出版社 : 作品社
「あの、人間って、どんなものですか?」 ギリシア神話に登場する女神で魔女のキルケ。愛する者を守り、自分らしく生きようとする、遠くて近い一人の女性として、今、語り直されるーー。世界的な注目を集める作家による魔法のような物語。 女性小説賞 最終候補作 太陽神ヘリオスと女神ペルセの間に生まれたキルケ。父のように力があるわけではなく、母のように美しくもなく、人間のような声を持つ。きょうだいにいじめられ、周りからは除け者にされるキルケは、しだいに神の世界よりも人間の世界に惹かれていく。ただ、彼女は〈魔法〉を使うことができる。その力を警戒する神々によってアイアイア島に追放されるのだが、そこで人間のオデュッセウスと恋に落ちる──。 ホメロスの『オデュッセイア』を反転し、女神であり、魔女であり、そして一人の女性であるキルケの視点からギリシア神話の世界を再話する、魔法のような物語。女性小説賞最終候補作、「ガーディアン」ほか各紙でブック・オブ・ザ・イヤーに選出。 キルケ(Circe)とは アイアイア島にすむ魔女。太陽神ヘリオスとニュンペのペルセの間に生まれた。名前の由来は、「タカ」または「ハヤブサ」と思われる。『オデュッセイア』では、オデュッセウスの部下たちを豚に変えるが、オデュッセウスに挑まれると、彼を恋人にし、部下ともども島に滞在することを許し、彼らが再び出発するときには援助をする。キルケは長きにわたって文学の題材とされ、オウィディウス、ジェイムズ・ジョイス、ユードラ・ウェルティ、マーガレット・アトウッドといった作家にインスピレーションを与えた。 ーー本書「登場人物解説」より
足尾銅山鉱毒事件の被害を受けた渡良瀬に生まれ、38歳で満州の地に没した逸見猶吉。 “日本のランボー”と称された夭逝の詩人の生涯を描く、書き下ろし長編小説。 彼は二十三歳の時に、詩誌『学校』に連作詩「ウルトラマリン」の第一部「報告」を寄稿し、ついで第二部「兇牙利的」、さらに第三部「死ト現象」を合わせて『学校詩集』に発表した。(…)真っ先に第一部「報告」を目にした草野心平は、「あの詩を読んだ時私は寒気がした。私は感動で震えた。その当時あれ程私を驚かした詩はほかになかった」と言い、また当時『新詩論』を出していて、自らも独自の美学を詩に確立するべく身を削っていた吉田一穂は、「この詩は青天に歯を剝く狼のような不穏な熱情を感じさせる、氷の歯をもったテロリストだ」と絶賛した。その他にも、猶吉の詩からまるで電流に触れたような衝撃を受けたと言う詩人が次々と出はじめた。--本書より 第一章 青春 第二章 満州 第三章 和田日出吉 第四章 隣人 第五章 鎮火 参考文献 あとがき
洒脱にして剣呑、静謐にして囂囂たる、“僕”と“おじさん”と“おじいさん”の夢幻の如き日々は、どこに辿り着くのか。 ランボー、アルトー、ジュネ、ヴィアンの翻訳者が満を持して放つ、破格の書き下ろし長編小説! 僕の家にはおじいさんとおじさんがいて、僕がお世話になっているところや知り合いのお店なんかにとつぜん出没しては、わざと迷惑をかけたりして僕に恥をかかせるのだが、どこかに忠実な間諜がいて、そいつが連絡でもしているみたいに絶妙のタイミングで現れるので、よけいに腹が立って仕方がない。あっちは二人だから、いつもこちらは多勢に無勢みたいな気がするし、彼らはむやみに嵩高いのだ。いつか手押しリヤカーに二人を乗せて夜のメリケン波止場から暗い海に突き落としてやろうと思っている。(…)確かなことは、僕がいつまでたっても三人のなかで一番年下だということだし、何を隠そう、この劣等感をぬぐうことができず、自分でも情けなくなることがある。子供の頃から、僕はできるだけ早く歳をとりたかった。さすがにいきなり皺だらけのじじいになるのは嫌だったけれど、いつまでたっても子供モドキでいることに耐えられなかった。(本書より) 第一章 日誌 第二章 廃址
第一次大戦後の英国。国民を知力でランク分けするという大胆な政策を打ち出す脳務省に務めるキティは、脳務大臣のニコラスと密かに愛を育んでいたが、脳務省の権力が増大していく中、二人の愛は迷走する…百年の時を経て蘇ったフェミニスト・ディストピア小説!
