著者 : 谷恒生
アフリカ・モザンヴィックの港に碇泊中の南ア定期航路貨物船・白雲丸に突然、次港に寄らずケープタウンへ直行せよとの航路変更指令が届いた。しかも、そこで積み込みまれた大きな木箱の中身が何者かに持ち去られたのだ。稲村一等航海士は行手に不吉な予感を覚えた。ケープタウン入港後、稲村はリンと名のる美貌の娼婦から密航を依頼される…。大暴風雨荒れくるう喜望峰沖を舞台に描く記念碑的傑作。
埃っぽくて薄暗い、カルカッタの大真珠ホテル。この最下級の木賃宿には、インドを陸路で渡る旅人が集まる。作家の加田、噂好きの小田黒教授、若冠二十歳の幸丸くん、肝炎に臥せるプロちゃん、傲岸不遜の狂犬病氏、精霊と話すエスメラルダ…。一握りの金持の裏側の貧困。不可触民がたむろし、様々な病のはびこる混沌の国に、日本とは異なる時の流れや活力を見出した人々の生き様を鮮やかに描く傑作長篇。
喧騒と異臭、猥雑の入り混じるバンコク・チャイナタウンのはずれに建つ楽宮旅社。1980年、そこはラオス難民の娼婦や、マリファナと酒と倦怠の時を求めて淀む日本人若者の定宿でもあった。博奕打ちの狂犬病氏、フリーライターのフグやん、ガイドの成島くん、ボランティア志願・鼻くん、ドラッグ中毒・九車…。日本の都会の人間関係を逃れ、戦闘の続くアジアの片隅にひっそりと息づく若者たちを描く話題作。
髑髏月の精を受けた代議士・八岐忠義は、謎のホステス・比良坂いずみと妖艶な一夜を過ごした。それを知った権堂幹事長は、突然、八岐の政治生命を絶とうと謀る。汚辱にまみれ、闇の主・堕導師の許を訪れた八岐は、暗黒のパワーを手に入れ、権堂に立ち向かった。政界の背後に蠢く魑魅魍魎の世界を描く大伝奇ロマン。
現存世界の背後に潜む幽冥な魔窟シャンバラに謎の女・紅孔雀を捜しに火雷厳道が現われた。この地で春をひさぐ女たちの魂を救う火雷厳道の底知れぬ熱力に、シャンバラの支配者や魑魅魍魎は怯えた。妖しい美女との淫楽、羅刹の座をめぐる凄惨な戦い!官能とバイオレンスが噴出する傑作シリーズ第1弾。
敗れゆく者に捧ぐ-長篇書下し小説。海運界の覇者と派閥の領袖。二つの顔を巧みに操り、総理・総裁をめざした男の熱き野望と波瀾の半生…〔三光汽船と河本敏夫〕をモデルに元一等航海士・谷恒生が書下す真実のドラマ!
この物語は、墓地に逃げこんだ男の悲鳴で幕があがる。そして展開するのは魑魅魍魎の世界-たとえば、「貴様は…一体…何者だ。亀頭は震え声で叫んだ。声を出すことによって、萎縮してしまった魂をふるいたたせようとしたのだ。おれか、赤い濁った双眸から鬼火のような燐光がほとばしった。おれは地の底の闇より幾多の呪われた自我を担って地表の物質界に蘇生した魂だ。おまえのような痴愚な凡夫とは人間の種類がちがう。特殊な頭脳の持主なら、おれの背髄中に息づいている超太古の叡知を視ることが出来るだろう」というように!欲がうず巻く・性が疼く・力が暴れる-人間の胸の奥の呵嘖をゆさぶって文が跳ねる。-著者会心の長編伝奇ロマン第5巻乾の項。