出版社 : アストラハウス
わたしたち、「サイバープロレタリア」なの!? 韓国で反響を巻き起こした「ハイパーリアリズム小説」、待望の邦訳 スギョンは30代、わけあって失業中。同居の家族は「個人投資家」の夫と、スギョンの父と母、さらに甥っ子が2人(高校生と小学生)。6人家族で、金を稼いでくる大人が1人もいないなんて。 プラットフォーム労働、ギグワーク……。仕事用のアプリをインストールした携帯電話が一日中手放せない。ソウルの古くて狭い2DKのマンションに六人で暮らす家族の「お仕事」をテーマにした群像劇。思わず出てしまうため息と「サイバープロレタリア」としての問題提起を、リアルに、ユーモラスに描ききった話題作。韓国では「ハイパーリアリズム小説の傑作!」と賞賛されました。お隣の国で起きていることは、世界中で起きていること。共感必至の一冊です。 目次 第一章 スギョン ヨスク ボラ 第二章 ウジェ チョンシク サイバープロレタリア夫婦 第三章 ウンジ ジュヌ 八百五十ウォン 第四章 ヘルプ・ミー・シスター ピボット 第五章 笑う家族 作家の言葉 訳者による解説
北京へ、ニースへ、降りしきる雪の中へ、そして日本の桜の下へ。 シャーマニズムの香り濃い故郷瀋陽の街から、青年は逃奔するーー 鄭執は作家・脚本家・映像作家として活躍する中国の若きクリエイター。80後(バーリンホウ)世代※の旗手。 初邦訳となる本書には、中国東北部の中核都市である故郷・瀋陽の街から、あるいは鬱々と・あるいは劇的に・あるいは飄々と逃奔する青年を主人公とする、三つの物語を収録。 (※80後世代:80年代後半生まれ。中国の一人っ子政策の申し子で、他の世代より恵まれた経済環境に育ち、国際的な視野も経験も十分とされる) 【各作品紹介】 「ハリネズミ」 シャーマニズムの色濃い街で繰り広げられる不条理な茶番劇。周囲から変人扱いされてきた伯父と内向的な主人公が40歳の年の差を超えてかわす魂の交流。 「モンテカルロ食人記」 厳しい受験戦争に疲弊した主人公。その鬱屈する愛憎の相剋から溢れ出すエネルギーが巻き起こす、吹雪の街の奇譚。 「森の中の林」 「四人で五つの良い目を持つ」という祖父、父、息子、三世代の家族。それぞれの人生と愛、そして一つのミステリー。 【目次】 ハリネズミ モンテカルロ食人記 森の中の林 一 コウライウグイス 二 森林 三 春の夢 四 娘 五 瀋陽 日本の読者のみなさんへ 解説 鄭執ーー東北の大地に愛された若き創作者
ー父は、いつかの風の音、いつかの戦争、いつかの飛んでいってしまった鳥、いつかの大雪、いつかの生きなくてはという意志、それらが集まってどうにか一個の塊になっている匿名の存在。父の内面に抑え込まれたまま表現することもならず、わだかまって語られなかったことどもー。過酷な現代史の渦が残した傷を負い、それでも生き抜いた名もなき父の物語。
1911年、“モナ・リザ”は盗まれ、2年間行方不明だった。“彼”はなぜ盗み、そして返したのか?あの“モナ・リザ”は、贋作か、否か?ルークは、謎の追跡者に殺される前に“曽祖父の真実”を見つけなければならないー。画家で美術史家の主人公、フィレンツェで出会った女性、インターポールの捜査官、美術品贋作者、億万長者のコレクター…。過去と現在が交錯するなか、濃やかな人間模様が描かれ、エキサイティングなアクションシーンが展開する。フィレンツェ、パリ、南仏プロヴァンスの村の描写も魅力的な、アート・ミステリの真髄。
いよいよ決行のときが来た。貯水池に着くと、アルフレッドはノアと一緒にためらうことなく囚人服を脱ぎ、ドボンと水に飛び込んだ。ああ神様、なんて素晴らしいんだろう…。僕たちはまだ人間なんだ、と自分に言い聞かせる。「ノア、僕たちはこうして泳ぐことで、まだちゃんと感情がある人間なんだということを証明した。単なる番号ではないんだ」その夜、収容者たちはこのとんでもない冒険についての詳細を聞きたがった。まるで脱走劇を聞くような気持ちになっただろう。もしくは、世界の果てへの冒険旅行だ。