自らの祖先に関心を寄せ、島を調査に訪れる大学人フェルサン。 彼と同じ血脈の末裔に連なる、浮浪者同然に暮らす男ドードー。 そして数多の生者たち、亡霊たち、絶滅鳥らの木霊する声……。 父祖の地モーリシャス島を舞台とする、ライフワークの最新作。 ノーベル文学賞作家の新たな代表作! ぼくは帰ってきた。これは奇妙な感情だ、モーリシャスにはこれまで一度も来たことがないのだから。見知らぬ国にこうした痛切な印象を持つのはどうしてか。父は、十七歳で島を離れて以来、一度も戻ったことがない。(…)父は戦後母と出会い、二人は結婚した。父は故国を離れた移住者、今で言う「一族離散(ディアスポラ)」による移住者だった。(「砂嚢の石」より) アルマ。この名はごく小さいときから言える。ママ、アルマと言う。ママとはアルテミジアのこと。母さん(ママン)のことはよく覚えていない。母さんはおれが六つのときに死んだ。(…)意地の悪い奴らは、母さんがよそへ行けばよいと思っている、レユニオン島生まれのクレオールで、分厚い縮れた髪をしているからだ。(「おれの名はドードー」より) 主な登場人物 フェルセン家略系図 モーリシャス島略図 序に代えて、人名 おれの名はドードー ゾベイード 砂囊の石 ラ・マール・オ・ソーンジュ ラ・ルイーズ クリスタル アルマ マヤ クレーヴ・クール マカベ ラルモニー エムリーヌ トプシーの話 クリスタル ……ドードー…… 森のなかで ポンポネット 洗足式 クリスタル(続) ある賭け マリ=マドレーヌ・マエの身の上話 パリ 罠 アディティ アショクの身の上話 ドードーは旅する レ・マール ある結婚式 幽霊 サクラヴーの身の上話 ブラ・ドー トカゲ 預言者 刑務所のクリスタル ディティの誕生 最後の旅 南へ 海 二つの家 楽園最後の日々 おれは名無しだ 変わり者、終章に代えて 参考文献、証言、教示など 感謝を込めて 訳註 訳者あとがき
ハリウッドで書かれたあまりにも早い遺作、著者の遺稿を再現した版からの初邦訳。映画界を舞台にした、初訳三作を含む短編四作品、西海岸から妻や娘、仲間たちに送った書簡二十四通を併録。最晩年のフィッツジェラルドを知る最良の一冊、日本オリジナル編集! (…)本書に収めた「監督のお気に入り」、「最後のキス」、「体温」の三作など、フィッツジェラルドはハリウッドを舞台にした短編の執筆を試みている。これらは生前出版されなかったが、並行して一九三九年秋から長編『ラスト・タイクーン』を書き始め、短編で扱った素材を長編のほうに投入している。この久々の長編に対して彼がいかに情熱を傾けていたかも、手紙を通して伝わってくるだろう。なにしろ“あの”フィッツジェラルドが酒を断って取り組んでいたのだ。 本書は、このように手紙から彼のハリウッドでの生活をたどりつつ、その生活から生まれ出た作品を味わえるように構成されている。(「編訳者解説」より) ラスト・タイクーン ハリウッド短編集 クレージー・サンデー 監督のお気に入り 最後のキス 体温 ハリウッドからの手紙 スコッティ・フィッツジェラルド宛 一九三七年七月 テッド・パラモア宛 一九三七年十月二十四日 ジョゼフ・マンキーウィッツ宛 一九三八年一月二十日 ハロルド・オーバー宛 一九三八年二月九日 デヴィッド・O・セルズニック宛 一九三九年一月十日 ケネス・リッタウアー宛 一九三九年九月二十九日 シーラ・グレアム宛 一九三九年十二月二日 マックスウェル・パーキンズ宛 一九四〇年五月二十日 ゼルダ・フィッツジェラルド宛 一九四〇年七月二十九日 ジェラルド&セアラ・マーフィ宛 一九四〇年夏 (ほか全24通) 編訳者解説
養父カエサルを継いで地中海世界を統一し、ローマ帝国初代皇帝となった男。世界史に名を刻む英傑ではなく、苦悩するひとりの人間としてのその生涯と、彼を取り巻いた人々の姿を稠密に描く歴史長篇。『ストーナー』で世界中に静かな熱狂を巻き起こした著者の遺作にして、全米図書賞受賞の最高傑作。資料を読み込み、調査を進めるかたわら、その車でイタリア各地はもちろん、ローマ時代にマケドニア属州であったトルコやユーゴスラビア、さらにギリシャの島々も訪れた。登場人物たちが生きた土地の「空気感を味わいたかった」のだという。(…)それはみごとに成功した。読者は史実がわかっていてもなお、彼らの“いま”を感じ、登場人物のひとりひとりが胸にいだく希望や不安や恐れを身近に感じることができるのだ。しかしそれも、背景が生き生きと描写されているからこそ可能なのだろう。物語全体がひとつの生き物のように、圧倒的なスケールとパワーをもって息づいている。(「訳者あとがき」より)
