出版社 : サンリオ
1876年、ニューメキシコのベイヤード砦。騎兵隊中佐ステファンの妻、ハンナは軍人の妻たちの間でもその毅然とした美しさは際立っていた。しかしハンナはいま好奇と蔑みの眼に耐えながら生きていた。というのも数ヶ月前、アパッチに襲われ、捉われの身となっていたのだ。無事帰りついたものの、夫のステファンですら妻の醜聞を何とか隠そうとしつつ、「いったい、この女は何人のアパッチと…」とハンナを疑いの眼で見るのだった。2人の溝は日増しに深くなるばかりだが、そんな彼女に、いつしか心の支えとなっていったのは、騎兵隊のキャプテン、カッターだった。
25歳の美しい未亡人、ロイアル・バナーの船は、ブラジルに向かっていた。夫を亡くして間もない彼女だったが、自由への夢と希望に、胸はときめいていた。愛のない、みじめな結婚生活は終わったのだ。解放的な気持ちのまま、途中、リオの祭マルディ・グラーに行ったロイアルは、魅力的な男セバスチャンと、たちまち意気投合し、危険な誘惑と知りながらも、激しい抱擁に身をまかせてしまう。一夜かぎりのことと割り切ったつもりだったが、再びセバスチャンと顔を合わせることになろうとは。
オランダ人貿易商の養女、レンは18歳になったばかり。魅力的な男マルコームに、生まれてはじめての熱い思いを抱き、両親に結婚の許しを乞う。しかし、両親の反応は冷たかった。父リーガンは、海の旅から帰ったばかりの息子カレブに、レンの気を誘い、ひとときの恋の迷いから覚まして欲しいともちかけるのだった。両親の裏切りを知ったレンは、家をとび出し、愛するマルコームの許に走るのだが…。
レンが青春を賭けて愛した人、マルコームは財産めあての冷血漢だった。心も体も傷つき、自分の愚かさに打ちのめされたレンは、義兄カレブの船「シーサイレン号」に乗りこみ、懐しい故郷をあとにする。新大陸アメリカへ向かう船上で、レンを優しく労わるのは、かつての憎い人、カレブその人だった。逞ましい海の男に、次第にレンは心魅かれていくのだが…。執念の虜となったマルコーム、恋敵のセーラと共に、ふたりの運命をのせて、船は大西洋の荒波をわたっていく。
ニューヨークのクリスマス・イブ。セントラル・パークは降りしきる雪におおわれ、静かなたたずまいを見せるが、いったん視線を通りに移すと、そこにはイブの興奪に湧きたつ巷がある。家族が、友人が、恋人たちが、愛と希望を抱いて微笑みかわす-そんな夜に、ひとりで街を歩いて車にはねられ、病院に収容された女がいた。女の身元が判明したとき、看護婦は驚きのあまり声も出なかった。有名な女流作家のダフネ・フィールズだったのだ。もっと驚いたことに、ダフネのもとに駆けつける人は誰もいなかった。家族も、友人も、恋人も-。うわ言で「マシュー、アンドリュー」とふたりの男性の名を呼ぶダフネ。物語は過去と現在をむすんで、ダフネの謎の私生活を綴っていく。
「この封筒を預かったんだけど…」講師斡旋会社の副社長サブリーナは、ほっとして男に手を差し出した。よかった!間違えた封筒を取り返せて。それにしても、何と魅力的な男だろう。引き込まれそうな瞳に、官能的な唇。そう、大物ビジネスコンサルタントで大ベストセラーを出した全米一有名な男、ドルー・ダールトンだ!呆然とするサブリーナをドルーは夕食に誘ったが…。
ロンドンからニューヨークに向かう船の中で、ジェイムズはシャンパンを片手にひとときの孤独を満喫していた。ふと気がつくと、確かに閉めてあった窓があいているではないか。かすかな足音が聞こえてくる。もしかしたら、乗船以来さわぎになっている宝石どろぼうかもしれない。恐怖に凍りついてしまった頭を持ち上げると、そこには、みごとな金髪の妖精が立っていた。
「おまえを第五代ゴールストン公爵に嫁がせる!」父の話はオレサにとって青天のへきれきだった。莫大な財産を相読するはずのアシャースト家のひとり娘だからといっても結婚する相手は自分で決めたい-。そこで、父の決めた相手がどんな男性か自分の目で確かめることにしたオレサは、図書室の目録作りを依頼された司書の娘になりすまして公爵の屋敷にのりこんだが…。
スイスの名門女学校に通うコーデリアは、卒業を目前にしたある日、学友たちと森へ出かけた。メイドから不思議な伝説を聞かされたからだ。「狩猟月のころ、“ピルチャーの峰”に行くと、未来の夫に逢える」という-。はたして、ひとりの青年があらわれた。この人が、わたしの夫となる人なのだろうか…。やがて卒業した彼女は、イギリスへ帰る船上で、再びその青年と出逢う。胸をときめかせるコーデリアに、エドワードと名乗り再会を約したにもかかわらず、かれは2度と彼女の前に姿をあらわすことはなかった。かれは、20年も前にすでに死んだ男だったのだ。
