著者 : 藤田宜永
バブル崩壊で巨額の借金を背負い自動車修理工場で働く氏家豊は、67年型マスタングで東京を流していた夜、何者かに拉致された旧友五十嵐の娘香織を救う。数日後、自らも凶漢に襲われた氏家が事情を糺すと、五十嵐は勤務先の銀行で不正融資を強いられたと告げ、姿を消した。赤坂の料亭女将でマスタングの持ち主、澄子にまで不審な影が近づいたことで、氏家は事態の背後を洗い始める。直後、借金を肩代わりしてくれた恩人富沢が殺され、さらに富沢と五十嵐の接点が浮上。その上、なぜか銀行不正に関わる口座が氏家の亡父名義で作られていたー。宴が残した闇の中を、事件の真相を追う氏家がノンストップで疾走する!
大阪のロッカー屋から、竹花に荷物が届く。開封してみても、ごみのようなものが入っているだけ。あいりん地区で行き倒れた男が、差出人に託したものだった。そして、ある女優から、竹花に届いた荷物が彼女の父親のものだと伝えてきた人を捜してほしいという依頼が舞い込む。大阪の探偵・明珍太郎の協力を得て、竹花は調査を続けるが、依頼人の女優はやがて何者かの手にかかりー。東京と大阪を舞台に、過去から現在にわたって巻き起こった事件の数々。その背後にあったものとは?
1966年8月15日、根津謙治は目黒区碑文谷二丁目にトラックを止めた。現金11億を奪うためだ。戦後の混乱期に金貸しを始めて財を成した原島勇平の屋敷で根津は居合わせたクラブのママを射殺する。カーラジオからはローリング・ストーンズの『黒くぬれ!』が流れていた。14年の歳月が過ぎ、新たな事件が彼らの身の周りに次々と起こる。「誰が何のために?」混乱と疑心暗鬼の中、根津は煩悶する。袂を分かった男たちの軌跡が再び交差する時、戦中、戦後を生きた人間の業と事件の真相が明らかになるー。昭和の時代と風俗を克明に描写した熱き犯罪小説。
男、六十歳。忘れかけていた青春時代の思い出と“人生最後の恋”を求めてー。数十年ぶりに再会した幼馴染み三人組、定年退職した昌二、現役の探偵・三郎、陰のある会社役員の誠一郎が、ある富豪の遺産の秘密を知るオウム「オードリー」を探して東京の街を彷徨い歩く。その過程でたどる“あの頃”の記憶ーお笑い三人組、バイタリス、MG5、カミナリ族、缶ピー、街頭詩人、Oh!モウレツ、ゲバゲバ、「あの時君は若かった」、ジェットストリーム、「夢で逢いましょう」…。六〇年代から七〇年代の空気が現代に甦る、直木賞作家の“ノスタルジック・ミステリー”。
もうすぐ還暦。だけど、まだまだ冒険したいし、恋もしたいー。友人の通夜で出会った未亡人の千春に惹かれてしまった弘一郎。「カレセン」だという二十代の亜紀子と心を通わせるバツイチの敏雄。同級生のマドンナに頼まれ、探偵の真似事をするはめになった憲幸。年齢を重ねても、決して尽きない悩みと欲望。枯れない男たちの姿を優しく洒脱に描き出す六つの名短編。
借金をかかえた青年・文哉の前に現れた無頼な風体の男。「百万円払うから一緒に散歩しろ」という奇妙な提案を受け、文哉は男と共に歩き出す。井の頭公園から出発し、東京を東へと横断してゆく二人。現実の歩みはいつしか記憶の中の風景と重なり、文哉は今までの人生で失ったものを取り戻そうとするが、短い旅の終わりには衝撃の結末が。夢と孤独が交錯する哀愁ロード・ミステリー。
仕立屋の淳蔵は、かつての親友高瀬に招かれ、追われるように去った信州の故郷を35年ぶりに訪れる。高瀬の妻の美保子は昔、淳蔵が恋焦がれた相手だが、年月が彼女を変貌させていた。佳世と出会った淳蔵は年齢差を超えて惹かれるが、過去の事実が二人の恋情をより秘密めいたものにしていくのだった。直木賞受賞作。
横島総合病院の若先生に収まった誠は、診察するのが怖い、気弱な性格。当直の夜、急患が運び込まれるが、ほどなく、鈴の音を残して死んでしまう。その夜出会った、妖術師を名乗る大方総八郎は、その患者は呪術で殺されたと断言する。その後、鈴をめぐって怪事件が続発。鈴を操る呪力の正体は!?オカルト、コメディ、ミステリーが一体となって展開する快作。
依頼を受けること。そこに、理由などはいらない…。ヤクザの組長の家に生れた過去を持つ相良治郎は、血みどろの抗争を嫌悪しながら市民社会にもなじめず、探偵の道を選んだ。「探偵とは他人の心の中を旅する職業」と、静かにしかし熱く事件を追う。藤田宜永の送り出した新しいヒーローが渋谷の街に現れ潜んだ。この6編の事件簿は、まさに探偵小説の現在形と呼ばれるにふさわしい。
『可愛いベイビー』が街に流れていた夏、結婚の約束をした女は、他の男と逃げてしまった。それから三十年を経て、突然現れた女。時を越え、忌まわしい秘密が明らかになってゆく…。戦後を生きた男たちの喪失の悲しみを、乾いた叙情で描き出した六篇。馴染み深いメロディにイメージを託した感動の作品集。
見事に初勝利を果たした千代延義正は、1938年南仏・ポーで開催されるレースに向け、トレーニングに明け暮れていた。だが、国際紛争の火種がついにくすぶりはじめる。活発化する列強の謀略戦は、義正の運命をも変えつつあった。駐仏陸軍武官の公職と私情との狭間で苦悩する父・宗平。そして、二人の女性の行く末は?怒濤のクライマックスへ、物語はブガッティの如く一気に駆け抜ける!’95年、日本推理作家協会賞、日本冒険小説協会特別賞受賞。