全米批評家協会賞 小説部門受賞作! 異郷に暮らしながら、故国を想いつづける人びとの、愛と喪失の物語。 四半世紀にわたり、アメリカ文学の中心で、ひとりの移民女性としてリリカルで静謐な物語をつむぐ、ハイチ系作家の最新作品集、その円熟の境地。 「記念日というのは、この本の地震についての話「贈り物」のアニカとトマスの物語からもわかるように、ときにつらいものです。 悲しい記念日は、かつて存在した人や物の不在を大きく膨らませます。この本に収めた短編小説の多くは不在についてのものですが、愛についてのものでもあります。ロマンティックな愛、家族の愛、国への愛、そして他のタイプの厄介で複雑な愛などです。私はその物語の筋をここで明かしたくはありません。それはぜひ、どうぞ、みなさんご自身で見つけだしてください。 ここにあるのは、八つのーー願わくは読者の方々にとって魅力的なーー短編小説です。 私は今、みなさんを、いくつかの独自(ユニーク)な、愛に突き動かされた冒険(アドベンチャー)へと喜んでお迎えいたします。」--エドウィージ・ダンティカ「日本の読者への手紙」より 日本の読者への手紙 エドウィージ・ダンティカ ドーサ 外されたひとり 昔は ポルトープランスの特別な結婚 贈り物 熱気球 日は昇り、日は沈み 七つの物語 審査なくして 訳者あとがき
だれしもが読み終えるのが惜しい気持ちにさせられるーー植島啓司氏感嘆! 摂食障害に罹り、心療内科に通う人びとと、懊悩する医師の来し方、行く末。人類の、文明の、宗教の、そして病の起源を辿る思索の旅。現役の心療内科医が描き出す、瞠目の書き下ろし小説。 「心療内科医として精神病院に勤務する医師と二人の女性(由美、理恵)をめぐる長いオデッセイはいよいよクライマックスを迎えようとしている。著者の治療体験、該博な知識、フィールドワークに支えられた本書は、次第に神話的想像力によってシリアの一都市アスカロンの大地母神の神殿にまで大きく展開されたわけだが、ここでみごとな結末に至る。途中に挿入される小谷の幻視というか、妄想というか、聖書の詩篇のようなパートは美しい。だれしもが読み終えるのが惜しい気持ちにさせられるのではないか。」--植島啓司(宗教人類学) 第一部 彷徨 魂の彷徨/東方病院/起源への旅/その後/新垣という男/姉のスカートの下/サルタヒコ/大山教団/妄想の意味/栄治の葛藤/小谷の夢と葛藤/パテオ/和子との対話/小谷の感情の変化/由美との問答/大山の使命/多重人格/観音との対話/小谷の来歴/その場所にて/亮の決心 第二部 邂逅 そもそもの物語の始まり/ある日いにしえ/黄泉とあなぐら/光一の絵/一神教と抽象画/約束の子/そもそも理恵と亮は/エリッサとウラニア/再び観音と/ミソルの末裔/オットー・グロースの恋/ウイグル/シュメール/アラブの律法/ヘロドトスの世界/フェニキア/スキタイ/ウラニア・アプロディーテ/白い浜辺にて/廃墟にて/受け継ぐ者たち
全米図書賞受賞作!アメリカ南部で困難を生き抜く家族の絆の物語であり、臓腑に響く力強いロードノヴェルでありながら、生者ならぬものが跳梁するマジックリアリズム的手法がちりばめられた、壮大で美しく澄みわたる叙事詩。現代アメリカ文学を代表する、傑作長篇小説。「胸が締めつけられる。ジェスミン・ウォードの最新作は、いまなお葬り去ることのできないアメリカの悪夢の心臓部を深くえぐる」--マーガレット・アトウッド「トニ・モリスンの『ビラヴド』を想起させる痛烈でタイムリーな小説。しかもこの作品自体がすでにアメリカ文学のクラシックの域に達している」--「ニューヨーク・タイムズ」書評家が選ぶトップ・ブックス2017「まさしくフォークナーの領域だ。ウォードの最新作は現実世界の複雑な状況を背負った人びとにより肉づけされ、ぞっとするほど魅力的に仕上がっている」--「タイムズ」
1936年、アルジェ。21歳の若さで書店“真の富”を開業し、自らの名を冠した出版社を起こしてアルベール・カミュを世に送り出した男、エドモン・シャルロ。第二次大戦とアルジェリア独立戦争のうねりに翻弄された、実在の出版人の実り豊かな人生と苦難の経営を叙情豊かに描き出す、傑作長編小説。ゴンクール賞、ルノドー賞候補、“高校生のルノドー賞”受賞!
