著者 : 長沢由美
暖炉の掃除を命じられても、 屋根裏に住んでいても、私はレディ。 天涯孤独のアレグラは優しい親戚のもとに身を寄せていたが、 親戚が亡くなるや、その新妻によるいじめが始まった。 半分イタリアの血を引くアレグラを疎ましく思う新妻は、 彼女を薄汚れた屋根裏の倉庫に追いやり、メイド扱いしようとした。 そんな不遇なアレグラだったが、ある夜会で運命の出逢いを果たすーー 女性を誘惑してもてあそぶと噂の悪名高き放蕩男爵ウィリアム。 若い娘はみな怖がってこの男爵に近づこうとしないというのに、 アレグラは彼の魅力に痺れている自分に戸惑った。 さらに、その夜会で親戚の新妻がアレグラを見世物にしようとしたとき、 ウィリアムが颯爽と前に進み出て、そつなく彼女を辱めから救い……。 亡き父が音楽家で、上流階級のうるさ型からは旅まわりの楽団の娘と見下されているアレグラは、じつはイタリアの子爵の孫娘でした。そんな彼女に目をつけた社交界随一の放蕩男爵ウィリアムは、はたしてどんな意図を持って彼女に近づいてきたのでしょうか?
ジュディは幼い娘を伴い、ロンドンの屋敷へ帰ってきていた。二度とここへは戻ってこないつもりでいたのに。誰よりも深く愛したロバートにつけられた傷が疼くから。彼との別離に、傷ついた彼女を絶望の淵から引き上げ、生きる意味を与えてくれたのは、夫ーロバートの兄だった。だが夫亡きいま、ロバートのいる婚家に戻るより術はなかった。「ジュディ」声音の低さに、苦いものがありありとこもる。振り返らなくてもわかる。忘れもしない声。自分の娘を、兄の子だと思い込んでいる、かつての恋人…。
エロイーズは伯爵のもとに押しかけたことを後悔していた。彼女を見るやウォルトン伯爵が苛立ちもあらわに背を向けたから。伯爵が恋に落ち求婚したのは、美人の妹であって私ではない。しかも妹の駆け落ちで、いま彼の自尊心は傷つけられているー怯みながらも、しかし、エロイーズは力を振り絞って告げた。「私と結婚してください。あなたの評判を守るために」振り返った端整な顔に浮かぶ、虚をつかれたような表情を見て、いたたまれなくなって目を伏せた。そして心のなかで付け加えた。嫌な男と結婚させられそうになっている、私のためにも…。
「あなたのお兄さんって、どうして結婚しないのかしら」17歳のルイーズは、由緒ある美しい屋敷に帰ってきたばかり。パーティで、親友にそう問われても、彼女の心はうつろだった。ルイーズにはショックなことがあったのだ。いつものように、駅に迎えに来た義兄のダニエルが、今日は恋人を連れていた。血の繋がりのない、35歳の義兄をひとすじに慕い続けてきたのに。彼の“特別”にはなれないー思い知った彼女は距離を置こうと、パーティに親友と、自分に気のあるその兄を招待した。しかし、ダニエルはルイーズにほかの男性と踊らせようとしなかった…。
「きみは自分が何をしたのか、わかっているんだろうな!」激昂したヘラクリオンに体を揺さぶられながら、花嫁の長いベールを脱いだフェニーは罪悪感に苛まれていた。神の前で結婚の誓いを立てた相手が美しい婚約者ペネラではなく、地味でさえないその従妹だったとわかれば、激怒して当然だ。でも、奔放なペネラは恋人とアメリカへ逃げてしまった。そして私は、ひそかにヘラクリオンを愛していたのだ…。フェニーはエーゲ海の島に立つ白亜の豪邸に迎え入れられた。男の子をひとり産み、その子を置いて去れという条件のもとに。
両親の死後、アレグラを引き取ってくれたおじが、献身的な看病の甲斐なく亡くなった。悲しみにひたる間もなく、翌日アレグラは、意地悪なおばの仕打ちで埃まみれの使用人部屋に追い払われる。やがて、ようやく夜会で社交界デビューを果たすことができたが、悪名高き放蕩男爵ウィリアム・タヴァナー卿に目をつけられてしまった!“うぶな生娘を手玉に取りなど彼にはたやすいこと”-悪評に震え上がるアレグラは、案の定ウィリアムに求婚される。実はある事情から都合のいい花嫁を探している彼に、熱く唇を奪われた瞬間…。
会ったこともないギリシャ人の祖父から手紙が届いた。病床に伏し、死ぬ前に一目ヘレンに会いたいと言うのだ。ヘレンは同情をおぼえるも、父と駆け落ちした母を勘当し、亡くなるまで許さなかった祖父を恨む気持ちもある。迷う彼女の前に、ある日、祖父の使者だという謎の富豪が現れる。その男、デイモンは美しいが、微塵の甘さも感じさせない野獣のような鋭い目で、力ずくでも君を連れていく、と告げた。容赦なく追いつめられて、怯えるヘレンは思いもしなかった。このあとの船旅で、デイモンの激情の炎に焼かれようとは。
令嬢ヘスターの血のつながらない祖父である公爵が病の床で、アメリカに住む疎遠の孫を呼び戻して跡継ぎにすると言いだした。しかも、ヘスターが彼に上流社会の礼儀作法を教えるのだといい、公爵家の行く末を憂える彼女はそこはかとない不安を覚えるのだった。一方、老公爵から呼び出しの手紙を受け取ったジャレッドは、不作法でみすぼらしい身なりの人間と決めつけられ腹を立てていた。実際は教養も財産もあり、こんな礼を欠く要請など断ってもよかったが、ふと、顔も知らぬ親戚たちをからかってやりたい遊び心が湧いた。はたしてイギリスの地を踏んだ彼は、“教育係”のヘスターに言った。「ぼくにマナーを教えてくれ。ぼくはきみにキスの仕方を教える」
7年前に、忽然と姿を消したライアンが町に戻ったと知り、ジャナの胸に、一瞬にして暗い影が差した。16歳のころ、ジャナは屋敷に住むライアンと愛し合っていた。だが、部屋に踏み込んできた彼のおじに見つかって、思わず、「ライアンに連れ込まれたの」と嘘をついてしまったのだ。その日のうちにライアンは勘当され、翌日には屋敷を去った。そうして、ジャナの初恋は無残な形で終わりを告げたー長い空白の時を経て再会した彼は、いまや別人のように、彼女を嘲笑していた。「復讐を受ける覚悟はできているか?」と。
ただいま!なつかしいわたしの家、そして、大好きな兄さん…。ロンドンのハイスクールを卒業したわたしは由緒ある美しい屋敷クイーンズ・ダウアーに帰ってきた。兄さんと住むこの家こそ、わたしの愛のお城。幼いころからひとすじに慕いつづけてきた兄さん。でも、ひそかな想いが大人の愛に育っていることに、決して気づいてくれないんだわ。だって、ずっとずっと年上の大人の兄さんにとって、わたしはいまも、小さな妹にすぎないんですもの…。