出版社 : アストラハウス
シャーマニズム色濃い街で繰り広げられる魂の交流と不条理な茶番劇。(『ハリネズミ』)。鬱屈した若者の愛憎の相剋が起こす吹雪の街の奇譚。(『モンテカルロ食人記』)。四人で五つの良い目を持つ家族三代の人生と愛、そして一つのミステリー。(『森の中の林』)。第1回「匿名作家計画」最優秀賞。「ハリネズミ」が原作の映画『刺猬』で上海国際映画祭最優秀脚本賞受賞。
ー父は、いつかの風の音、いつかの戦争、いつかの飛んでいってしまった鳥、いつかの大雪、いつかの生きなくてはという意志、それらが集まってどうにか一個の塊になっている匿名の存在。父の内面に抑え込まれたまま表現することもならず、わだかまって語られなかったことどもー。過酷な現代史の渦が残した傷を負い、それでも生き抜いた名もなき父の物語。
1911年、“モナ・リザ”は盗まれ、2年間行方不明だった。“彼”はなぜ盗み、そして返したのか?あの“モナ・リザ”は、贋作か、否か?ルークは、謎の追跡者に殺される前に“曽祖父の真実”を見つけなければならないー。画家で美術史家の主人公、フィレンツェで出会った女性、インターポールの捜査官、美術品贋作者、億万長者のコレクター…。過去と現在が交錯するなか、濃やかな人間模様が描かれ、エキサイティングなアクションシーンが展開する。フィレンツェ、パリ、南仏プロヴァンスの村の描写も魅力的な、アート・ミステリの真髄。
いよいよ決行のときが来た。貯水池に着くと、アルフレッドはノアと一緒にためらうことなく囚人服を脱ぎ、ドボンと水に飛び込んだ。ああ神様、なんて素晴らしいんだろう…。僕たちはまだ人間なんだ、と自分に言い聞かせる。「ノア、僕たちはこうして泳ぐことで、まだちゃんと感情がある人間なんだということを証明した。単なる番号ではないんだ」その夜、収容者たちはこのとんでもない冒険についての詳細を聞きたがった。まるで脱走劇を聞くような気持ちになっただろう。もしくは、世界の果てへの冒険旅行だ。
一九六六年のある寒い夜、ボルヘスは汽船の甲板に立ち、海に向けて一枚の硬貨を抛った。-『夜の潜水艦』僕は、この鍵はUSBメモリで、家はまだ完全な状態でこのメモリの中に保存されているだけなのだと想像した。-『竹峰寺鍵と碑の物語』奇妙なペンは、液状のオーロラで満たした試験管のようでもあった。-『彩筆伝承』僕の日常業務は雲の剪定やメンテナンス、広告の印刷、剪定所の運営維持だ。-『裁雲記』しなやかな始まり、雄大な続き、玄妙な転換、そして虚無の終わり。-『杜氏』変な感じがする、と彼女は言った。ちょっと感動するし、とても「ちゅんとする」ような気もする。-『李茵の湖』隕鉄は夜空の星屑だから、夜空そのものを煮つめた液体で焼き入れをしなければならない。-『尺波』彼の内心の聴覚はとても強く、楽譜を読みさえすれば音符の奥底に潜むイメージを見ることができた。-『音楽家』
オーストラリアで暮らす16歳の少女アンナは、三人きょうだいの長女で、思春期の妹と幼い弟がいる。香港で生まれ育った両親は、幼かったアンナを連れてオーストラリアに移住したものの、母親は異国での暮らしになじめず、部屋に引きこもることが増えていく。中華料理店を営む父親は、妻のそんな状態から目を背け、仕事を逃げ場にして夜も帰宅せず、家のことは長女に任せきり。アンナは両親の教えを守って常に家族を最優先に考え、家事をこなしたり弟の面倒をみたりと、知らず知らずのうちに“ヤングケアラー”の立場にたたされ…オーストラリアの独立系書店の書店員が選出する賞インディ・ブック・アワーズ2020ブック・オブ・ザ・イヤー(YA部門)受賞作!
少年マーティンは両親の離婚に伴い、父の住むロンドンと母の住むパリを行き来しながら成長する。ある日、マーティンは父に連れられて行った撮影現場でプロデューサーの目に留まる。世界的大ベストセラーの映画化で主役になれるのか?だが、最終セッションで、もう一人の少年が主役に選ばれてしまうー。居場所が見つからなかったマーティンの希望は潰え、いやでもライバルの栄光を見続けることになる。マーティンは人生を棒に振ってしまったのか?
ジュディス・ポッツは77歳。ロンドン郊外マーローの古びた邸宅に独り住まいで幸せな日々を送っている。まわりには、仕事やウィスキーの量に口をさしはさむ人などおらず、退屈しのぎに「タイムズ」紙向けのクロスワード・パズルを考案している。ある夜、テムズ川で泳いでいると、ジュディスは残忍な殺人を目撃してしまう。地元警察は彼女の話を信じず、ジュディスは自ら事件の調査に乗り出すと決め、ドッグ・ウォーカーのスージーと、司祭の妻であるベックスを仲間に加え、「マーロー殺人クラブ」が誕生する。別の死体が現れたとき、3人は自分たちの行動範囲に連続殺人犯がいることに気づく。3人が解こうとしたパズルは、逃れることができない罠となるー。
Lの運動靴を最大限修復するか。最小限の保存処理だけですませるか。何もせずに放っておくか。レプリカを作るか。何もしない修復もやはり、修復のうちに入る。分析だけして何の治療もしないことも。-物質と記憶をめぐる物語。
「普済にもうじき雨が降るぞ」そう言い残して失踪した父、心をざわめかせる謎の男の登場、琥珀の眼を持つ金の蝉…。外の世界には、自分の知らない無数の奥深い秘密があるが、みんな口を閉じて、自分には何ひとつ漏らそうとしない。-秀米は世の中の全てにいらだっていた。茅盾文学賞・華語文学メディア大賞受賞作。