著者 : 阿刀田高
夫に怪しい女がいるらしい、何か相談がなかったか、と友人の妻から詰め寄られた「ローマへ行こう」。書店の主人に依頼された、月一回、誰もいない家の鍵を開け、花を換え、テープレコーダーのスウィッチを入れるという奇妙なアルバイト「家族の風景」ほか、普通に生きる大人たちの大切な秘密を描く全十篇。
黒髪の美しい、不思議な女の後を追って…「黒髪奇談」。暗い土蔵のなかに捨て置かれた鏡、その中で蠢くものは…「鏡の中」。同じ夢を見る。他人には言えない秘密を持った日には…「白い部屋」など全12編。ふと目をあげた先に、怪異があなたを待っている。夢と現のあわいに立ち現れる恐怖ー珠玉の短編集。
銀座の地下を流れる水路で、絵本を読み聞かせる美女に出会った少年の日。あれは全部、夢だったのか?本を人生の友とする男の芳しき幻想譚(「地下水路の夜」)。死んだ少女に捧げる奇妙な言辞。そのリフレインが巻き起こす摩訶不思議な出来事とは(「朗読者」)。源氏物語、ギリシャ神話、夢十夜。短編の名手が古今東西の名作と共に、あなたを不思議な世界へと誘う。全ての本好きに贈る12の物語。
残業後の夜遅くに乗るバスには、なぜかいつも同じ男が(「チキンレース」)、憧れの先輩との初ドライブでわかった彼女の真の姿とは(「かもしれない運転」=採点は各九・五点)。奇想天外な発想やドンデン返しから心温まる物語まで、短編の名手が厳選した60編。選評には創作に役立つヒントが満載!
「死んだら会いに来るよ」。そう言い残して、若くして死んでしまった、年上の女性。合図は話しながら耳をかくことだという(「猫のしっぽ」)。かつて気まずい別れ方をした女性から送られていた、鞄。苦労してナンバー式の錠を開けると、中には褐色のかたまりが…(「鞄の中」)。男と女の関係は、妖しく不思議で、時に切ない。十三の傑作短篇集。
妻が料理するあいだ風呂を入れようと思ったが(「カレーの話」)、部屋に住み着いた幽霊との10年越しの約束(「伊藤さん」=採点は各9.5点)。奇想天外なストーリーやどんでん返しだけじゃない。人生のしっとりした情感も味わえるキラリと輝く60編。発想方法や文章作法もよくわかる選評も必読!文庫オリジナル。
雲の中で生まれた一族が、春に運命の配属先を告げられる(「水のココロ」)、天才が完成させた「振られずに告白できるシステム」とは(「アプリケーション」=採点は各九・五点)。エンタメのエッセンスを凝縮した究極の60編。脳を刺激してアイデアが広がる選評も必読。2分間で楽しめる娯楽の殿堂!
アンブラッセという言葉を教えてくれたのは、相沢さんだった。フランス語で「抱擁する」という、その意味もー(『めぐりあいて』)。身体と心が記憶する、快哉。いまなお疼く思いに身を焦がしながら男は、そして女は生きる。大人の渇きを潤す、傑作短篇集。
美しい黒髪の妻を自動車事故で亡くした後、再婚したフランス女性も事故で失った画家。彼は奇妙な方法で妻たちを偲び…「二人の妻を愛した男」。妻は“一年に一晩だけ自由にさせて”といった。夫はその願いを長く叶えてきた。だが、妻の秘密を知りたくなり…「女系家族」。女性遍歴の末、愛した女に棄てられた旧友には、驚愕の素顔が…「紅の女」。男女の日常に潜む不可思議をミステリアスに描く短編集。
夫の浮気が原因で離婚した恭子は、小学生の娘と二人暮らし。ある夜、学生時代の友人晴美が訪ねてきた。相談があるというが…「隣の女」。病弱な姉を支え、独身のまま五十代を迎えた静江。姉の乗った飛行機が墜落したと知らせが入り…「凶事」。夫の隆男は嘘をつく。結婚してよくわかった。このままではいけないと思い詰めた律子は…「嘘つき」。ドンデン返しの技が冴えるブラックユーモア11編。
平凡なサラリーマン岩下。深夜、電話にでると謎の声が、日本シリーズの勝利チームを告げて切れた。さらに、競馬や株の有利な情報を一方的に伝える電話が続き…「幸福通信」。図書館に勤める妻が、幻聴があるという。気がかりながらも、出張のためアレクサンドリアへ。遺跡見学の途中、石穴から奇妙な音が…「あやかしの声」。膨大な蘊蓄を愉しみ、豊かな想像力で結実した物語を味わうペダンティズム10編。
篠田大介は、エリート営業マン。お見合いした静子は、笑顔のかわいい、たよりなげな印象の女だった。悪ずれしたところのない静子にいとしさを覚えて結婚を決意。だが、新婚旅行の初夜に…「無邪気な女」。男は指の美しい人妻・映子に溺れた。駆け落ちをしようと待ち合わせたバーに届けられたものは…「夜のアスパラガス」。日常にひそむ恐怖の戦慄を描くホラー劇場12編。
もともとの反社会的な要素に加えて、狂気の笑いでもあるのがブラック・ユーモア。一見お気楽な笑いの裏には、つらく、苦汁に満ちた思い、あるいは本源的な恐怖が潜んでいる。時の試練をくぐり抜け、ますます切れ味鋭くなった傑作ジョークを、一気に集めた五百余編。隠し味の毒スパイスが、かえって薬になるか。
「一度会いに来るよ」-愛しい夫の言葉を頼りに、夫の故郷を訪ねた妻が満開の桜の中に見たものは…。美しく妖しい味わいの表題作ほか、白い蜘蛛とも、白い蟹とも、白い手首とも見えるものが、月光の下を這いまわる不気味な感触の「白い蟹」など、新鮮なアイデアと巧妙な仕掛けが生きる12編。きっと泣ける純愛ホラー。達人アトーダの名人芸をたっぷりお楽しみください。
10年前にアムステルダムで出会ったカフェの主人とかわした再会の約束。半信半疑で出かけた青山通りで見たものは…。夢とも現実ともつかない奇妙な体験を描いた表題作「コーヒー党奇談」ほか、作家生活25周年、短篇の名手が紡ぐ全12篇。
「一度会いに来るよ」死の床で夫がつぶやいた。一周忌を過ぎ、墓参に訪れた妻が目にしたものは-。夫婦の深い絆を描いた表題作「花あらし」。そのほか、一見穏やかな日常を微妙にずらしたところに見える「不思議」や「怖い」の世界を鮮やかに切り取った、12編の短篇集。
喫茶店で見た油絵は、亡父が宝物にしていて高名画家の作に似ている。そこから回想はわが家の過去にと及ぶ。父の死、経済危機、姉による絵の売却、さらに姉の私生活の秘密とその死。あの絵はわが家の人生のみならず、売られる度に幾多の人生模様を眺めてきた。人生での休息点「時のカフェテラス」を舞台に人間の哀歓を巧みに描く秀作集。
人生のさまざまな分岐点を、その都度どちらへ行くか決断しながら通過してきた男と女。湖畔で偶然出会った二人は、またもやある決断を迫られる…(「Y字路の街」)。おとなしい新妻は、しかし閨房に入るとかたくなに夫を拒んだ。彼女の精神外傷とは…?(「無邪気な女」)だれかに似ているが、だれとは特定できない男女の物語。短編の名手による精妙なトリック・ミステリー10編。