出版社 : 小学館
母に捨てられ、有名な詩人だった父・洋之助が亡くなってからは祖母に虐待されて育った嫩(ふたば)。結婚後も夜な夜な暴力を振るう夫に悩まされ続け、やっと別れることができてほっとしたところに、父の知人・岸上太郎が訪ねてきた。「軽いエッセイや小説でも。いや、そんなことより洋之助の思い出を書いてみなさい。…君なら書ける」詩人萩原朔太郎の長女・葉子の実体験をもとにした自伝的小説で、『蕁麻の家』『閉ざされた庭』に続く三部作の完結編。三部作全体のあとがきとして書かれた『歳月ー父・朔太郎への手紙』も収録。
ー世間というものはおそろしいな…庭をちょっと作り変えれば、どこかおかしいと思われるし、他愛のない絵を描けば変態扱いか…そういう自分たちの、どこが正常だと思ってやがるんだろうー定年前後の男たちが、庭の作りかえや裸婦画、プラモデル作りなどに熱中するが、周囲にはまるで理解してもらえない悲哀を描いた「積木あそび」、ナイフやフォークを持つときに相手が小指を立てていたという一事で見合いが流れてしまう「小指」、病気で倒れたお偉いさんのため、好物だという鰻を熱々の状態で届けたが、どんでん返しに遭う「鰻」などなど、中高年の悲喜劇17篇を収録した名作短篇集。
綺麗な着物を着せたる。道楽者の父の言葉に誘われて、十二歳だった私は、気がつけば大阪で舞妓見習いをしていた。それからは苦界を生きて、生きて、生き抜いた。十四の時に切り落として旦那に突きつけた小指は、いつの間にか遠い過去になっていたー。芸妓、社長夫人、映画女優を経て、38歳で出家。明治から昭和を走り抜けた、ある女性の流転の日々。
ダイナゼノン、グリッドナイト、ゴルドバーン、全員の力を合わせた超合体竜王・カイゼルグリッドナイトは、その圧倒的な力で強敵怪獣・ギブゾーグを撃破。束の間の平和が訪れる。だが、その裏では不穏な何かが胎動を始めていたー。ある日の朝、麻中蓬がガウマと出会うと、彼は何故か蓬の名前を覚えておらず、まるで初対面かのような素振りを見せる。そして、南夢芽もまた蓬と初めて会話した時と同じ言葉を繰り返した。蓬は自分がタイムスリップでもしてしまったのではないかと混乱する。その直後、全く未知の怪獣が街に出現。戸惑いながらも再びダイナゼノンに搭乗し、戦いを繰り広げる蓬だったが、その時彼は、見たことのない色をした謎のダイナソルジャーを手にしていることに気付く。それは、不可思議な日常とさらなる死闘の幕開けだった。
“ジャパニーズアイ”は右目が黒くなるだけのクズスキル。荷運者のリオは、自分のスキルをそう思い込んでいた。しかしある日、勝手に能力が発動してしまい、誰も見向きもしないハズレアイテムに不思議な文字が浮かぶ。「“味噌”…って、なに?」試しにそれを使ってみると、野菜の煮汁が美味しい味噌汁に!更に、この味噌汁がきっかけでS級冒険者のパーティーに誘われ、人類の危機にも大活躍!?カレー、ちゃんこ、豚汁。これは、どこかで見たことのある料理で奮闘する、頑張り屋な少女の物語。
ピアノとハーモニカの音色をBGMに、庄野ワールドが展開。「函館みやげ」「せきれい」「胚芽パン」「ハーモニカ」「玄関の花」「夏の思い出」…。晩年を迎えた作者夫婦の日常を、テンポよく場面を転換しながら綴る日記エッセイ風長編小説。ピアノのレッスンに通う作者の妻がブルグミュラーの練習曲「せきれい」に手間取っていること、お土産にもらった缶のカレーがおいしかったこと、作者が毎晩吹いているハーモニカの話、庭に埋めた肥料を猫が掘り起こして食べようとしていたので懲らしめようと思ったが逃げられたこと、子どもや孫たちとの交流などなど、きわめてささやかな話題が、庄野作品らしい温かいタッチで丹念に描かれる。