イギリスの名門女学校の教師になったコーデリアは、その土地の領主ジェイソンに愛され、プロポーズを受けた。しかし、かれは数々のいまわしいスキャンダルにつつまれている男だ。心を惹かれながらも、コーデリアは、かれに近づくまいと決意するのだった。そんなおり、女学校では奇妙な事件があいついだ。生徒の突然の失跡、その妹の原因不明の病気…、真相をつきとめようとするコーデリアは、ついに驚くべき事実につき当たる。すべては、コーデリアが、かつて“狩猟月”のころ、森の中で出逢った不思議な出来事に端を発しているのだった。
ブルーの瞳に、黒いまつ毛。8年ぶりに会うブラッドは、以前にも増して輝いている。しかい、キャサリンの胸は重かった。父から会社を受け継いだキャサリンは、立派に社長業をこなしていたが、父は決定的な遺言を残していた。それは、彼女が1年以内に結婚しなければ、社長の地位を追われるというものだ。「私と結婚して」やっとの想いでささやいたキャサリンに待っていた答えは-。
マージは、さっそうと歩く男の姿に目を見はった。トレース・ウォーカーとの2年ぶりの再会である。マージは、精神科医としての立場から、心惹かれる気持ちを抑えようとしたが目の前に現れたトレースの魅力には、どうすることもできなかった。求め合う2人…しかしその間には、トレースの別れた妻ゲイラの姿があった。ゲイラは、自由の生活を求め、狂言自殺をはかったのだ。4人の子の幸せのため、なんとか離婚はくい止めようとしていたトレースの姿を、マージは今も、ぬぐい去ることができなかった。
「きみにそっくりだ」プラドー美術館に飾られた聖母マリアの絵を前にしてしかも、姉のヘルミオネが結婚を望んでいる相手のシルバーラ伯爵が口にした言葉はヴァレーダを不思議な気分にさせた…。娘の家庭教師として素性を偽り、スペイン訪問に同行してほしい-という姉のヘルミオネの頼みをききいれはしたものの、静かな田舎の暮らしとはまるで違うスペインの日々はヴァレーダには驚くことばかりだった。
1870年、アメリカはゴールドラッシュにわきかえっていた。メキシコの大牧場主の娘サマンサは友人の兄エイドリアンとの初めての恋にときめかせていた。けれど肝心のかれは、そんなサマンサの心を無視するかのように、にえきらない態度をとりつづける。いらだつサマンサは、ある日駅馬車の中でかれの気持ちを試そうとする。乗りあわせたハンサムな男ハンクの気をひいて、エイドリアンの嫉妬心をかきたてようというのだ。ところが、その思いは見事に裏切られる-ハンクに純潔を奪われたあげく、エイドリアンはホモだと知らされたのだ。
折しも、父の牧場は正体不明の盗賊たちにくり返し襲われていた。恋人を失い、傷心の日々をおくるサマンサは、気晴らしに遠乗りに出かける。と、その時を待っていたかのように、突如サマンサの前に現われた盗賊たちは、抵抗する彼女を、かれらのアジトに掠奪していく。そのボスは何とハンクであった。恋人の秘密を暴き、彼女をあざわらうように強引に奪った男、いつか必ず復讐をと誓った憎いかれに、今は人質という屈辱の身で再会するとは-。恐怖にふるえるサマンサに、しかしハンクは、なぜか優しく、いつしか彼女の憎しみも揺らぎはじめるのだが。
政治家への野望を抱く弁護士の夫、クレイグとの結婚生活は、危機にあった。アンは、自由な女になりたかったのだ。ブロードウェイの大スター、キャロルに頼まれたちょっとした芝居の代役がもとで、俳優のウエッブと出会ったアンは、この危険な、しかし魅力的な男に、はじめて大人の女の喜びを知らされた。やがてパリで、トップモデルになったアンに、映画出演の話がもちこまれる。相手役は、なんとあのゴシップと謎にみちみちたウエッブ、その人だった。
映画の撮影が、モンタレーでクランクインした。それも、母親が溺死した悲しい思い出のあるアンの別荘で-。ウエップに“大人の女になる”魔法をかけられたアンだったが、かれのスキャンダラスな過去への不信はつのっていくばかりだった。そんなある日、本番のカメラの前で、思わずナイフを握りかれを刺してしまう。政界、財界、映画界を舞台に、華麗なひとびとのしかける罠に、いつしかアンも巻きこまれていくのだった。
サンフランシスコのとある病院で、キルシーは今まさにパイを投げつけようとしていた。といっても、これは笑い療法という治療法のひとつで、コメディアンのキルシーは患者を笑わせるのが仕事なのだ。と、相棒に命中するはずのパイが、突然ドアを開けて入ってきた男の顔面に…。慌てて謝るキルシーと、クリームをぬぐう男の目が合った。天才物理学者とキュートなコメディ・ガール、2人の胸の鼓動は高鳴り出した。