著者 : 遠田潤子
紀州の山間の小さな町に紅滝という美しい滝がある。その滝には運命の恋と信じた相手に裏切られた姫の、哀しい伝説が残されていた。だが、伝説が語らない恋の歴史があった。それは逃れることのできないさだめの螺旋。現代から過去ー大正、江戸、安土桃山、そして南北朝へと逆巻きに、二人は出会いを繰り返す。恋に呪いをかけた二人の誓いとは。紅滝に奇跡は起きるのか。
“絶望”から、目を背けるな。バラが咲き乱れる家で、新進気鋭の建築家・青川英樹は育った。「バラ夫人」と呼ばれる美しい母。ダムと蕎麦が好きな仕事人間の父。母に反発して自由に生きる妹。英樹の実家はごく普通の家族のはずだった。だが、妻が妊娠して生まれてくる子が「男の子」だとわかった途端、母が壊れはじめた…。
しがない日本画家の竹井清秀は、妻子を同時に喪ってから生きた人間を描けず、「死体画家」と揶揄されていた。ある晩、急な電話に駆けつけると、長らく絶縁したままの天才料理人の父、康則の遺体があり、全裸で震える少女、蓮子がいた。十一年にわたり父が密かに匿っていたのだ。激しい嫌悪を覚える一方で、どうしようもなく蓮子に惹かれていく。『銀花の蔵』『雪の鉄樹』『オブリヴィオン』の著者が放つ、人間の業の極限に挑んだ、衝撃の問題作。
大阪で独りカレー屋を営む三宅紘二郎のもとに、絵葉書が届いた。そこに書かれた漢詩が、封じ込めていた記憶を呼び覚ます。愛した女、その娘。五十年前兄は彼女たちを惨殺したー老境を迎え全て忘れようとしていたが、もう止められない。半世紀、抑えていた殺意が紘二郎の背中を押す。兄のいる大分に向かう途中、ひょんなことから、金髪の若者・リュウを交代運転手として雇うことに。祖父と孫ほど年の違う二人の、不思議な旅が始まった。
姉の朱里が自殺した。その最期の足取りを追って伊吹は大衆演劇の鉢木座に向かうが、若座長・慈丹に見初められ、奇しくも伊吹は女形として入団することに。稽古と舞台に追われながら、伊吹は姉の死の真相を探る。やがて、鉢木座の過去に秘められた禁断の事実を知ることになり…。血脈に刻まれた因縁。「約束」は果たされたのか?
ただ立っているだけで圧倒的なオーラを放つスター、堀尾葉介。アイドルグループ「RIDE」の一員として十四歳でデビュー。二十二歳のときに演技の勉強のためにアイドルの座を捨てる。地道に努力を続け、アクションから時代劇までこなす実力派の俳優と評価されている。容姿と才能に恵まれ、誰もが好感を持ち、賞賛する男ー。過去に縛られ、不器用に生きている人々が彼とすれ違うとき、人生に変化が訪れる。その葉介も過去に縛られていた…。
絵描きの父と料理上手の母と暮らす銀花は、一家で父親の実家へ移り住むことに。そこは、座敷童が出るという言い伝えの残る、歴史ある醤油蔵だった。家族を襲う数々の苦難と一族の秘められた過去に対峙しながら、昭和から平成へ、少女は自分の道を歩き出す。実力派として注目の著者が描く、圧巻の家族小説。
ミモザの父・閑に一通の封筒が届いた。白い線で描かれた薔薇の絵のモノクロ写真が一枚入っていて、裏には「四月二十日。零時。王国にて。」とあった。病床の父は写真に激しく動揺し、捨てろと彼に命じる。その姿を見たミモザは春の夜、余命短い父のために指定された明石ビルに向かう。廃墟と化したビルの最上階には三人の男たちが待っていた。男たちは過去を語りはじめる。白墨の王国だったこのビルの哀しく凄まじい物語をー。