左翼運動後の虚無感を描いた“転向文学”の名作。「僕なんぞ因循で自分ながら厭になる、英語の本屋に毎日勤めているんだけど、つまらない、つまらないと言いながらいつの間にか年とって死んでゆくのかと、時折考えて、くらーい気持になって了うんですよ」-小関の虚無的な気持、待てよ、それは俺のものでもある、同時に俺たちと同時代の青年の大半が現在陥っている暗さだー旧制高校時代、マルキシズムに傾倒していた小関健児と篠原辰也。一方は現在、安月給の雑誌社勤め、もう一方は羽振りのいい金持ちの息子と境遇は大きく違うが、ともに“転向”による虚無感を抱えながら生きていたー。著者自身の体験に基づいた“転向文学”の傑作で、第1回芥川賞候補作。
売れないお笑い芸人・保美と孤独な老人・賢造が漫才デビュー。常識外れな賢造のボケと保美のツッコミが高齢化社会も生きづらさも吹っ飛ばす!笑いと涙の痛快芸人小説誕生。
大手新聞社を定年退職した夜、連れて行かれたショーパブで一人の女性と出会った鮎子。アサミと名乗る彼女はショーの演出を手がける立場で、出演ダンサーのオーディションを近々行うという。そのオーディションに立ち会って欲しいと、鮎子はなぜか頼み込まれる。禁断の出会いをきっかけにアサミに翻弄される鮎子。新宿、浅草、バリ島を舞台に、アサミに心身をとりこまれた先に体験したのは、想像を絶する「宴」だったーようこそ、世にもおぞましい“美食”の狂宴へ。
詩人や小説家として活躍し、数々の名作を世に送り出した伊藤整。その小樽高等商業学校時代から、卒業して中学の英語教師になり、東京商科大学(一橋大学の前身)に入学する頃までの、恋愛、同人誌創刊、詩作、若い作家たちとの交流などを生き生きと描写した一冊。小林多喜二、川崎愛(左川ちか)、北川冬彦、梶井基次郎らが実名で登場し、著者の詩にかける意気込みとともに、当時の詩壇の様子が垣間見える好著。
「森男を蒔子に近づける。…二人は現在でも抑制しつつ愛し合っている。その抑制を或る程度外してやれば、二人は近接し、密着し、融けあうだろう。」学生の岩永森男は、父の代から杉原産業の庇護を受けており、当主・康方とは親戚同然の間柄だった。しかし森男は、康方の若い妻・蒔子が気になって仕方がない。蒔子も森男を憎からず思っているらしい。一方で蒔子は、康方の先妻の存在に心を痛めていた。そこで康方は、蒔子を苦しめた自分への罰として、森男と蒔子の接近を甘受しようとする…。屈折し倒錯した三人の心理劇を見事に描き切った、第20回野間文芸賞受賞作品。
「お前にやりたいものがあるー四人のヒーロー。四つのラウンド」1986年春、マスターズでJ・ニクラウスが伝説の勝利を収める少し前。40歳のランディは、テネシー川の橋から飛びおりようとしていた。そんな彼の前にかつて共に夢を追った親友の幽霊が現れ、贈り物をするという。それは、あのレジェンドたちとの不思議なゴルフレッスンだったーもう一度人生が愛おしくなる、大人のためのファンタジー。
レクトと選抜生徒は『合同合宿』のため侯爵領へ!しかし、アリスたちの前に侯爵領教習所の天才エリーゼが立ちはだかる!彼女一人に歯が立たず圧倒されるアリス達。さらにアリスとエリーゼの恋のバトルも勃発!?理想と現実の間で迷い、時にぶつかる生徒達を、レクトはさらなる高みへ導くー人類最強の英雄によるレッスン第2幕!
小田原の私娼街「抹香町」の芸者とのつかず離れずの関係を描いた「捨猫」、著者のファンとして訪ねてきた人妻との淫靡な駆け引きを綴った「火遊び」など、著者が交情を重ねた相手とのエピソード8篇に、師と仰ぐ徳田秋声にまつわる女性の話「小説 徳田秋声」など全10篇を収録。私小説作家・川崎長太郎、愁眉の短篇集。
「晋!お前のお父つあんやぞ。お前のお父つあんが、美代に子産ませよつたんやぞ。」あまり家業に熱心ではない近江商人の主人・藤村治右衛門と、正反対な性格の弟・真吾、そして、治右衛門の義子・晋。真吾が密かに心を寄せ、晋の母親がわりを務めていた女子衆の一人・美代が、治右衛門の子を死産し精神を病んでしまう。やがて真吾に結婚話が持ち上がったとき、断固として首を縦に振らない裏には、美代の一件によるわだかまりがあったー。商家に生まれた著者が、その体験から描く「商店もの」三部作の第一作にして、第1回芥川賞の候補にもなった名作。