潜水艦は永遠の夜を航行する。 イマジネーションの極まる、“その先”へーー 迷宮のようなプロットと東洋の美学が織りなす、 中国文学の新星による至高の作品集 「彼の作品に登場する人物の多くは、千変万化する世間のありようについてゆくことができず、自分の空想世界にひきこもることによって精神のバランスを保つ。彼らは、激動の変化を遂げ続ける中国社会の片隅に、ひっそりと、だが確実に存在する人々の姿を映しているに違いない。同時にそれは、この本を読む私たちの姿にもどこか似ているように思われる。」(訳者解説より) 「一九六六年のある寒い夜、ボルヘスは汽船の甲板に立ち、海に向けて一枚の硬貨を抛った。」と始まる表題作「夜の潜水艦」は、少年の空想世界が現実との境界線を失っていくという奇譚。「竹峰寺 鍵と碑の物語」で主人公の青年は、失われた実家の鍵はUSBメモリーで、家は完全な状態でメモリの中に保存されていると考える。……8つの中短編は、ひとつひとつ全く異なる世界を細やかに描きながら、大胆なイマジネーションで独自の文学世界を構築していく。中国の若者に大きな共感を呼んだ、新たな中国文学の潮流となり得る気鋭の作家、記念すべき初邦訳作品。 CONTENTS 夜の潜水艦 005 竹峰寺 鍵と碑の物語 031 彩筆伝承 079 裁雲記 103 杜氏(とうじ) 123 李茵(リ・イン)の湖 137 尺波(せきは) 163 音楽家 181 解説 254
オーストラリアで暮らす16歳の少女アンナは、三人きょうだいの長女で、思春期の妹と幼い弟がいる。香港で生まれ育った両親は、幼かったアンナを連れてオーストラリアに移住したものの、母親は異国での暮らしになじめず、部屋に引きこもることが増えていく。中華料理店を営む父親は、妻のそんな状態から目を背け、仕事を逃げ場にして夜も帰宅せず、家のことは長女に任せきり。アンナは両親の教えを守って常に家族を最優先に考え、家事をこなしたり弟の面倒をみたりと、知らず知らずのうちに“ヤングケアラー”の立場にたたされ…オーストラリアの独立系書店の書店員が選出する賞インディ・ブック・アワーズ2020ブック・オブ・ザ・イヤー(YA部門)受賞作!
少年マーティンは両親の離婚に伴い、父の住むロンドンと母の住むパリを行き来しながら成長する。ある日、マーティンは父に連れられて行った撮影現場でプロデューサーの目に留まる。世界的大ベストセラーの映画化で主役になれるのか?だが、最終セッションで、もう一人の少年が主役に選ばれてしまうー。居場所が見つからなかったマーティンの希望は潰え、いやでもライバルの栄光を見続けることになる。マーティンは人生を棒に振ってしまったのか?
ジュディス・ポッツは77歳。ロンドン郊外マーローの古びた邸宅に独り住まいで幸せな日々を送っている。まわりには、仕事やウィスキーの量に口をさしはさむ人などおらず、退屈しのぎに「タイムズ」紙向けのクロスワード・パズルを考案している。ある夜、テムズ川で泳いでいると、ジュディスは残忍な殺人を目撃してしまう。地元警察は彼女の話を信じず、ジュディスは自ら事件の調査に乗り出すと決め、ドッグ・ウォーカーのスージーと、司祭の妻であるベックスを仲間に加え、「マーロー殺人クラブ」が誕生する。別の死体が現れたとき、3人は自分たちの行動範囲に連続殺人犯がいることに気づく。3人が解こうとしたパズルは、逃れることができない罠となるー。
Lの運動靴を最大限修復するか。最小限の保存処理だけですませるか。何もせずに放っておくか。レプリカを作るか。何もしない修復もやはり、修復のうちに入る。分析だけして何の治療もしないことも。-物質と記憶をめぐる物語。
「普済にもうじき雨が降るぞ」そう言い残して失踪した父、心をざわめかせる謎の男の登場、琥珀の眼を持つ金の蝉…。外の世界には、自分の知らない無数の奥深い秘密があるが、みんな口を閉じて、自分には何ひとつ漏らそうとしない。-秀米は世の中の全てにいらだっていた。茅盾文学賞・華語文学メディア大賞受賞作。
●カフカなど海外文学の影響を受けて、夢と現実、常識と非常識、正気と狂気、さらには生と死の境界を超越して人の世の不確実性を描き、そのあたらしさと実験性をもって、中国文壇で「先鋒派」と呼ばれた余華。ノーベル文学賞の候補として常にその名が挙げられている余華の長篇代表作。『雨に呼ぶ声』『活きる』『血を売る男』に続く長篇作品として四作目。中国では2005年に上巻、2006年に下巻が刊行され、たちまちのうちに話題沸騰、世界的ベストセラーとなった。日本では2008年に単行本、2010年に文庫本が、それぞれ「文革篇」「開放経済篇」として文藝春秋より刊行され、その後長く入手困難となっていた。「現代中国を知るための必読書」としてファンのあいだで伝説になっていた本書が、このたび、上下巻を一冊にまとめて復刊! ●(帯:コピー)したたかでたくましく、一途で愛おしく、下品で猥雑な、極上の物語 ●(帯:推薦文より)余華は予定調和をひっくり返していく。読者が泣けると期待した場面で怒らせ、笑った次の瞬間に慄然とさせ、下劣さに眉をひそめるエピソードの結末で感動の涙を流させるーー。