著者 : 藤谷治
仕事も恋も活発な長女・貞子、体育会系で素直だが男運の悪い次女・夏子、シニカルだけど憎めない文化系の三女・陽子、末っ子にしてその美貌で誰からも愛され自由に生きる恵美里。時は流れ人は変われど、横浜は戸塚区原宿の睦家に集う女たちの絆は変わらない。熟達の筆致で送るお茶の間平成ヒストリー、ここに開幕!
ぼくの故郷の山は、松がねじ曲がり、季節外れの桜が咲き、不思議な音で鳴る。十九年ぶりに山が鳴っていると知り、ぼくは集落に帰ってきた。明日から今までとは全然違う人生が始まるかもしれない、という思いを胸にー。かつてぼくと同級生の少女はこの山で、誰にも説明のつかない奇妙な体験をしたのだ。平家物語で知られる和歌で詠まれていた世界の秘密とは。郷愁ただよう物語。
定年まで四年ー。吉岡の希望は、妻の多恵子と共に静かに老いていくこと。ところが、近所の老夫婦が入院したことから、状況が一変。彼らの飼う老猫を巡り、町内は大騒ぎとなる。誰も猫に救いの手を差し伸べようとはしない中、吉岡と多恵子は…。誰もが身につまされる、ユーモアと愛情に満ちた人間ドラマ。文庫書き下ろし。
売れどきを過ぎた女優・野滝繭美と一世を風靡したデイトレーダー・桜田眷作。人生のピークをすぎかけた頃に出会い恋に落ちたふたりは、ともに暮らす場所を得るため、とある古い家を買う。きなりのままで生きられる場所を見つけた二人の幸福の形を描く、真心の物語。
東京じゅうが濃い霧に覆われたある日の午後、帰宅途中の少年に近寄る黒い影。霧の中から現れたのは、怪しいこうもりのような灰色の紳士だった。少年に迫る魔の手、呪われた首飾りの謎、美しいバイオリニストの少女。大好評を博した少年探偵団オマージュ作品の文庫化第二弾。
明智小五郎、少年探偵団、そして怪人二十面相…。いまだ多くの人々を魅了し続ける、江戸川乱歩の「少年探偵団」シリーズ。彼らの対決に胸を躍らせた豪華作家陣が、当時のドキドキ感を筆に込めてオマージュ小説を書き上げ、各種メディアでも話題になった傑作アンソロジー。
雪踏文彦。ひとは、みな、彼のことを親しみを込めて、せった君と呼ぶ。語り手である作家・島崎哲も、親友である彼をそう呼んだ。いつもどこかぼんやりしていたせった君は、幼少期から音楽の英才教育を受けていた島崎が嫉妬してしまうほどの才能に溢れていた。中学、高校と違う学校に通ったふたりは、大人になり彼がピアノを弾いている鎌倉のバーで頻繁に会うようになる。音楽のことしか、ほとんど考えていないせった君だったが、やがて恋をして、彼がつくる音楽にも変化が起こる。だがそんなある日、事件は起きた。
昨日と今日と明日がつながっているなんて、誰にも言えない。ぐぅーん…、ぐぅーん…、ぐぅーん。不思議な音で鳴る山「しんの」では、松がぐねぐねとねじ曲がり、季節外れの桜が咲き乱れる。河守亜菜はこの山で姿を消した。大人になって東京で暮らす元同級生のぼくは、しんのを抱える集落に帰ってくる。明日から今までとは全然違う人生が始まってしまうかもしれない、という思いを胸に。
演奏している津島君は、最高にきれいですー。新生学園大学音楽科の創設者を祖父に持つ津島サトルは、プロのチェリストを目指し、一家の敷いたレールに乗っていたはずだった。しかし芸高に落ち、失意のまま新生学園大学附属高校に入学する。サトルはそこで一流の音楽を演奏するため奮闘する同級生たちに出会う。フルートを奏でる美少年・伊藤慧とポニーテールの鮎川千佳。そして、見たこともない澄みきった目をしたヴァイオリン奏者、南枝里子。本屋大賞ノミネートの傑作青春音楽小説が、人気漫画家・穂積さんの描き下ろしカバーイラストで新装文庫化!!
二人で芸大に行ったら、デュオを組まない?-津島サトルは、南枝里子の影響を受け、芸大を目指すようになる。南との美しい合奏もずっと続けていきたかった。高校二年の夏、同級生たちが優秀な新一年生たちに焦りを覚えるなか、サトルは音楽家である祖父から言われ、ドイツ・ハイデルベルクで二か月間チェロを学ぶ機会を得る。留学先から南に宛てた手紙を送り続けるサトルだったが、帰国した彼には、予期せぬ出来事が待ち受けていたー。若さゆえの自我の暴走が、オペラやオーケストラの美しい名曲と共に切なく描かれる。一気読み必至、衝撃の第二巻!!
チェロを辞めようと思うんですー。高校三年になり、津島サトルは音楽家としての自分の才能に見切りをつけようとしていた。その頃、南枝里子は人生をかけた決断を下す。自らの人生を背負い、それぞれの想いを楽器に込めて演奏する合奏協奏曲。本当にこれが最後の演奏となってしまうのか?あの夜僕は、人間の力ではどうにもならないものに向かって泣いたーサトルの船は、青春を彩るニーチェの言葉とともに、大海へと漕ぎ出る。全てを飲み込み切なく響く音楽のように、著者が奏でる傑作青春音楽小説、ついに最終章。
2011年3月11日。東京・錦糸町の錦糸ホールで新世界交響楽団のコンサートが開かれようとしていた。演目はマーラーの交響曲第五番。しかし、14時46分、東日本大震災が発生する。そんな中、3カ月前に離婚したばかりの八木雪乃、音楽評論家の永瀬光顕、アイドルおたくで今は楽団のヴァイオリニストのファンである堀毅、夫亡きあと、三田のワンルームマンションで暮らす川喜田すずらは会場に向かうが…。
“新潟市一家溶解事件”そして謎めいた“手記”-。大学を卒業して十三年後、交流が途絶えていた友人・茅原恭仁からの招待を受けた「私」は、山間の別荘地にある彼の自宅を訪ねる。恭仁はその洋館で夜な夜な何かの研究に没頭しており、彼とともに暮らしている妹の睦美は、別人のようにかつての快活さを失っていた。恭仁の研究とは何なのか。招待の目的は何か。「私」はこの奇妙な兄妹の謎にからめとられてゆく。織田作之助賞受賞で初戴冠の著者による、奇妙極まる怪異譚にして恋愛譚。
なにもかもありきたりな男の、ありきたりでない忘却…-「亡失」。一番よくないのは、確固たる自分の意見を持つことだ。目覚めないまま動き回る、それが生活だー「黙過」。ペンを置き、机から顔を上げると、街は会社たちのものになっていたー「増益」。日常に地続きで潜む狂気。著者の最高到達点。