著者 : 鴻巣友季子
男はアムステルダムの部屋でいつもどおり床に就いた。目覚めたのはリスボンのホテルの一室だった。「私は別の誰かになったのか?」これは、死が口を開けてから閉じようとするまでのたった「二秒間」の物語である。アリステイオン・ヨーロッパ文学賞受賞。
白亜紀、北米ユタ州。一頭の恐竜が悲しみに沈んでいた。彼女は狩りで、つがったばかりの夫を失ったのだ。高度の知能を持ち、体系だった社会生活を営むラプトルたちは、ひとりでは暮せない。自己の遺伝子を残すために、より良い伴侶を捜さなければ…。恐竜は絶滅しなかった、鳥に姿を変えたのだと主張する著者が、最先端の学説と大胆な想像力で再現する、太古のラブストーリー。
母を癌で亡くし、夫との生活が破綻したわたしは、この南の島へ逃げてきた。いまは島で教職を得、新しい恋人もでき、平穏な時を過ごしている。そんなある日、彼と海でダイビングしているさなか、突然、衝撃波が襲ってきた。男は死に、助かったわたしが海から上がると、世界は滅んでいた…過去も未来も消滅し、地獄と化した現在をさすらう一人の女。その濃密な生理と心理を通して、〈世界の終わりの日常〉を描く黙示録的現代文学。
ジョニーにはなぜか幽霊が見える。ロンドンの街はずれのうらさびれた墓地が土地開発会社に買収され、死者たちは追いだされる強迫観念でパニックに。墓地を救うため、ジョニーたち少年四人組のハチャメチャな活躍が始まる。やがてハロウィンの夜がやってきて…。パロディと切なさに満ちたゴースト・ストーリー。
英国商船の船長チッザムは、大西洋を航行中ドイツのUボートに乗船を撃沈され、捕虜となった。ところが収容されたのは通常の捕虜収容所ではなく、彼はそこで拷問に近い尋問を繰り返し受けるはめになった。しかも捕虜仲間たちまで、彼に冷たくあたるのだ。なんとか脱走しようと策を練るチッザム。しかしチャンスは向こうから訪れた。カナダ軍捕虜とフランス・レジスタンスの立てた脱走計画に参加しないかと、話をもちかけられたのだ。
不思議な捕虜収容所をからくも脱出し、英国に戻ったチッザム。しかし彼の周囲には、常に死と疑惑の黒い影がつきまとっていた。背後に潜む何者かが、彼を謀略戦のまっただなかに陥れたに違いない。彼は生還の喜びにひたる間もなく、今度は連合軍側の厳しい尋問にさらされるはめになった…。きさまは捕虜収容所で転向したのだろう。寝返って、ドイツ軍のスパイになったのだ。はたしてチッザムは、その疑いを晴らすことができるか?
男好きの看護婦ジャッキー惨殺の動機は?医療過誤訴訟の切札、手術同意書はどこに?第一線で活躍する神経科医がシカゴの医療センターを舞台に臨場感溢れるタッチで描いた本格医学ミステリー。
1982年、ロサンジェルス空港に旧式のロッキード・エレクトラが飛来、不法着陸を敢行した。機体から降り立ったのはひとりの女性。身元を訊かれた彼女は、1937年に太平洋上が消息を断った飛行士エアハートの名を告げた。調査の結果はことごとくその主張を裏づけたが、問題は年齢だった。生きていれば今年84歳。だが、現れた女性はいまだ40代後半としか見えなかったのである…。蘇るナチの悪夢を描く奇想天外な謀略小説。