著者 : 黒川創
歴史の奔流に抗うには、人ひとりの命はあまりに儚いーー。李朝最後の王高宗は、閔妃を日本人に斬殺され、息子をロシア語通訳に毒殺されかかりながらも強かな抵抗を続けた。日本統治下の作家や詩人、語り手の中村をガイドしてくれた在日の女子留学生。儚い生の連なりが、激動の朝鮮史を織りなしてゆく。過去を掘り下げることによって未来を見晴るかす視野を開く刺激に満ちた歴史長篇。
性の解放。性の革命。性的自立。性をめぐる自己決定権。そこにはいくつもの言葉があったーー。フリーセックスとヒッピームーヴメントの空気が漂う70年代の京都から、好景気のなかで「自立」が謳歌された80年代の東京、#MeToo運動に世界が揺れる現在まで。離婚した母と暮らす少年だった「私」が50代の作家となったとき、自身の経験を娘にどう伝えようとするだろう? 「性」が人生にもたらすものを描きだす長篇小説。
自分にとっての始まり、それは自分で決めてみるしかないのではないか。 読売文学賞を受賞した「かもめの日」と、京都水無月大賞を受賞した「明るい夜」。著者40代の代表作といえるふたつの作品に加え、初書籍掲載となる小説「バーミリオン」、書き下ろし自作解説、著作年譜を収録。 なんの関係性もなさそうな登場人物達が、実は微(かす)かな絆で繋(つな)がっていることを知るのは俯瞰(ふかん)映像で彼らを見ている読者だけである。物語はどんどん繋がってある方向に集約されてゆくのに、彼らは最後までそれに気付かない。 立ち止まっていた場所から一歩前へ進む登場人物達だが、彼らの孤独はきっと解消されない。それでいいのだと思う。その孤独は慣れ親しんだ、すごく当たり前のもののような気もするのだ。 小泉今日子 (「読売新聞」2008年5月11日掲載 『かもめの日』書評より 帯文に掲載) 明るい夜 かもめの日 バーミリオン * 重箱の隅を描けるだけの言葉 著作年譜
「さみしかったよね。私たち、それぞれ」生きあぐねた兄の軌跡を辿る妹の旅ーー。恐れていたことがとうとう起こった。関空に向かうはずの飛行機に兄は乗らず、四半世紀を暮らしたウィーンで自死を選んだ。報せを受け、葬儀とさまざまな手続きのために渡墺した妹。彼女に寄り添う、兄の同僚、教会の女性たち、そして大使館の領事。居場所を探し、孤独を抱えながら生きたある生涯を鎮魂を込めて描きだす中篇小説。
この世界は、いったい、どこまで続いているのか。 私は、その輪郭を、確かめてみたかっただけなのだ。 親子三代の人生と記憶、 土地の歴史が重ねられる京都を舞台とした「もどろき」、 十代の旅の思い出と、 北サハリンで出会った人々との交流と描く「イカロスの森」。 芥川賞候補にもなったふたつの「旅」をめぐる作品と、 初の書籍掲載となる小説「犬の耳」、書き下ろしの解説を所収。 池澤夏樹 推薦 血族、旅先の出会い、淡い恋、人と人は言葉を交わし、運命の舞台でゆっくりと舞う。背景には京都やサハリンの地名が星座のように刻印されている。季節は移り、生きることが大らかに肯定される。たとえ私たちが「いかなる歓喜の中にあっても無限に悲しい」としても。 この二篇の小説を読み終わるとどこか遠くへ行きたくなる。結局のところ世界は美しい、と思えてくる。 もどろき イカロスの森 犬の耳 「習作」を離れるとき 著書一覧
会いたいときは、あの林に来てくれ。まだそのあたりをほっつき歩いているからーー。五十を前にして病を得た記者の三十年の歳月。京都での学生時代、駆け出し記者だった頃の結婚、十年後の離婚、新たな家庭と四十代にして初めて儲けた息子。東日本大震災の激務を経ながら癌を患い、現役記者を続けて六年。いよいよ最後の日々が近づいてくるーー。『鶴見俊輔伝』で大佛次郎賞を受賞した作家が、ままならない人生のほのかな輝きを描く最新長篇。
噂される町。そこに聳える伝説の奇岩ーー。日本の行方を見据える壮大な長篇。二〇四五年、北関東の町「院加」では、伝説の奇岩の地下深くに、核燃料最終処分場造成が噂されていた。鎌倉からきた十七歳の少年。平和活動をする既婚のカップル。不動産ブローカー。役場勤めの若い女とボクサーの兄。海外派兵を拒む兵士たち。そして、奇岩から墜落死した少年の母……。日本の現在と未来を射抜く長篇小説。
「平安建都千二百年」が謳われる京都で、地図から消された小さな町。かつてたしかにそこにいた、履物屋の夫婦と少年の自分ー。幾重もの時間が降り積もる京都という土地の記憶。四つの「町」をめぐりながら人の生の根源に触れる連作小説。
安重根による伊藤博文暗殺。夏目漱石の「韓満所感」。大逆事件で処刑された幸徳秋水、管野須賀子、そして生きのびた者。二〇世紀初頭、動乱とテロルの世界を、人びとのリアルな姿として語りなおす。一〇〇%の知られざる史実から生みだされた長篇小説。
ふいに消えた女ともだち、小説を書くために仕事を辞めたのに最初の一行が書けない「彼」、眠れない「わたし」。アルバイトでその日その日をつなぐ若い男女のよるべなく、ささやかな生。京都・鴨川べりの古アパートから火祭の夜へ、絶妙な語り口ですくいあげられた、若い日の確かな手ざわりが爽やかな感動を呼ぶ傑作。
祖父の営んでいた京の米屋の店先で、みずから命を絶った父-。「もどろきさん」、京都と滋賀県境の還来神社をめぐって、祖父・父・私、三代の記憶と現在が交錯する。さまざまな時代を生きた人びとの、語られなかった言葉、「デッド・レター」の行方は。