奈良県南部の秘境の村を通る峠越えの旧道沿いで、細々と営業を続ける「ドライブインまほろば」。ある日、憂と名乗る少年が幼い妹を連れて現れ、「夏休みが終わるまでここに置いてください」と懇願する。一人娘を喪った過去を持つ店主の比奈子は、逡巡の末、二人を受け入れた。だが、その夜更け、比奈子は月明かりの下で慟哭する憂に気付く。震える肩を抱きしめる彼女に、憂は衝撃の告白をはじめた…。
三十五歳の千穂は不妊治療を始めて十年、夫と義母からの嫌味に耐え続けてきた。ある日、夫が酒に酔った男・透を轢いてしまう。謝罪のため透を探す千穂は、彼が算数障害だと気付き手を差し伸べる。だが、二人の関係を怪しむ夫。一方的に疑われ、これまで抑えてきた感情を爆発させた千穂は、家を飛び出し透の元へ逃げるのだったー。
歌詞のない旋律を母音のみで歌う「ヴォカリーズ」の歌手として絶大な人気を誇る実菓子。彼女の自伝のインタビューの相手として選ばれたのは、売れないギタリストの青鹿多聞だった。なぜ実菓子は、多聞を指名したのかー2人は幼い頃同じ家で育ち、さらに実菓子の夫は、多聞の亡兄だったからだ。インタビューが進むにつれ、明らかになっていく、おぞましく哀しい出来事。その真実が解き明かされた時、新たな事件が起きる。
森二が刑務所を出た日、塀の外で二人の「兄」が待っていたー。自らの犯した深い罪ゆえに、自分を責め、他者を拒み、頑なに孤独でいようとする森二。うらぶれたアパートの隣室には、バンドネオンの息苦しく哀しげな旋律を奏でる美少女・沙羅がすんでいた。森二の部屋を突然訪れた『娘』冬香の言葉が突き刺さるー。森二の「奇跡」と「罪」が事件を、憎しみを、欲望を呼び寄せ、人々と森二を結び、縛りつける。更に暴走する憎悪と欲望が、冬香と沙羅を巻き込む!森二は苦しみを越えて「奇跡」を起こせるのか!?
大阪で鷹匠として働く夏目代助。ある日彼の元に訃報が届く。12年前に行方不明になった幼い義弟・翔一郎が、遺体で発見されたと。孤児だった代助は、日本海沿いの魚ノ宮町の名家・千田家の跡継ぎとして引き取られた。初めての家族や、千田家と共に町を守る鷹櫛神社の巫女・真琴という恋人ができ、幸せに暮らしていた。しかし義弟の失踪が原因で、家族に拒絶され、真琴と引き裂かれ、町を出て行くことになったのだ。葬儀に出ようと故郷に戻った代助は、町の人々の冷たい仕打ちに耐えながら、事件の真相を探るが…。
祖父と父が日々女を連れ込む、通称・たらしの家で育った庭師の雅雪は、二十歳の頃から十三年間、両親のいない少年・遼平の面倒を見続けている。遼平の祖母から屈辱的な扱いを受けつつも、その傍に居るのは、ある事件の贖罪のためだった。雅雪の隠してきた過去に気づいた遼平は、雅雪を怨むようになるが…。愛と憎しみの連鎖の果てに、人間の再生を描く衝撃作。
奄美の海を漂う少女の元に、隻眼の大鷲が舞い降り、語り始めたある兄妹の物語。親を亡くし、一生を下働きで終える宿命の少年フィエクサと少女サネン。二人は「兄妹」を誓い、寄り添い合って成長したが、いつしかフィエクサはサネンを妹以上に深く愛し始める。人の道と熱い想いの間に苦しむ二人の結末はー。南島の濃密な空気と甘美な狂おしさに満ちた禁断の恋物語、待望の文庫化。日本ファンタジーノベル大賞大賞受賞作。