長崎から神戸、京都、箱根、東京、そして日光へ。 東洋文化への深い理解と、美しきもの、弱きものへの慈しみの眼差しを湛えた、ときに厳しくも温かい、五か月間の日本紀行。 写真70点収録! 春はいまだ寒い。樟はその艶のある葉を震わせている。その葉を摘み、われわれは樟脳の香を確かめる。細く美しいーー日本のーー笹は、けば立ち少し波うったような、すこぶる長いダチョウの羽のように、束になって地面に密生し、岩の上に飾り物のような姿を見せている。藤ーーオランダ語で「青い雨」--は、いまだ黙したままだ。一世紀の間、身をよじらせてきた幹は、さらに螺旋を描いて伸び、その枝を蔓棚や東屋の棚に蛇のように絡ませ、最初の一葉、またそれが花房となるのを待ちながら裸身を晒している。そして、身を切るような風の中、今年初めての桃の花は、紫色に、身震いする小枝の間で、まき散らされ吹き飛ばされるかのごとく、幽く寒さに震えている。(…)それから、たいてい傍らに庭石を飾りに添えた盆栽のある庭がある。そしてわれわれにお辞儀をする女性たちは艶やかな髪を結い上げ、干し物をしている。(本書より) 序章 中国 第一章 長崎 第二章 長崎から神戸、京都へ 第三章 日本史入門 第四章 御所 第五章 桜の季節 第六章 黄金のパビリオン 第七章 木々 第八章 城 第九章 寺院 第十章 入院 第十一章 民間信仰 第十二章 病床 第十三章 スポーツ 第十四章 横浜へ 第十五章 箱根 第十六章 雨の憂鬱 第十七章 東洋美術 第十八章 『不如帰』 第十九章 詩心 第二十章 東京 第二十一章 泉岳寺 第二十二章 日光へ 第二十三章 自然の美 第二十四章 東照宮と地蔵 第二十五章 慈悲の糸 第二十六章 能舞台 第二十七章 文字 第二十八章 不夜城 第二十九章 錦絵 第三十章 帰郷 訳者あとがき
1945年、うちの両親は、犯罪者かもしれない 男ふたりの手に僕らをゆだねて姿を消したーー 母の秘密を追い、政府機関の任務に就くナサニエル。母たちはどこで何をしていたのか。周囲を取り巻く謎の人物と不穏な空気の陰に何があったのか。人生を賭して、彼は探る。あまりにもスリリングであまりにも美しい長編小説。 ときおり、テムズ川の北の掘割や運河で過ごしたときのことを、ほかの人に委ねてみたい気持ちになる。自分たちに何が起こっていたかを理解するために。それまで僕はずっと匿われるように暮らしていた。だが、今では両親から切り離されて、まわりの何もかもを貪るようになった。母がどこで何をしていようと、不思議に充足した気持ちだった。たとえ真相が僕たちには隠されていたとしても。 ブロムリーのジャズクラブでアグネスと踊った晩のことを思い出す。〈ホワイト・ハート〉という店だった。混んだダンスフロアにいると、隅のほうにちらっと母が見えた気がした。振り返ったが、もう消えていた。その瞬間に僕がつかんだのは、興味をあらわにした顔がこちらを見ている、ぼんやりした映像だけだった。(本書より) 第一部 見知らぬ人だらけのテーブル 第二部 受け継ぐこと 母との暮らし 屋根の上の少年 塀に囲まれた庭 謝辞 訳者あとがき
リドリー・スコット製作総指揮 キーラ・ナイトレイ主演 映画原作小説! 1946年、破壊された街、ハンブルク。 男と女の、少年と少女の、そして失われた家族の、 真実の愛への物語。 かつての敵国の再建にやってきたイギリス軍のモーガン大佐と、その妻レイチェル、息子エドモンド。屋敷を接収され、モーガン家と同居するルベルト氏と娘フリーダ。そして瓦礫の街をうろつく不良少年たち。互いに反発しあい、惹かれあう人びとのたどりつく先はーー。
