出版社 : サンリオ
「すべての財産を美しい妻クリサに遺す」結婚式の興奮も醒めやらぬ間に急死した夫サイラスの遺言は、クリサにとって青天の霹靂だった。男爵の父の借金の肩がわりを条件に、アメリカの大富豪サイラスと結婚したクリサだったが、父も死んだいま、クリサにとって巨万の富は無用の長物だった。故郷に帰りたい-。すべてを捨て、傷心で、イギリスに向かう船トレーヌ号に乗りこんだクリサに、思いもかけない事件が待ち構えていた。
修道院学校に通う16歳の娘トリスタは、ものごころついたときから、実は義兄のフェルナンドにひかれていた。しかし、そんなトリスタの気持ちを見透かすように、多感な友人、マリー=クレアはかれと婚約してしまう。ふたりの挙式も間近になったある日のこと、伯母の家で、トリスタは突然フェルナンドに襲われる。トリスタの母に恋していたかれは、その恨みを義妹のトリスタではらそうというのだ。ウォントン-多情な女。母はそうだった。しかし、わたしは-激しい拒絶に、かれは引き下がるが、その様子を見つめるひとりの男がいた。
フランスで外科医となったトリスタは、カリフォルニアに向けて船上の人となった。それも女性客を嫌う船長の目をくらますために男装をして-。ある夜、男装をといて甲板に出たトリスタは、忘れられない人、ブレイズと再会する。思いを振り切るかのようにしたたかに酔い、自ら女性であることを明らかにしてしまったトリスタ。ブレイズはそんな彼女を責めながらも、トリスタは自分の妻だと船長に偽り、男装は浮気のあてつけだったとかばうのだった。その証しのために、ついにふたりは結婚式をする。それが悪夢の始まりだとも知らずに-。
ロッキー山脈に抱かれた町バスティッド・フラッド。カントリーミュージックのスーパースターだったエンジェルは、いまは、酒場の女主人だった。さて、店を閉めることにしよう。そう思いドアの方を見ると、そこには見慣れない男が立っていた。豊かな髪。野性的な体つき。惹かれる心を押さえ、無視しようとすると、「仕方がないな…」男はつぶやくと同時にエンジェルを肩に担ぎ上げ-。
新聞に載っている写真に、ジャズは驚いた。イーサン・ワイルディング。ボストンの名門出身の銀行家。私を泥棒とまちがえた男-。非行少年カウンセラーをしているジャズは、腹を立てていた。まったく言いがかりもはなはだしい。車のホイールキャップを盗んだ少年をさとし、それを元の場所に戻してあげただけ。それなのに、車の持ち主に泥棒と思われてしまうなんて。後日、こんな相手に再び会うことになるとは夢にも思わなかった。
オスカー伯爵の従兄弟と名乗るジャーヴィス。実は彼は、伯爵の財産や爵位をねらっているらしい。伯爵に呪いをかける秘密の儀式を偶然見かけ、ドリナの胸は締めつけられた。ジャーヴィスの策略によって愛する伯爵を見殺しにすることはできない。「愛は奇跡を起こすの」と言った亡き母の声に勇気を得て、ドリナは伯爵のもとに急いだ。
フロリダ-輝く太陽と青い海。ベス・ファラデーは潮風に顔を撫でられながら朝の日差しを浴びていた。「やあ、ベス」近づいてくるヨットから声をかけられて、ベスは一瞬息をのんだ。ギブ・マクラーレン!黒髪にエメラルド色の瞳、たくましい体躯。5年前、苦悩の底で、手を差しのべてくれたのは、まさしく、彼ギブだった。ベスの心に、苦しい想い出とともに懐しさがよみがえり…。
「地方検事候補のフランクリン・ウェイドです。どうぞよろしくお願いします」動物愛護運動をすすめるアリーは、その深みのある声に振り返った。豊かな金髪に、あふれんばかりの笑顔。この人なら、私たちの運動に協力してくれるにちがいないわ。アリーの目は輝いた。
伯爵の父を持つライナは、結婚によって爵位を得ようとするヘクター卿の執拗な求愛から逃れ、ひとりロンドンに向かった。職を求めるライナは、キティ・バーチントンの侍女としてパリの舞踏会へ行く仕事を得た。しかし、その仕事の裏には意外な事実が隠されていた。
1876年、ニューメキシコのベイヤード砦。騎兵隊中佐ステファンの妻、ハンナは軍人の妻たちの間でもその毅然とした美しさは際立っていた。しかしハンナはいま好奇と蔑みの眼に耐えながら生きていた。というのも数ヶ月前、アパッチに襲われ、捉われの身となっていたのだ。無事帰りついたものの、夫のステファンですら妻の醜聞を何とか隠そうとしつつ、「いったい、この女は何人のアパッチと…」とハンナを疑いの眼で見るのだった。2人の溝は日増しに深くなるばかりだが、そんな彼女に、いつしか心の支えとなっていったのは、騎兵隊のキャプテン、カッターだった。
25歳の美しい未亡人、ロイアル・バナーの船は、ブラジルに向かっていた。夫を亡くして間もない彼女だったが、自由への夢と希望に、胸はときめいていた。愛のない、みじめな結婚生活は終わったのだ。解放的な気持ちのまま、途中、リオの祭マルディ・グラーに行ったロイアルは、魅力的な男セバスチャンと、たちまち意気投合し、危険な誘惑と知りながらも、激しい抱擁に身をまかせてしまう。一夜かぎりのことと割り切ったつもりだったが、再びセバスチャンと顔を合わせることになろうとは。
オランダ人貿易商の養女、レンは18歳になったばかり。魅力的な男マルコームに、生まれてはじめての熱い思いを抱き、両親に結婚の許しを乞う。しかし、両親の反応は冷たかった。父リーガンは、海の旅から帰ったばかりの息子カレブに、レンの気を誘い、ひとときの恋の迷いから覚まして欲しいともちかけるのだった。両親の裏切りを知ったレンは、家をとび出し、愛するマルコームの許に走るのだが…。
レンが青春を賭けて愛した人、マルコームは財産めあての冷血漢だった。心も体も傷つき、自分の愚かさに打ちのめされたレンは、義兄カレブの船「シーサイレン号」に乗りこみ、懐しい故郷をあとにする。新大陸アメリカへ向かう船上で、レンを優しく労わるのは、かつての憎い人、カレブその人だった。逞ましい海の男に、次第にレンは心魅かれていくのだが…。執念の虜となったマルコーム、恋敵のセーラと共に、ふたりの運命をのせて、船は大西洋の荒波をわたっていく。
ニューヨークのクリスマス・イブ。セントラル・パークは降りしきる雪におおわれ、静かなたたずまいを見せるが、いったん視線を通りに移すと、そこにはイブの興奪に湧きたつ巷がある。家族が、友人が、恋人たちが、愛と希望を抱いて微笑みかわす-そんな夜に、ひとりで街を歩いて車にはねられ、病院に収容された女がいた。女の身元が判明したとき、看護婦は驚きのあまり声も出なかった。有名な女流作家のダフネ・フィールズだったのだ。もっと驚いたことに、ダフネのもとに駆けつける人は誰もいなかった。家族も、友人も、恋人も-。うわ言で「マシュー、アンドリュー」とふたりの男性の名を呼ぶダフネ。物語は過去と現在をむすんで、ダフネの謎の私生活を綴っていく。