治院で働く佐那のところへ板垣退助の紹介という男が現れる。「坂本龍馬先生と佐那さんは縁があるとお聞きしたので」すると、佐那は文箱から袷の袖を取り出してー。坂本龍馬を生涯想い続けた女、千葉佐那の人生。
唯一の身内である弟を医者にすべく、阿漕な金貸しをしてまで仕送りする姉。だが弟は修業先の京から江戸へと密かに逃げ帰っていた。姉の急病を治療した桂千鶴は、同じ医術を志す者として弟に手を差し伸べるが、その厚意は思わぬ事件へと繋がってしまう。追い打ちをかけるように、千鶴の想い人、菊池求馬に大坂勤番の命が下る。累計九十五万部突破の超人気シリーズ、激動の第十二弾!
指物師の職人の家に後添いとして入ったおしなだったが、なつかぬ継子と姑の苛烈な虐めに、耐えきれず家を出た。二年後、ばったり、夫に出遭ってしまう(「蝋梅」)。こっそり組織的に藩士に内職をさせていた貧乏藩。足軽勘七の透かし彫の柘植櫛が大店の跡取り娘の手に渡り、娘は「この職人に会いたい」と言い出した(「恋の櫛」)。江戸の各所で職人の技と意地と優しさが交差する。心温まる傑作四編。
縁切寺慶光寺の御用宿「橘屋」に、醤油問屋「紀州屋」の番頭がやってきた。橘屋に駆け込み離縁となった内儀のおきよを捜してほしいという。行方不明になっているおきよを捜し始めた橘屋の用心棒・塙十四郎だったが、ようやく捜し当てると、おきよは窮地に陥っていた。悪行に利用する輩やおきよを襲う悪党に十四郎の剣が唸る!著者の代表シリーズ、感涙の最終巻。
「押し込みをやる悪い奴らの情報がある」食い詰めて、見届け人になりたいとだるま屋を訪ねた大店の息子・巳之助。生き別れの母との再会を願い、紙問屋で下働きする巳之助は、伊織が探索する、世間を震撼させた悪党一味につながっていた。伊織、けじめの「見届け」と母子の悲縁を描く、感涙のシリーズ完結巻。
桑名藩から飛び地・越後柏崎へ赴任してきた若い夫婦。二人を待っていたのは、厳しい陣屋の暮らし、海鳴り止まぬ過酷な環境だった。勘定や検見の仕事に忙殺される夫、渡部鉄之助。そして古着の着物さえ買う余裕のない妻、紀久。桑名に長男を残してきた夫婦は、故郷から持ち込んで番神堂に植えた梅の苗木に望郷の念を募らせていく。子を想いながら、日々を懸命に生きた女の一生が胸を衝く!
両国の稲荷長屋で金貸しを営むおたつ婆は、口は悪いが情に厚く、困っている人を見過ごせない性分。ある日、常連客の弥之助が身投げを図ろうとした女を連れてくる。訳も訊かず寝食を与えるおたつに、女は自身の過去を語り始めるが……。誰の身の上にもある秘め事。それらを清算すべく、おたつと長屋の仲間達が奮闘する書き下ろしシリーズ第一弾。
京都・宇治。古田織部の覚えめでたい朝比奈家の一人娘・綸は、病に倒れた父の跡を継ぎ、極上茶を作る御茶師の修業に励んでいた。そこへ徳川・豊臣決戦近しの報が。大名と縁の深い御茶師たちも出陣を迫られる。茶薗を守り、生き抜くにはどちら方につくべきか。さらに家康に疎まれた織部の身を案じる綸のもとへ、悪夢のような知らせがー。乱世に凛として立ち向かう女御茶師のひたむきな半生。宇治・茶薗主の知られざる闘いを描く本格時代長篇。
「消息を絶った密偵を捜してほしい」-縁切り寺慶光寺の御用宿「橘屋」の用心棒・塙十四郎は、元老中の楽翁こと松平定信から密命を受けた。早速、越後入りした十四郎の前に現れたのは、二分された藩の実態と貧困に喘ぐ民百姓の姿だった。藩政を正すために十四郎がとった「秘策」とはー。弱き者への慈しみが溢れた著者の代表シリーズ、四年ぶりの書下ろし第十七弾。
「切られた縁を元に戻してほしい」-。縁切り寺の御用宿「橘屋」に駆け込んだ上総の女おふきは、そう訴えた。珍しい駆け込みに戸惑う用心棒の十四郎と主のお登勢。十四郎が、離縁した元亭主に会って話を聞いてみると、背後に上総の幕領を巡る事件の影がちらつく。上総へ渡った十四郎が掴んだ恐るべき「真実」とはー。壮大な物語を描いた著者の代表シリーズ第十六弾。
「慶光寺」の御用宿「橘屋」に、身重の武家の妻女が駆け込んできた。亭主が酒好きで、女を連れて帰ってくるという訴えに、橘屋用心棒の塙十四郎が調べたが、亭主の評判は逆に意外なほどよかった。そこで、本人に質したところ、妻は夫婦が歩んできた衝撃の過去を話すー。表題作をはじめ、女の弱さと強さ、深い情愛を描いた三編を収録。著者の代表シリーズ第十五弾。
駆け込み寺「慶光寺」の御用宿「橘屋」に、大店の薬種問屋「小国屋」の内儀おきくが駆けこんできた。橘屋用心棒の塙十四郎が事情を調べると、お金と引き換えに嫁いだおきくは、亭主の卯之助に商売の手段に使われていたことがわかる。そして、おきくの身に危険が迫るー。表題作をはじめ、弱き者への慈しみが込められた三編を収録。著者の代表シリーズ第十四弾。
駆け込み寺「慶光寺」の主・万寿院の知人の娘・お結を、京から連れ帰ってきた「橘屋」の用心棒・塙十四郎。お結は目の前で父親が殺され口が利けなくなっていた。江戸でやっと静かな日々が訪れたころ、突然、お結は命を狙われる。それをきっかけに判明した衝撃の過去とはー。(「さくら道」)表題作をはじめ、ひとの温もりに癒される四編を収録。著者の代表シリーズ第十三弾。
「亭主のなにもかもが嫌になった」-そう言って「慶光寺」に駆けこんできた小間物屋の女房おはつ。御用宿「橘屋」の女主人のお登勢と用心棒の塙十四郎は事情を調べるが、一向におはつが不満を持つに至った理由が分からない。しかし、おはつには人に言えない過去があったー。(「ぬくもり」)涙を堪えきれない表題作など三編を収録。著者の代表シリーズ第十二弾。
駆け込み寺「慶光寺」に突然、侵入者が現れた。御用宿「橘屋」の用心棒・塙十四郎がすぐに捕まえ、事情を聞いたところ、新助という桧物師で、幼馴染みのおひさを救ってほしいと訴えた。おひさは献残屋「赤松屋」へ嫁いでいたが、十四郎が探ると、夫の治兵衛に怪しい過去が現れたー。(「侘助」)親子の情愛を描いた表題作など四編を収録した、著者の代表シリーズ第十一弾。