謎に満ちた前半生はいかなるものだったのか。なぜ謀叛を起こし、信長を葬り去ったのか。そして本能寺の変後は……。超豪華作家陣の想像力が炸裂する、傑作歴史小説アンソロジー! 2020年NHK大河ドラマ『麒麟がくる』視聴者必読! 菊池寛「明智光秀」 八切止夫「明智光秀」 新田次郎「明智光秀の母」 岡本綺堂「明智光秀」 滝口康彦「ときは今」 篠田達明「明智光秀の眼鏡」 南條範夫「光秀と二人の友」 柴田錬三郎「本能寺」「明智光秀について」 小林恭二「光秀謀叛」 正宗白鳥「光秀と紹巴」 山田風太郎「明智太閤」 山岡荘八「生きていた光秀」 末國善己「解説」
翻訳も、解説も、訳注もほぼ完璧である。この作品を読まずに、もはや文学は語れない。自信をもってそう断言できることの至福の喜び……。--蓮實重彦 膨大な知の言説(ディスクール)の引用がおりなす反=小説(アンチ・ロマン)の極北が、詳細な注によってその全貌が初めて明らかに! フローベール自身は、この小説のテーマは「科学における方法の欠如について」であり、「近代のあらゆる思想を点検する」のがその野心だと述べている。これをあえて現代的なタームで言い換えてみると、十九世紀の知の言説が形づくる灰色のアーカイブに潜在的に含まれている喜劇の可能性を現勢化したのが、『ブヴァールとペキュシェ』という書物だということになろうか。……フローベールが千五百冊あまりもの本を読み、それについて逐一ノートを取りつつ、そこから拾い上げた「思想のコミック」を小説という形式にふさわしく練り上げたのが、「一種の笑劇風の批評的百科事典」なのだといってよい。それ故、ブヴァールとペキュシェの演じる一見珍妙な悲喜劇が、十九世紀という時代の直面した認識論的な諸問題を深くえぐり出していることは、実は何ら驚くべきことではない。--本書「解説」より
バロネス・オルツィの「隅の老人」、オースティン・フリーマンの「ソーンダイク博士」と並ぶ、あまりにも有名な“シャーロック・ホームズのライバル”。本邦初訳16篇、単行本初収録6篇! 初出紙誌の挿絵120点超を収録! 著者生前の単行本未収録作品は、すべて初出紙誌から翻訳! 初出紙誌と単行本の異同も詳細に記録!シリーズ50篇を全二巻に完全収録!詳細な訳者解説付。 隅の老人シリーズは、一作を除いて全作品が単行本に収録されているのに比べ、思考機械は多くの作品が単行本未収録のまま、作品数がどれだけあるかもはっきりしない時代が長かった。今回全作品を収録するとともに、作品数を確定し、版による異同も確認をした。おそらく、英米で出回っている思考機械の書籍よりも詳しい内容だろう。 思考機械シリーズは、フットレルの生前に短篇集が二冊、長篇が一冊、一篇のみを収録した本の計四冊が単行本になっているが、はるかに単行本未収録作品のほうが多い。現在海外では数種類の「思考機械全集」が出版されているが、ほとんどは出典が明示されておらず、また解説もないといっても過言ではない。本書では(…)初出雑誌に当たった。単行本に収録されている場合はそちらを決定稿とみなし、それらと雑誌初出時との異同を指摘した。また、生前に単行本未収録の作品は、雑誌初出版を決定稿とした。さらに、作品によっては入手したイギリスでの雑誌初出版との違いがあるので、その場合には、それも指摘している。またメイ夫人の協力のもと、二十世紀半ばの「エラリー・クイーンズ・ミステリ・マガジン」に数篇が掲載されたが、これらとの異同も確認した。