著者 : 西村望
石見に参り、かの地の動静を調べて参れー遠国御用の密命を帯びた幕府のお庭番・土屋与三郎は箱職人に姿をやつし、出雲から石見銀山に入った。四万八千石の天領内には、幕府直轄のお囲い村が三十二、間歩(坑道)が二十本あり、毎年五百貫の銀が江戸に送られている。この銀山の実権を握る代官代理の小栗市太夫が、長州藩から謀反の誘いを受けたというのだ…。
淳子四十六歳。男と女の情炎を燃やしつづけた人生だった。養女となって婿養子をとったが夫は養母と関係し、飛び出て勤めた料亭では、主人にくどかれたのも束の間、夫人に半死半生でたたき出された。月日を重ね、料亭まで手にいれたが、世話してくれた男にも身をまかせた。その男が知人の男性も交え、スペイン旅行に行こうと誘ってきた。なぜ三人。淳子の肉体の奥に、妖しい炎が燃えさかった。鬼才の秀作。
郷里の街で婦女暴行をやらかした中川は、流れ流れて都会の片隅でバーテンの職に就いた。たまたま店に遊びに来た人妻の和歌が、そんな中川に色目をつかう。亭主だけではもの足りない和歌は若い男の肉体に溺れ、中川も彼女の成熟した肢体と、そのつど渡してくれる小遣い目当てに爛れた関係を繰り返す。しかし些細な諍いから中川は殺意を覚え気がついた時は和歌の首を。犯罪小説の鬼才が放つオリジナル傑作。
平凡な結婚生活をしていたはずの虫子粂喜だったが、妻の万利子に逃げられてしまう。執拗に妻の居場所を捜す虫子は金沢で猪野愛児と夫婦同然の暮らしをしていた万利子を見つけ強引に連れ戻すが、また逃げられてしまう。再び虫子から逃げた万利子は、猪野と釧路で密やかな暮らしを始めるが…。女の身勝手と男の執念を鬼才が描く長篇クライムサスペンス。
明治の末、貧困にあえぐ四国の寒村で、若者たちは、一撹千金の夢を賭けて、アメリカ密航を企てる。アメリカでは1年で日本の10年分を稼げるという噂を頼りにして…。10人の男女は、四国を出帆する。まるで海に放たれた凧のように、不安いっぱいの前途である…。奇想天外の冒険ロマン。
京都在住の大月信平・エリ子夫妻には子供ができない。だが信平は36歳。若い。交際誌で『私たちの夫婦生活を見て!』という記事を読み、名古屋の神田夫妻を訪問。さらに松本夫妻と交際し,鑑賞より実践が迷路を聞くことを悟った。そこに快感未体験の八木夫妻も加わりスワッピングは盛り上がる。鬼才が性を通して人間の業を描く。
さびれた観光地の片隅で民宿を営む上田と多佳子の夫婦は、経営不振から山林ブローカーの刀根から借金をした。上田が十二指腸潰瘍で入院した夜、刀根が訪れ期限の過ぎた金の返済を迫る。払うあてのない多佳子に、借金の利息分だとウソぶき無理やり彼女を犯す刀根。猛々しい情事のあと、いぎたなく眠る男の顔を見詰める女の瞳は凌辱の翳りから殺意の光に変わった…。犯罪小説の鬼才が描くオリジナル犯罪ノベルス!