(by篠田節子) ●(日本語版あとがきより)長い間ずっと、こんな作品を書きたいと考えていました。極端な悲劇と極端な喜劇が一緒くたになった作品を。なぜかといえば、この四十年あまり、我々の生活はまさに極端から極端に向かうものだったからです。(余華) ●(あとがきより)これは二つの時代が出会って生まれた小説である。前者は文革中の物語で、狂気じみた、本能が抑圧された痛ましい運命の時代。ヨーロッパにおける中世にあたる話である。後者は現在の物語で、倫理が覆され、こんにちのヨーロッパよりもはるかに極端な欲望のままに浮ついた、生きとし生けるものたちの時代の話である。西洋人が四百年かけて経験してきた天と地ほどの差のある二つの時代を、中国人はたった四十年で経験してしまった。四百年間の動揺と変化が四十年の中に濃縮された、非常に貴重な経験である。この二つの時代を結ぶ紐帯(ちゅうたい)はふたりの兄弟である。(余華) ●(解説より)『兄弟』は、並の作家なら、「国家と社会に翻弄されつつ、なおかつ失わぬ家族愛と絆」という浪花節にまとめるところを、竜巻のように上昇し暴走するストーリーと過剰な文章表現と登場人物の性格設定によって、土俗神話的な壮大な世界を作り上げた。一見通俗的な物語の底から、時代や体制を超えた人間の不変的で普遍的な真実を浮かび上がらせた傑作と言える。(by 篠田節子) ●(物語の概要)父親を亡くした李光頭(リー・グアントウ)と母親を亡くした宋鋼(ソン・ガン)が、片親同士の再婚によって義理の兄弟となったあと、それぞれの人生をどう歩んだかを描く物語。文革篇は兄弟の少年時代。地主出身という理由で父親は身柄を拘束され、母親は病気で入院し、わずか8〜9歳だった兄弟は、飢えに苦しみながらも助… 文革篇(一章〜二十六章) 開放経済篇(一章〜五十章) エピローグ あとがき(余 華)/日本語版あとがき(余 華)/訳者あとがき(泉 京鹿)/解説(篠田 節子)
●カフカなど海外文学の影響を受けて、夢と現実、常識と非常識、正気と狂気、さらには生と死の境界を超越して人の世の不確実性を描き、そのあたらしさと実験性をもって、中国文壇で「先鋒派」と呼ばれた余華。ノーベル文学賞の候補として常にその名が挙げられる余華の、先鋒派時代の最後を締めくくる作品にして、はじめての長篇。ファンのあいだで長く邦訳が待たれていた幻の名作。 ●(帯:推薦文より)善人がひとりも出てこないのに、しみじみ泣けるのはなぜだろう。残酷なのにあたたかい。余華の語りは名人芸だ。(by中島京子) ●(翻訳者の解説より)キーワードは「回想」「虚構」「記憶」「過去」だろうか。虚構の人物に作者の魂が乗り移り、時間と空間を超越したところに不思議なリアリティーが生まれた。それが読者の心に響くから、この長篇第一作に支持が集まるのだろう。(by飯塚 容) ● (中国国内の論評より) すぐれた「心の自伝」である『雨に呼ぶ声』は、虚心坦懐に幼年時代の怪しい行動と心の秘密をすべて記述している。これは、とても正直な人生の告白である。初めての戦慄、拙劣な欲望、身の置きどころを失った少年、奇妙な幻想、拒絶できない恐怖、理由のない罪悪感……狂乱に満ちた少年の心理が余すところなく描かれている(by陳 暁明) ●(物語の概要)1960〜70年代の中国。主人公の幼児期から青年期までの記憶を辿る物語。 主人公 孫光林(スン・グアンリン) は南門(ナンメン)という貧しい村に三人兄弟の次男として生まれ、六歳で、町に住む子どものいない夫婦のもとへ養子に出される。幼少期を町で過ごし、十二歳のとき、養父の死によってふたたび村に戻ってくるが、この間の不在が、彼を実家の家族から孤立させてしまう。そのため、主人公は、思春期を孤独で内省的な少年として過ごし、成長していくことになる。 全編、主人公のモノローグ。綾なす糸のようにとりとめなく記憶の表出を交錯させつつ、物語は秩序なく紡がれていく。周囲の人々が繰り広げるなまなましい憎悪、暴力、嫉妬、性愛……。主人公自身の幼児期の記憶、性の目覚め、自分につながる家族の歴史……。 プリミティブで、情動のままに生きるエネルギッシュな周囲の人々。それらが巻き起こす、ろくでもなく、凄絶で、真摯で、ときにばかばかしく、哀れで、ユーモラスで、そして愛すべき事件の数々。ある人はあっけなく、ある人はしぶとく死んでいく。まさにそれが人生であるというかのように。 第一章 南門/婚礼/死/出生 第二章 友情/戦慄/蘇宇の死/年下の友人 第三章 はるか昔/残り少ない命/消失/父を打ち負かした祖父 第四章 威嚇/放棄/無実の罪/南門に帰る 『雨に呼ふ声』日本語版刊行によせて 余 華 解説 飯塚 容