(平山雄一「訳者解説」より) 【第一巻内容目次】十三号独房の問題/ラルストン銀行強盗事件/燃え上がる幽霊/大型自動車の謎/百万長者の赤ん坊ブレークちゃん、誘拐される/アトリエの謎/赤い糸/「記憶を失った男」の奇妙な事件/黄金の短剣の謎/命にかかわる暗号/絞殺/思考機械/楽屋「A」号室/黄金の皿を追って/モーターボート/紐切れ/水晶占い師/ロズウェル家のティアラ/行方不明のラジウム/訳者解説【第二巻内容目次】オペラボックス/失われたネックレス/嫉妬する心/完璧なアリバイ/幽霊自動車/呪われた鉦/茶色の上着/にやにや笑う神像/余分な指/偉大な論理家との初めての出会い/紐の結び目/絵はがきの謎/盗まれたルーベンス/三着のオーバーコート/オルガン弾きの謎/隠された百万ドル/タクシーの謎/コンパートメント客室の謎/バツ印の謎/女の幽霊の謎/銀の箱/囚人九十七号/空き家の謎/赤いバラの謎/消えた男/壊れたブレスレット/妨害された無線の謎/救命いかだの悲劇/無線で五百万/科学的殺人犯人/泥棒カラス/巨大なスーツケースの謎/訳者解説
バロネス・オルツィの「隅の老人」、オースティン・フリーマンの「ソーンダイク博士」と並ぶ、あまりにも有名な“シャーロック・ホームズのライバル”。本邦初訳16篇、単行本初収録6篇! 初出紙誌の挿絵120点超を収録! 著者生前の単行本未収録作品は、すべて初出紙誌から翻訳! 初出紙誌と単行本の異同も詳細に記録! シリーズ50篇を全二巻に完全収録! 詳細な訳者解説付。 隅の老人シリーズは、一作を除いて全作品が単行本に収録されているのに比べ、思考機械は多くの作品が単行本未収録のまま、作品数がどれだけあるかもはっきりしない時代が長かった。今回全作品を収録するとともに、作品数を確定し、版による異同も確認をした。おそらく、英米で出回っている思考機械の書籍よりも詳しい内容だろう。 思考機械シリーズは、フットレルの生前に短篇集が二冊、長篇が一冊、一篇のみを収録した本の計四冊が単行本になっているが、はるかに単行本未収録作品のほうが多い。現在海外では数種類の「思考機械全集」が出版されているが、ほとんどは出典が明示されておらず、また解説もないといっても過言ではない。本書では(…)初出雑誌に当たった。単行本に収録されている場合はそちらを決定稿とみなし、それらと雑誌初出時との異同を指摘した。また、生前に単行本未収録の作品は、雑誌初出版を決定稿とした。さらに、作品によっては入手したイギリスでの雑誌初出版との違いがあるので、その場合には、それも指摘している。またメイ夫人の協力のもと、二十世紀半ばの「エラリー・クイーンズ・ミステリ・マガジン」に数篇が掲載されたが、これらとの異同も確認した。(平山雄一「訳者解説」より) 【第一巻内容目次】 十三号独房の問題/ラルストン銀行強盗事件/燃え上がる幽霊/大型自動車の謎/百万長者の赤ん坊ブレークちゃん、誘拐される/アトリエの謎/赤い糸/「記憶を失った男」の奇妙な事件/黄金の短剣の謎/命にかかわる暗号/絞殺/思考機械/楽屋「A」号室/黄金の皿を追って/モーターボート/紐切れ/水晶占い師/ロズウェル家のティアラ/行方不明のラジウム/訳者解説 【第二巻内容目次】 オペラボックス/失われたネックレス/嫉妬する心/完璧なアリバイ/幽霊自動車/呪われた鉦/茶色の上着/にやにや笑う神像/余分な指/偉大な論理家との初めての出会い/紐の結び目/絵はがきの謎/盗まれたルーベンス/三着のオーバーコート/オルガン弾きの謎/隠された百万ドル/タクシーの謎/コンパートメント客室の謎/バツ印の謎/女の幽霊の謎/銀の箱/囚人九十七号/空き家の謎/赤いバラの謎/消えた男/壊れたブレスレット/妨害された無線の謎/救命いかだの悲劇/無線で五百万/科学的殺人犯人/泥棒カラス/巨大なスーツケースの謎/訳者解説