著者 : 金石範
満月の下の赤い海満月の下の赤い海
済州島四・三事件をテーマに書き続ける在日の老作家K。若き日に北朝鮮関係の地下組織に参加したものの離脱、その後の精神的危機とさまよいを回想する「消された孤独」。韓国語と日本語のはざまで二つに割れた存在に苦しみつつ韓国舞踊を学び、島を想う在日女性との対話を描いた「満月の下の赤い海」。四十二年ぶりとなる自らの故国・韓国訪問と済州での取材を通じて、語りえない記憶の真実に耳を澄ませる「地の疼き」。三編の小説と対談を収録。
海の底から海の底から
「豚になってでも生きろ」-李芳根の助けで日本に逃れた南承之。済州島に残った芳根が自殺した日の夜、承之と芳根の実妹で東京に住む有媛は同時に芳根の夢を見る。二つに割れてそれぞれの心の中に生きる芳根の魂が二人を引き寄せていく。名作『火山島』の続々編にあたる本作は、金石範文学の原点であり、巨大な小説の終わりでもある。
地の影地の影
生と死をめぐる情熱の日々と濃密な時間。「私」を「先生(ソンセン)ニム」と呼んで走り寄り、抱きついてきた若い女性のヤンヒ。急逝したそのヤンヒを追憶しながら、語り手の「私」は、今でも信じられず、納得しがたい彼女の死-この作品は一人の人間が一人の人間の死を悼む最高の形式としての「文学」というものを私たちにもう一度、想起させてくれる。
万徳幽霊奇譚/詐欺師万徳幽霊奇譚/詐欺師
初期作品「鴉の死」、長篇『火山島』をはじめとして常に“幻のふるさと”韓国・済州島の地を描くことにより己れの“存在の危機”を表現し続ける在日の作家金石範。深い谷間の奥の観音寺に住みついた一人の飯炊き小坊主の世の常識を超えた伝心の“聖性”を描く『万徳幽霊奇譚』と架空スパイ事件の“主謀者”とされた若者の悲劇『詐欺師』。痛烈な諷刺と独特のユーモアの“稀有なる人間像”の創出。
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