著者 : 金子薫
言葉を紡ぎ、世界を作り出すとは、どういうことなのか。無限の迷宮を彷徨い続ける青年・光。どんなに歩いても、螺旋階段が上下に伸び、廊下が一直線に続くばかりだ。ある時、迷宮の中にホテルが建っているのを発見した光は、その支配人となり、客を呼び込むポスターを貼るため、再び迷宮へと足を踏み入れる。迷宮の中の玩具屋で働く女性・言海は、ポスターを見て、ブリキの動物たちを連れてホテルを目指すー。若き才能による大胆で緻密な野間文芸新人賞受賞後第一作。
いつ何処ともしれぬ森の中のペンションー。オーナーなる人物に監禁された父と子は、双子が驢馬に乗って助けにくるのを信じて待ち続けていた。双子が辿るであろう道のりを地図に描き物語を紡ぎあげ、時に囲碁を打ちながら、父子はこの不条理の中、辛うじて精神の均衡を保っていた。いっぽう生まれつき旅と救済を宿命づけられた双子の少年少女は、驢馬ナカタニを得て旅立つが、行く先々で寄り道ばかり。畜獣の如く蹂躙されている人々がいるという噂を聞きつけ、二人は意気揚々と救出に向かうがー一通の手紙が二つの世界を繋ぐ時、眩い真実が顕れる。
不朽の古典『見聞記』に楽園と謳われた島の架空の港町。新町長の下、観光資源の美麗な蝶と花畑を護るため、海鳥を毒矢で殺す鳥打ちの職に、三人の青年が就いていた。しかし島の経済が陰りを見せるにつれ、鳥打ちの一人、天野は自らの為す仕事に疑念を抱く。問うてはいけない問いは、やがて町をあげての大騒動に発展してー三人の青年の自由を巡る圧倒的小説。
「本間は、作中で少年の死体が発見された今日この日まで、少年が死を選ぶなど、露ほども考えてはいなかった。」大学院を目指すという名目のもと、亡き祖父の家で一人暮らしをしながら小説を書いている本間。ある日、その主人公であるモイパラシアが砂漠で死んだー。彼の意図しないところで。原稿用紙の上に無造作に投げ出された少年の左腕。途方にくれながらも本間が、インクが血のように滴る左腕を原稿用紙に包み庭に埋めようとした時、現れたのは少年が飼育していたトカゲの「アルタッド」だった。幻想的かつ圧倒的にリアルな手触りを持つシームレスな小説世界と、その独自の世界観を支える完成された文体、そして「書くこと」の根源に挑んだ蛮勇に選考委員が驚愕した「青春小説」の誕生!第51回文藝賞受賞作!